48.『業務委託契約』でも労働者?

労働時間・休日規制の 例外1
       そもそも労働者でない  続き

 今回は、請負・委任等の『業務委託契約』の場合を考える。
 

⑦ 業務委託

 業務委託については、仕事の完成・業務の遂行を目的とした、自由な私人間の契約であり、雇用関係にはない(従って労働者ではない)。
 

・業務委託の3つの場合

 ここで『業務委託』とは、『請負』・『委任』・『準委任』という言葉の総称とされる。
 この3つは、それぞれ次の違いがある。

請負   当事者の一方が相手方に対して仕事の完成を約し、
     他方がその仕事の完成に対して報酬を支払うことを約する契約

委任   当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、
     相手方がこれを承諾した契約

準委任  当事者の一方が法律行為以外の事務を相手方に委託し、
     相手方がこれを承諾した契約
 

・実態が雇用関係なら労働者

 ただ、いくら請負や委任の契約をしていてもいても、実態として雇用関係があれば、それらの契約は自動的に『雇用契約』とみなされる。

 ここで誤解されやすいのは、
     『業務委託でも実態として雇用関係があれば例外として労働者とみなす』
のではなく、

 『業務委託だと思っていても実態として雇用関係があれば労働者であり、業務委託ではない

ということだ。
 いくら『請負契約』・『委任契約』等の契約をしていても、実態として雇用関係がある場合は、それらの契約は自動的に『雇用契約』とみなされる。

 『給与の一策46.事業主の隣の息子は労働者』で書いたように、たとえば取締役がその労働実態から『労働者』と認められることはある。その場合は取締役を解任させられるわけではなく、単に例外として認められるだけだが、この場合はそれとはわけが違う。
 

『業務委託』が否定される場合

 だから、業務委託する場合は、徹底的に『雇用関係』と見なされる要素を排除しておく必要がある。『業務委託』の名目で働いている方も、次の項目に当てはまれば『労働者性が強い』と判断され、『業務委託』でなくなる可能性もある。

1)『使用従属性』

㋐ 仕事の依頼・業務の指示等に対する諾否の自由がない。
㋑ 業務遂行上の指揮命令を受けている。
㋒ 勤務場所・勤務時間の拘束を受けている。
㋓ 他の人に代わってやってもらう自由がない。
㋔ 報酬の性格が、一定時間労務を提供することへの対価と判断される。

2)補強要素

㋐ 機械・器具(特に高価なもの)を、請負った人が負担していない
㋑ 同様な作業をする労働者より、報酬が著しく高額ではない
㋒ 他社の業務への従事が制約されるか事実上困難であり、専属性がある。
㋓ その他
    ・採用・委託の際の選考過程が従業員とほぼ同様
    ・報酬について、給与所得として源泉徴収している
    ・労働保険料の適用対象としている
    ・服務規律を適用している
    ・退職金制度・福利厚生を適用している
 

 実際には、上記のうち1つでも当てはまれば『労働者』認定されるわけではないが、このうち いくつ当てはまれば労働者! という分かりやすい基準もない。どっちつかずの場合は裁判でもめることが多いパターンでもある。
 

裁判所の判断の一例


 判例については、一部を抜き書きすると認識を誤ることがある。ネットでも書籍でも広く公開されているのでそちらを参照していただいた方が良いが、いくつか紹介する。あくまで『参考』として見てほしい。
 

・パンフレット配布員

 マニュアルにより詳細で具体的な配布方法を指示され、募集の際、時間当たりの最低保証額を記載するなど時間給的な計算を考慮。配布は私用車を使うが、移動代の支給を受ける。一方、報酬は歩合給であり、採用・選考過程は労働者と別で、就業規則の適用もなかった。(2008.02.28東京地裁)     ➡  労働者

・保険勧誘員

 ミーティング参加や日報作成が義務付けられ、勤務時間も定められ、委託元の事業者が専属代理店となっている生保会社以外の保険契約の取扱いが禁止され、専属的に業務を行っており、給与所得の源泉徴収票を交付されていた。報酬は完全歩合給で、私用車・私用PCを使用。(2013.07.17大阪地裁)   ➡  労働者

・大工

 所定の作業時間はあったが、現場監督に連絡すれば時間を調整したり休んだりでき、工法や作業手順は自分で選択でき、就業規則の適用はなく、他の仕事も禁じられず、報酬は出来高払で元請の労働者より相当高額であり、私物の大工道具一式で作業を行っていた。
(2007.06.28最高裁)      ➡  業務委託
 

業務委託契約者を労災認定

 
 通販大手アマゾンの下請運送会社と業務委託契約していた60代の男性配達員が2022年9月、配送途中で外階段から落ちて腰骨を骨折した事故について、横須賀労働基準監督署は23年9月26日、50日分の休業補償給付の支給を決定した。

 これはすなわち男性配達員が、会社と業務委託の関係にあるのではなく雇用関係にある労働基準法上の労働者であることを認めたもので、当人同士がいかなる『契約』をしていても、労働者であるかどうかは実態で判断されることの実例として意義深い。
 

どっちつかずは危険

 いざ大きな事故があって、『やはりこの人は労働者でした』となると、その補償やら一般向け説明やら大変なことになるので、リスクを避けるためには、労働者性を払拭(ふっしょく)しておくか、それがムリなら初めから雇用契約を結んでおくべきだろう。
 どっちつかずは最も危険だ。

 あと、しばらく前に問題になった『偽装請負』の問題は、その労働者の身分が、請負業者の普通の労働者なのか、『請負業者』から派遣された、より規制の強い派遣労働者なのかという問題であり、決して小さな問題ではないが、どちらにしても最低限労働者としての権利は守られ、労働者性の問題はない。

 

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※ 訂正です。

『大工』4行目
 労働者  ➡  業務委託       '23.05.03
『業務委託』が否定される場合 20行目
『労働』認定 ➡ 『労働者』認定
どっちつかずは危険 1行目
その保障 ➡ その補償         '23.05.09

・メインタイトル変更しました。
『業務委託』なら労働者ではない。が、➡『業務委託契約』でも労働者? '23.05.09

※ '23.9.26横須賀労働基準監督署長の労災認定を追加 '23.10.06

・『業務委託の3つの場合』
9行目以降、表現を変更しました。 '24.04.30

 

 

2023年05月02日