毎年5月下旬から6月上旬、ほとんどの事業所に2つの書類が届けられる。
1つは労働局から届く『労働保険料(等)申告書』で、もう1つは年金事務所から届く『算定基礎届』。どちらも〆切は7月10日だ。
『労働保険料(等)申告書』には前年度の労働者の賃金を月別に書く『算定基礎賃金集計表』というのがついている。また『算定基礎届』には、役員も含めて当年4月~6月の給与を書くことになっている。
こういったとき、《『○月分の給与』ってどの給与?》と思うかもしれない。
○月分の給与とは
普通は、
給与〆日の存在する月の賃金計算期間の働きに対する給与を、その『月分の給与』
という。
たとえば、5月1日から31日までの労働の分であれば、その対価が支払われる日(支給日)が5月20日であろうと5月末日であろうと6月10日であろうと6月末日であろうと『5月分の給与』だ。
また、毎月15日が〆日であれば、4月16日から5月15日までの賃金計算期間に『発生した』給与であれば、支給日が5月25日でも6月5日でも『5月分の給与』になる。
一度でも離職票を書いたことやもらったことのある方や労災保険の休業補償給付を申請したことのある方なら分かる通り、労働保険関係はこの通りの扱い方になる。
・ 当月払いと翌月払い
この場合、〆日が15日で支給日がその月末など、〆日と支給日が同じ月であれば『当月払い』。〆日が15日や月末で支給日が翌5日や10日等、〆日の翌月に支給日がある場合を『翌月払い』という。
当月払いの方が早く給与をもらえるイメージがあるが、10日〆の月末払いなら『当月払い』で月末〆の翌5日払いなら『翌月払い』なので、イメージ通りには行かない場合も多い。
・ 社会保険・所得税関係は支給日基準
ただ、狭義の(労災・雇用以外の)社会保険の場合には、『その月に支給された給与』をその月分の給与という言い方をすることもある(多くの給与ソフトでも、デフォルトでそういう設定になっている)。
個人の所得税もその年に得た課税収入を基にするので、そのもとになる『源泉徴収簿』という書類にも当然月ごとに支給された給与が書かれることになる。
この場合『○月支給の給与』と言ってくれれば誤解の余地はないが、『○月支給の給与』をもって『○月分の給与』という方もいる(というよりは、その方にとってはそれが『普通』な)ので混乱が生じる。
さらに、ある弁護士の先生の書籍では『ある月の月末を含む賃金計算期間』分の給与を『その月分の給与』としているものもある。無論それなりの根拠があってのこととは思うが、これはさすがに他で聞いたことはない。色々書籍を調べていて初めて見つけたものだ。
こうなると、たとえば20日〆・翌5日支給の会社で『5月分の給与』といっても
① 普通に『4月21日~5月20日』の分の給与(6/5払い)
② 社会保険系のように『3月21日~4月20日』の分の給与(5/5払い)
③ 一部にあるらしい『5月21日~6月20日』の分の給与(7/5払い)
のどれなのか、言っている人の立場をはっきりさせなければ分からない。これでは会話が成立しないので実務上は致命的だ。
実は表題の『○月分の給与って、何月分の給与?』も、『あんたの言ってる〝○月分の給与〟って、(私の)一般常識的に言って何月分の給与のこと?』を省略したものだ。
給与は労働の対償
説明が進むと通常話が整理されていくものだが、今回は説明すればするほど混迷の度合が高まってきた。
最初の説明では『普通は、給与〆日の存在する月の賃金計算期間の働きに対する給与』を『その月分の給与』としたが、この『普通』も、筆者の個人的感想にすぎないという可能性もでてきた。
残念ながら?この定義を絶対とする法的根拠はない。そこでこの定義の根拠を考える。
給与(賃金)は労働の対償であることが原則だ。労基法第11条も
この法律(労基法)で賃金とは、、賃金、給料、手当、その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
としている。
労働と賃金との関係はニワトリとタマゴの話とは違って、労働が根源・賃金が結果とハッキリしているのだ。
そのへんの通りすがりの人にカネをばらまいて「さあ、働け!」というわけにはいかない。そんなことをやったら犯罪である。
給与の支給日が〆日より前になるような場合でも、それは労働者と使用者がそういう労働契約を交わしたからだ。労働が前提であることことに変わりはない。
労働によって賃金が発生するのだから、『賃金計算期間』すなわち賃金の発生をもってその日の給与とし、賃金計算期間の『区切り』すなわり〆日をもって『その(〆日の存在する)月分』の給与とするのは自然だろう(と筆者は考える)。
・ 固定給と変動給で支給日が違うとき
中には月給者について、定期的に支払われる給与については末日〆・当月20日払いだが、時間外や法定休日の割増賃金など〆日後でないと確定できない給与については末日〆・翌日20日払いなど、給与の性格によって支払日が常にずれている事業所もある。
この場合は、原則通り『〆日の存在する日の賃金計算期間の労働に対する給与』を○月分の給与とする場合には『○月分』給与の賃金計算期間については全く同じなので問題はない。
つまり、『6月分』給与は、
『6月1日~6月30日』分の固定給与(6月20日払い)と
『6月1日~6月30日』分の割増賃金等変動給与(7月20日払い)
とがあるが、支給日が分かれるだけで基礎となる賃金計算期間は同じだ。
・ 支給日基準だと、賃金計算期間がずれる
しかし②の社会保険系のように『支給月』を『○月分』とする場合には、たとえば『6月分の給与』とは、
『6月1日~6月30日』分の固定給与(6月20日払い)
『5月1日~5月31日』分の変動給与(6月20日払い)
が混在することになる。
ここまでの話でかなり分かって頂けたと思うが、この時期の実際の場面に即して扱い方を説明する。
算定賃金集計表は、〆日ベース
労働保険料等の年度更新に使われる『算定基礎賃金集計表』は労働保険の書類なので、今までくどくど述べたように『〆日のある月の賃金計算期間の労働に対する給与』を『○月分』のところに記載する。
たとえば20日〆・翌月5日支給であれば、(前年)3月21日~4月20日に発生し5月5日に支給された給与を『4月』の欄に記入する。
また上の例のように、月末〆で当月20日に固定給与・翌月20日に変動給与が支給される場合は、4月1日~4月30日に発生し4月20日に支給された固定給と、同期間に発生し、5月20日に支給された変動給をまとめて『4月』の欄に記入することになる。
算定基礎届は、支給日ベース
社会保険料のもととなる『算定基礎届』に記入する給与額は、その会社の〆日に関わらず、支給日の属する歴月に支給された給与を記入する。
したがって、前項のように固定的給与と変動給与の支給日が異なっても迷うことはない。単純にその月内に支給があった金額を記入すればよい。
金額については基本的にはこれだけで簡単明瞭だが、問題は算定基礎届に記載しなければならない『給与計算の基礎日数』だ。
基礎日数については、その給与支払いの基礎となった『賃金計算期間』の基礎日数を記入することになる。
たとえば20日〆・翌月5日払いなら、算定基礎届の『4月』の欄には4月5日に支給されたした金額を書くが、4月の『給与計算の基礎日数』欄には2月21日~3月20日の賃金支払基礎日数を書くことになる。
前項のように、月給者で、固定給と変動給で支給日がずれる場合は、固定給の基礎日数が入ることになる。
上の例のように『月末〆・固定給当月20日払い・変動給翌月20日払い』なら、4月の『基礎日数』は30日だ(欠勤等がない場合)。これはあくまで月給者の場合に限る。
・ 役員報酬の場合
(狭義の)社会保険加入者には個人事業主以外は経営者も入るので、その扱いも書いておく。
といっても会社役員の報酬はその『基礎期間』すべてに対しての報酬なので、月給者と同じ考えで、たとえば上記の20日〆・翌5日払いなら、基礎日数は普通次のようになる
4月 2/21~3/20 28日(閏年なら29日)
5月 3/21~4/20 31日
6月 4/21~5/20 30日