₂₄₃.『派遣先管理台帳』は派遣先の義務



 前回、派遣先責任者の担当業務のところで『派遣先管理台帳』というのが出てきた。

 派遣元ももちろん『派遣元管理台帳』の作成が必要だが、派遣元に関しては会社全体で相当の覚悟があって労働者派遣事業をやっている場合がほとんどだろうから、管理台帳にしてもしっかり専門の勉強をしてから臨んでいることと思う。

 しかし派遣先に関してはそこまで『派遣先としての義務』に頓着(とんちゃく)していない場合もあるようなので、ここでは派遣先の業務としての『派遣先管理台帳』について説明する。
 

派遣先管理台帳が必要となる事業所

 
 派遣先管理台帳の作成・保存が必要となる事業所は『自ら雇用している労働者と派遣された労働者を合わせて6人以上』の事業所だ。つまり『派遣先責任者』の選任が義務となる場合と要件は一緒だ。

 したがって、元々の従業員が5人以上の事業所なら、1人でも派遣労働者を受け入れれば必要となる。元々3人なら派遣労働者が3人以上の場合だ。
 

派遣先管理台帳の必須項目

 
 派遣先管理台帳に必ず記載しなければならないのは次の項目だ。

   派遣労働者の氏名
   派遣元事業主の名称
   派遣元事業主の事業所の名称
   派遣元事業主の事業所の所在地
   業務の種類
   責任の程度(権限の範囲やその程度・役職の有無やある場合はその役職)
   協定対象派遣労働者か否かの別
   無期雇用か有期雇用かの別
   派遣先事業所の名称・就業場所・組織単位
   派遣先事業所の所在地
   派遣元責任者
   派遣先責任者
   就業状況(就業日・始業と就業の時刻・休憩時間)
  ⑭ 苦情処理状況
  ⑮ 教育訓練の日時・内容
  ⑯ 雇用保険・社会保険の被保険者資格取得届の提出の有無
  

 ここで、赤色にした①・⑤・⑩・⑬は、月1回以上派遣元への通知が必要だ。

 また⑦の『協定対象労働者』とは、その派遣労働者の待遇について、派遣元と労働者側との間で労使協定が結ばれている方をいう。
 

労働基準法上の適用との関係

 
 さて、労働者派遣法は労働基準法の特別法といえる。では、労働者派遣法の一般法である労働基準法では、派遣元と派遣先の適用はどうなっているのか。
 

① 派遣先だけが労基法適用となる内容

 
 次の事項については派遣先だけが労働基準法の適用になるので、これらについては派遣元のせいにすることはできない。つまり以下の事項についての労働基準法上の義務が派遣先だけにあることになるので、このリストは重要だ。
 

  ① 公民権行使の保障
  ② 労働時間・休憩・休日
   年少者の労働時間等
   年少者の就業制限・坑内労働の禁止
   妊産婦の労働時間等
   妊産婦の就業制限・坑内業務の就業制限
   育児時価・生理休暇
 

 ①の『公民権行使の保障』は、実際には選挙権の行使・裁判員に選ばれた場合などが中心になるだろう。

 また派遣労働者は基本的に派遣先で働いているので、休日の確保・労働時間の管理なども派遣先の仕事になる。そういうことから②の『労働時間・休憩・休日』についても派遣先だけが義務を負うことになっている。

 ③以下は年少者や母性保護規定になる。

 意外かもしれないが労働者派遣法では年少者を排除する規定は一切ない。ただ年少者については元々労基法上、成年よりも厳しい規制があるので(81.年少者(未成年者)の労働制限82.年少者が就けない業務)、年少者を派遣労働で働かせるのはなかなか難しいかもしれない。

 とにかく派遣先に年少者が来たときには、上記③・④については責任の所在が派遣先にある。

 ここで、派遣法で台帳の作成義務がないごく小規模の事業所であっても、前項の事項は派遣先が責任を持たなければならないので、たとえば出勤簿上の労働時間・休憩・休日についての管理は、しっかりやっておかなければならない。
 

② 派遣先・派遣元がともに労基法適用となる事項

 
 次の事項に関しては、派遣先も派遣元も双方が労基法の適用となる事項で、派遣先としては①よりは少し気が楽かもしれないが、派遣先は派遣先でしっかり責任を持たなければならない。
 

  ① 均等待遇
  ② 強制労働の禁止
  ③ 徒弟の弊害の排除
  ④ 法令要旨の周知義務
  ⑤ 申告による不利益取扱いの禁止
  ⑥ 記録の保存
  ⑦ 報告義務
 

・ 安衛法上の義務も

 
 これ以外に、派遣先に労働安全衛生法上の義務が課せられているものもかなりある。多岐にわたるのでここでは紹介しないが、特に安衛法上の規制が厳しい業種では、しっかり身に付けておくべきだろう。

2025年07月04日