年齢による保険加入要件の変化に伴う保険料変更のタイミングも気を遣うところだ。65才以上で働いている方も増えてきているので、在職中に厚生年金や健康保険脱退となる方も増えてくるだろう。
ここでは、主に給与計算者の視点で、年齢による保険料改定のタイミングについて考えてみたい。
20才の変更はない
たまに聞かれるが、高卒や中卒で20才前から終業している方について、20才到達に伴う保険料徴収の変更はない。
大学生など20才到達時に働いていないなど事業所の社会保険に加入していない場合、国民年金に加入して保険料を支払う必要が生ずるが(₁₅₁.20才の学生は国民年金未納に注意)、事業主に雇用されている場合は18才でも15才でも最初から『社会保険被保険者』だ。
つまりもともと健康保険料・厚生年金保険料を支払っているはずなので、20才到達で何か扱いが変わることはない。
ちなみに、20才前に社会保険の資格を取得した場合には、その時点で『基礎年金番号』が割り振られ、『基礎年金番号通知書』が会社に送付される。
40才 誕生日前日に介護保険加入
保険料は誕生日前日の月分から
40才の誕生日の前日(40才到達日)に、介護保険第2号被保険者となるので、『到達日』の属する月分から介護保険料を控除する。
たとえば、誕生日が11月1日なら10月分から、誕生日が11月2日~30日なら11月分から介護保険料を徴収しなければならない。
これにともなう届出等はない。
65才 誕生日前日に介護保険2号の資格喪失
保険料は、誕生日前日の前月分まで
同様に、65才の誕生日の前日に(65才到達日)に介護保険第1号被保険者となるので、介護保険2号の資格は喪失する。
したがって65才『到達日』の属する月分から、介護保険料は給与から差し引かず、住所地の市区町村に『1号保険料』として各自納付することになる。
ただし64才までの『介護保険第2号被保険者』の保険料に比べ、65才以上の第1号の保険料は通常かなり割高になるので『何かの間違いだと思った!』という感想もよく聞く。可能ならその辺も説明しておいた方が本人のショックも和らぐだろう。
70才 誕生日前日に厚生年金の資格喪失
厚生年金保険料は、誕生日前日の前月分まで
70才の誕生日前日(70才到達日)には厚生年金保険の被保険者資格を喪失する。だから上と同様、誕生日が11月1日なら9月分で、11月2~30日なら10月分で給与からの厚生年金保険料の控除は終了となる。
過去、69才で入社したその月に70才に到達した例があった。ちょうど厚生年金の同月得喪(同じ月に入社・退社した場合)の扱いが変更になった時期で、一応年金事務所に照会した。
このときは担当者が『上』の責任者に相談したようで結構待たされた。結論としてこの場合は、その1ヶ月分の厚生年金保険料を控除・納付しなければならない。
なお健康保険の扱いに変更はないが、70才になると『高齢受給者証』が送付されるので『限度額認定証』は発行されなくなる。
『高齢受給者証』は、これを提示すると70才未満の方が『限度額認定証』を提示したのと同様に、高額療養費を超える窓口負担がなくなる効果がある。
75才 誕生日に健康保険の資格喪失
保険料は、誕生日の前月分まで
75才になると、一部を除きだれでも後期高齢者医療保険制度に加入しなければならなくなるのは皆さんご承知の通り。
かつては75才到達まで社会保険の被保険者であり続けるのはほとんど企業経営者の方だけだったが、今では一般従業員でも在職中に75才を迎える例は少なくない。
ここで介護保険や厚生年金保険と違うのは、健康保険だけは資格喪失日が75歳の誕生日当日(75才到達日の翌日)となることだ。
つまり11月1日生まれでも、11月2~30日生まれの方と同様に10月分の保険料を徴収し、そこで終了となる。
保険徴収の要否がかかっているので、特に1日生まれの方の場合は十分注意した方が良い。
後期高齢者医療保険の資格取得は、誕生日当日
こうなっている理由だが、この元凶は切り替わる『後期高齢者医療保険』の方にある。
『高齢者の医療の確保に関する法律』(以下『高齢者医療確保法』)自体には、その資格取得日は
当該後期高齢者医療広域連合の区域内に住所を有する者(第五十条第二号の認定を受けた者を除く。)が七十五歳に達したとき。(52条1号)
と書いてあることは書いてある。75才に『達したとき』とはすなわち75才の誕生日の前日だ。
しかしどこの『広域連合』の広報を見ても、後期高齢者医療保険の被保険者資格取得日は75才の『誕生日当日』と書いてある。実務的にも、どこの広域連合も、75歳の誕生日以降の方しか被保険者と認めていないようなのだ。
この状態なので、もし74歳以前の健康保険の資格喪失日が厚生年金(70才到達日に資格喪失)のように75才『到達日』と定めてあったら、75才到達当日(誕生日前日)に大ケガとか大手術とかした日には、その日の医療費はどの公的医療保険の網にもかからず10割自腹ということになってしまう。
これでは『国民皆保険』という、日本が世界に誇る数少ない制度が根底から揺らいでしまう。
ただ、全国各地の『広域連合』も、高齢者医療確保法の下に活動しているので、『保険加入日』という重大な点で、この法律に反して勝手に加入日を1日遅らせているわけではない。
・ 高齢者医療確保法は、法律をムシ?
どうやら高齢者医療確保法は、1902年交付・施行の『年齢計算に関する法律』を無視しているようなのだ。
高齢者医療確保法は『年齢計算に関する法律』を適用せず、勝手に(といって語弊があれば『オリジナルティーを発揮して』)誕生日を年齢加算日としている。親分がそうなると、全国の『広域連合』も右にならえとなるのは当然だろう。
これにより、法の空白を生まないためにやむを得ず、健康保険も『年齢計算に関する法律』をムシせざるを得ず、加入期間を1日延ばして75才到達日翌日を『資格喪失日』とせざるを得ない状況になっているのだ。
ちなみに、民間人が『年齢計算に関する法律』を無視して、たとえば数え年で年を数えたりするのは自由。しかし行政が特別法も作らずに法律を無視することの是非については、未だに議論があるようだ。
いずれにしても75才の誕生日前日の方は、すでに75才に到達しているにもかかわらず、『後期高齢者医療保険』ではなく『健康保険』の対象ということになっている。
まとめると…
ここまでをまとめると次のようになる。なお、煩雑になるので以下のように略語を使用しているのでご了承ください。
介保 = 介護保険第2号被保険者資格
誕 = 誕生日
厚年 = 厚生年金保険
健保 = 健康保険
誕生日(例)
年齢 社会保険 加入期間 保険料徴収 11月1日 11月2~30日
40才 介保加入 誕前日から 誕前日の月分から 10月分から 11月分から
65才 介保喪失 誕前々日まで 誕前日の前月分まで 9月分まで 10月分まで
70才 厚年脱退 誕前々日まで 誕前日の前月分まで 9月分まで 10月分まで
75才 健保脱退 誕前日まで 誕の前月分まで 10月分まで 10月分まで
なお、厚生年金保険には、70才以上でも被保険者となることができる特例(₁₅₉.年金受給資格が10年ない!)があるが、それは考慮していないので注意してほしい。