₁₅₉.年金受給資格期間が10年ない!



納付・免除・猶予期間等で10年必要

 
 ここで『資格期間』というのは、老齢年金を受給するために必要な期間のことで、納付期間や免除期間・猶予期間等『未納』以外の期間が最低10年『120ヶ月』必要とされている。

 基準が『10年』なったのは2017年8月で、その前までは25年『300ヶ月』必要だった。かなり要件は緩和されたといえる。ただどこかで説明するが、遺族年金で期間が問われる場合の『25年』要件は変わっていない。
 もちろん新しい資格期間『10年』には、2017年7月以前の期間も入る。

 受給のための資格期間が10年に満たない場合はどうすればいいのか。
 

・ 本当にないのか?

 
 まずは社会保険事務所に照会して、本当に資格期間がそれ以外にないのか探すのが先決だ。特に住所や職場・氏名が何度も変わった方や、年金手帳を何冊も持っているような方は、年金記録が統合されていない可能性があるからだ
 社労士に委任してもいいが、その場合は関係ありそうな資料はすべて持参した方がいい。

 資格期間が微妙なケースではなかったが、2ヶ月の厚生年金期間を発見し、「ほんの短期間のアルバイトだったのに、ちゃんと年金をかけてくれていたんですね…」としみじみ感動していた方もいた。

 あと上で『…猶予期間』と書いたが、『合算対象期間』といって、それ以外にも資格期間に合算できる期間がある。これについては近々述べる。
 

老齢厚生年金も同じく10年

 
 ここで重要なのは、『資格期間』は、基礎年金だけでなく『老齢厚生年金』受給のために必要な期間も同様だということだ。

 つまり、厚生年金に9年11ヶ月加入していて、他の国民年金期間(正確には第1号被保険者期間)はすべて未納で他に何の手立ても取らなかった方は、65才になっても、いつまで待っても、基礎年金はもちろん老齢厚生年金も1円ももらえない。

 これが『資格期間』が10年ある場合なら、厚生年金期間が1ヶ月でも、基礎年金以外に、非常に少ないが老齢厚生年金を手にすることができる。

 よく使われるたとえだが、老齢基礎年金は『基礎』年金というくらいで『1階』部分だ。1階が構築されていないところに2階(老齢厚生年金)を建てようとしても空中楼閣になってしまうのだ。
 

気付くのが早いほど対処は簡単

 
 ただ、この事実に気づくのが早ければ早いほど対処は簡単で、老齢基礎年金も老齢厚生年金も受給できる。
 ここでは、前項の『あと1ヶ月で10年到達!』という場合で説明するが、そこまで極端でない場合も、似たような対処法になるだろう。
 

・ 60才到達直後

 
 60才到達直後に気付いたのなら、59才最後の月分(60才の誕生日の前日の前月分)の保険料はまだ納付期限前なので、急いで納付すれば間に合う。

 
・ 60才・61才

 
 60才・61才で気が付けば、未納部分の保険料の納付や免除の申請は以後2年間可能なので、58才・59才だった月分の保険料を今から納付するか、免除可能な状況だったのなら免除申請して『資格期間10年』を確保することができる。
 

・ 62才~64才

 
 62才になってしまうとこの方法は取れないが、64才までなら国民年金に『任意加入』して月額保険料を満額納付すれば、この場合なら1ヶ月で資格期間10年をクリアする。もちろんお望みとあれば、64才まで任意加入を継続して年金額を増やすこともできる。
 

・ 65才~69才

 
 65才~69才で気付いた場合も、『受給資格がない』方に限り『特例による任意加入』は可能だ。この場合は資格期間が10年に達した時点で脱退となる。ただし、この『特例』は、1965年4月1日以前に生まれた方しか対象にならない。

 また、厚生年金適用事業所で1ヶ月働くことが可能であれば、69才までは厚生年金の被保険者になるので、これで『10年』を満たすこともできる。ただ厚生年金法上最初から2ヶ月以内の予定なら被保険者にはならないので、雇用契約自体は2ヶ月超でなければならない。

 これらで65才以降に受給権を得た場合、受給権を獲得した月までの分の年金は受け取れないのは言うまでもない。
 

・ 70才以上

 
 70才になってしまうと国民年金の任意加入はどうやってもムリだ。それでも前項同様、厚生年金加入可能な働き方で働くことが前提になるが、救済策はある。

○ 厚生年金適用事業所の場合

 厚生年金適用事業所で働く場合は、その事業主の同意を得るか厚生年金保険料を全額自己負担するかして厚生年金に『高齢任意加入』するという手がある。これで1ヶ月分資格期間を増やせば受給権を確保できる。
 ここで、事業主の同意を得た場合は70歳未満の方と同様、保険料は労使折半になる。

○ 厚生年金適用事業所でない場合

 厚生年金のない個人事業所などの場合も、難易度は非常に高いが救済可能性はあることはある。

 この場合は絶対に事業主の同意が必要だ。しかも保険料の納付については必ず労使折半で、本人が全額負担することは認められていないので、事業主にそこまで納得してもらわなければならない。そのうえで高齢任意加入を申請し、厚生労働大臣の認可があってはじめて加入が可能になる。
 

資格期間の変更は2017年

 
 こういう話をすると、若い方には《そもそも何で納付はともかく免除申請もせずに未納にしていたの?》(自己責任じゃないの)といった感想を持たれることが多い。

 けして弁護するわけではないが、資格期間の基準が25年から10年になったのはわずか7年前だ。老齢年金に限って言えば、その前は『24年11ヶ月』分満額納付していても掛け捨て状態だったわけだ。
 加えて、いまより厚生年金適用事業所も少なく、加入要件も今より厳しかった。

 そんなわけで以前は、40代くらいまで未納にしていた方の中には《今から保険料を払ってもムダ》と感じて保険料を払わず放置するような人もいたというわけだ。『資格期間25年』がずっと続くと思って放置していたような人にも『3分の理』はあるのだ。
 

年金額は少ない

 
 ただし、あくまで必要な資格期間が短くなっただけなので、最低の『資格期間』を満たしただけの方の年金額が少ないのはやむを得ない。20~59才での納付状況が同じなら、資格期間が10年の方の基礎年金額は、25年の方の2.5分の1になる。

 ここでは代表的な場合の老齢年金額の目安を示す。『納付状況』は、その全期間がその納付状況だった場合だ。

納付期間   ┏━━━━━━ 基礎年金額 ━━━━━━━┓   厚生年金額
納付状況    全額納付    半額免除    全額免除  (厚生年期間あり)

10年未満        0円      0円       0円     0円
10年     20万4000円  15万3000円  10万2000円     あり
25年     51万0000円  38万2500円  25万5000円     あり
40年     81万6000円  61万2000円  40万8000円     あり

 

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2024年07月19日