36.最低賃金との比較計算

 

 さて、最低賃金に関して、これを上回っているかどうかを比較するための計算は、よく知られているようで一部に誤解もある。その大きな原因は『基礎賃金』算定の計算と似ているからではないかと考える。
 似ていてちょっと違っているやり方は混同しやすいのだ。
 

月給者の場合

 まず、基礎賃金の算出式はこうだった。(『給与の一策 5・基礎賃金と除外賃金』)

 基礎賃金 = その月の職務関連給与 × 12 ÷ 年間所定労働時間

 月影さんの場合(年間所定労働時間1960時間)は、

  基本給  役職手当   資格手当  皆勤手当          基礎賃金
( 180,000 + 30,000円 + 17,500円 + 5,000円 )× 12 ÷ 1960h ≒ 1,423円/h

とした。最低賃金と比較するためには、次の式を使う。

※ 最低賃金と比較するための式(月給)↓

(必ず支給される定額の職務関連給与+住居手当)× 12 ÷ 年間所定労働時間

 ここで、『年間所定労働時間』については『給与の一 策25・年間所定労働時間の変動を防ぎたい』②のところで念を押したように、基礎賃金算出用として、最も少ない所定労働時間で固定した場合、これはあくまで基礎賃金算出用限定の数字なので、この数字を使ってはならず、その年の正しい年間所定労働時間で割らなければならない。

 ここで、『必ず支給される定額の職務関連給与』に該当するのは、月影さんの給与では次の3つである。

  ・基本給  ・役職手当  ・資格手当

 つまり、職務関連給与でも『必ず支給される』という条件が付くので、支給されるかどうか分からない『皆勤手当』は外される

 また、基礎賃金には個人的な手当『カツベシジュリー』(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住居手当・臨時の賃金・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金)は含めなかったが、最低賃金でとの比較では、この内

  ・『住居手当』(住宅手当)は含める

ことになっている。この理由は、調べてみたが、分からない。

 ただ、住居手当が基礎賃金に含める必要のない『除外賃金』とされたのは1999年と、最も新しいので、その関係があるのかもしれない。月影さんの場合だと、皆勤手当と住居手当が入れ替わって、

  基本給  役職手当  資格手当  住居手当
(180,000円+30,000円+17,500円+15,000円)× 12 ÷ 1960h = 1,484.693…円/h

となる。とりあえず、月影さんの給与は、北海道の最低賃金960円も東京の1,113円もはるかに超えていた。

ここで、基礎賃金の計算式と比べて、月影さんの例と合わせてまとめると、

┏━━━━━ 基礎賃金計算に算入 ━━━━━┓  ✖        ✖
 皆勤手当  基本給  役職手当・資格手当等 住居手当  通勤手当・家族手当等
 5,000円  180,000円    47,500円   15,000円     12,200円
  ✖  ┗━━━ 最低賃金との比較計算に算入 ━━━━┛     ✖

                         ということになる。

 最低賃金から逆算すると、月影さんと同じ年間所定労働時間1960時間の条件で、月給の場合、北海道の場合で156,800円、東京だと181,790円となる。
 もちろんこれは、『最低賃金との比較計算に算入』する給与だけの合計だ。

時給者の場合


 時給者の場合も基本的には同じだ。同様に、基礎賃金算出のときと比べてみよう。
 基礎賃金算出の計算式はこうだった。

基礎賃金 = 時給 + その月の職務関連給与 × 12 ÷ 年間所定労働時間

 前の、時岡さん(時給1,200円・週4日・1日6時間・年間所定労働時間1248時間)の例では、

時給      資格手当   皆勤手当
1,200円/h + (5,000円/月 + 3,000円/月)× 12月 ÷ 1248h ≒ 1,277円/h

だった。最低賃金と比較するための式は、次のようになる。

※ 最低賃金と比較するための式(時給)↓

時給+(必ず支給される月決めの職務関連給与+住居手当)×12÷年間所定労働時間

時岡さんの場合は、必ず支給される職務関連手当は『資格手当』5,000円だけなので、

 時給      資格手当
1,200円/h + 5,000円/月 × 12月 ÷ 1248h = 1,248.076…円/h

となる。時岡さんも最低賃金はクリアしていることがわかる。住居手当はないが、時給者に住居手当を毎月定額で支給している場合は、それも含めてよい。

 こう書くと、「毎年9月に送られてくる最低賃金のパンフレットでは、『時給の場合はそのまま比較します』と書いてあるが…」という疑問が寄せられることがあるが、この『時給の場合は』というのは、『時給部分については』ということで、このパンフが間違いというわけではない。

 時給以外に毎月定額で支給されるここで述べたような給与がある場合には、このように別計算で合算することになる。

 これについては、厚労省からも『最低賃金以上かどうかを確認する方法』という、計算例も示した少し詳しいパンフレットも発出されているので、それも参照願いたい。

 

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※ 最低賃金改定に伴い、金額変更 '23.10.03

 

2023年03月14日