労働保険の申告書には『赤と黒』で印刷されたものと『赤と紫』で印刷されたものがある。この違いは何なのか?
労災保険料と雇用保険料
ご承知の通り労働保険料には労災保険料と雇用保険料があり、年度の保険料を同時に計算することになる。この2つの保険料の計算を同じ紙(申告書)に書く場合と別々の紙に書く場合がある。
なぜそんな面倒なことになっているかというと…
労働保険の『保険者』は労災も雇用も国で、しかも両方とも同じ労働局だが、保険を成立させる機関が2種類あるのだ。
1元適用事業と2元適用事業
この労災保険と雇用保険の2つを1つの機関で(一元的に)扱うのが『1元適用事業』、2つの機関で別々に(二元的に)扱うのが『2元適用事業』ということになる。
具体的には労働保険番号の3ケタ目が『1』なら労働基準監督署の所掌、『3』ならハローワークの所掌だ。単純に労災は監督署・雇用はハローワークというわけではない。
ここで『所掌』とは、「法令によって定められた特定の機関が、特定の職務や業務を担当することを指す言葉」(実用日本語表現辞典より)だそうだ。
・ 2元適用事業は、申告書も2枚
だから1元適用事業には『労働保険番号』も1つしかないし、1つながりの申告書と納付書も1枚だ。2元適用事業なら労働保険番号は2つ。申告書と納付書も2枚必要になる。
ということで、『所掌』が2つに分かれるのが『2元適用事業』。分かりやすくいうと『申告書が2枚になるのが2元適用事業』ということだ。
2元は建設業・農林水産業など
実務上は『2元』は業種がごく限定的なので、それを覚えておけば困ることはない。
・ 1元適用事業
○ 2元適用事業以外のすべて
・ 2元適用事業
○ 建設業
○ 農業(畜産・養蚕を含む)・林業・水産業
○ 港湾運送の事業
○ 地方自治体が行う事業
ということになっている。
『赤と黒』は1元と2元労災・『赤と紫』は2元雇用
開業(労働者雇用)2年目以降の事業所であれば、毎年6月初旬には労働保険の申告書が送られてくるので、指定された通り書けばよい。
開業最初の申告や、2元で新たに労災や雇用保険の申告書を書く場合・あと送付された申告書を紛失したり、大幅に間違った申告書を捨ててしまい、新しい申告書が必要になったりした場合などに間違えやすいのが、労働保険申告書の『色』だ。
あるいは2元事業で、送られてきた2つの袋から申告書だけ取り出して《後で書こう》と思っているうちにどっちがどっちだか分からなくなった!という方もたまにいるようだ。
ちなみに上で間違った場合、納付書の金額は訂正できないが、申告書の方は数字の上に『╋━━━━╋』状の線を引くことで訂正できる。
事業所名等が入っていないマッサラな申告書は、ハローワークでも監督署でも商工会等でも手に入るが、申告書をもらいに行って初めて『労働保険申告書には2種類ある!』という新事実に気付いて愕然とする人もいるのだ。
しかもこの2種類の申告書、色が違うだけで内容はほぼ同一。素人さんには見分けはつかない。何度か書いた経験のある人でも人間の記憶力は知れているので、2種類の申告書を前にして「何色のを下さい」とはなかなか言い難い。
・ 申告書の色と提出先
肝心の、1元と2元の申告書の色と提出先は次の通りだ。
事業の種類 申告書の色 提出先
1元適用事業 ➡ 『赤と黒』の申告書 労働基準監督署
↗(労災)
2元適用事業
↘(雇用) 『赤と紫』の申告書 都道府県労働局
つまり、
・ 1元事業、または2元事業の労災保険分なら『赤と黒』の申告書を監督署へ
・ 2元事業の雇用保険分なら『赤と紫』の申告書を労働局へ
提出ということになる。
つまり、1元適用事業なら全部まとめて『赤と黒』の申告書に書いて監督署へ提出。2元適用事業なら労災保険分は『赤と黒』・雇用保険分は『赤と紫』の申告書に書き、それぞれ監督署と労働局へ提出する。
特別加入者がいるときはもう少し複雑になるが、その場合は労働保険事務組合にお任せの場合がほとんどと思うので、一般の事業主が悩む場面は少ないと考えここでは省略する。
余談だが『赤と紫』の申告書の色は普通『藤(フジ)色』という。なかなか風情があって悪くないが、それなら『赤と黒』の方も『萩(ハギ)色』といった方がいいのではないか。花札では藤は4月で萩は7月。どちらも労働保険申告にとっては重要な月だ。
現金納付なら、金融機関に提出も可
先の申告書の提出先は代表的な場合で、これ以外にも可能なやり方はあるので、以下を見てもらってもっと都合の良い方法があれば、その方法を取ればよい。
提出先 『赤と黒』の申告書 『赤と紫』の申告書
管轄の監督署 ○ ×
管轄の労働局 ○ ○
銀行・郵便局等 ○(現金納付のみ) ○(現金納付のみ)
年金事務所 ○ ○
ここで、銀行・郵便局のところの(現金納付のみ)というのは、口座振替だったり、『納付すべき保険料等がないとき』はダメということだ。
・ 『納付すべき保険料等がない』ときとは?
口座振替はともかく、『納付すべき保険料等がないとき』とはどういうときか。多いのは、零細企業で常用労働者がいなくて事実上一人親方状態なのだが、アルバイトを雇ったときのことを考えて、労災保険を成立させてあるという場合だ。
たまたまその前年度にアルバイトを雇うことがなく、確定保険料が0円だったとしても、概算保険料が0円では保険の継続はできないので、前年度の『概算保険料』を今年度の『概算保険料』とすることがある。
その場合は『納付すべき保険料等の額』は0となる。けっこう多いパターンだ。
納付先は金融機関
肝心の保険料は、申告書の下に付いている『納付書』をつけて金融機関等で納める。たまに7月上旬(7月10日の申告・納付期限直前)、
「納付書に納付場所は日本銀行の支店とか代理店とか監督署とか書いてあるが、監督署に行くのも怖いし(なぜかは不明)、日本銀行の支店や代理店なんてこの辺にあるのかい?」
という質問が、慣れない事業主さんから舞い込むことがあるが、郵便局や銀行は大体日本銀行の代理店になっているので、その辺の金融機関に持ち込めばまず大丈夫だ。