社会保険料、1円のズレはなぜ起こる? 其の①
ここでの『社会保険料』は雇用保険料も含める。雇用保険料や健康保険料・介護保険料の個人負担分が『1円ズレる』というのはよくある話だ。
ズレが数円以上ならもはや『ズレ』ではない。保険料率や料率変更月の間違い・健康保険料や介護保険料なら標準報酬の間違い・40才や65才到達時の『介護保険料』の有無…等によることが多いので、まずはその辺を確認しよう。
『1円ズレ』の原因は端数処理によることがほとんどでわりと単純だ。ただし単純だからといって修正が簡単というわけではない。
端数処理前まではカンタン
何とも細かい話で申し訳ないが、このブログは本来給与計算のブログなので(最近忘れていました。すみません。)自らの性格は顧みず、社会保険料の計算方法についての細かい話にも触れておく。
雇用保険料以外の狭義の社会保険料についてなら、各都道府県の社会保険料は毎年3月に『保険料額表』として発表されるので、いざとなればこれを見て判断すればよい。
しかし、この表には事業主が納める合計額が計算しやすいように小数部分まで書いてあるので、ここでかえってわけが分からなくなる方がいる。
また介護保険第2号被保険者(40~64才の方)に該当する場合としない場合の健康保険料は書いてあるが、介護保険料単独の金額は明示されていない(協会けんぽの場合)。
またExcelでやろうという場合、せっかくPCという文明の利器を使いながら毎年毎年『保険料額表』を打ち込むのも原始的すぎる。
・ 直接計算したいときは…
こうした不便な点はあるので、自分の事業所の所属する健康保険の保険料率から、直接個々の保険料を算出できるプログラムを作っておけば便利だ。
(狭義の)社会保険料は、事業主だけが負担する『子ども子育て拠出金』を除いて労使折半なので、基本的には標準報酬に健康保険料率・介護保険料率・厚生年金保険料率をそれぞれかけて2で割れば、個々の方の保険料が計算できることになる。
雇用保険料なら、たとえば2025年度は本人負担分は1000分の5.5(一般)か6.5(建設・農業等)なので、『総支給金額』にこの保険料率をかければよい。
社会保険料の端数は四捨五入ではダメ
上で『2で割れば』とか『保険料率をかければ』とか書いたが、ここでの端数の扱いが曲者で、『1円ズレ』の原因の1つになる。
社会保険料(雇用保険料も含む)の本人負担分は、『….5円以下』のときは小終点以下を切捨て『….5円を超える』ときは切上げるというのがお約束。
『0.5円未満』切捨てでないところがミソで、それなら普通の四捨五入と変わらない。
・ 正確には『五捨五超入』
『五捨六入』という方もいるが、五捨六入なら『….6円』未満をすべて切捨てることになってしまうので、『五捨五超入』というのが正しいようだ。
給与計算担当者でない方は何を言っているのか分からないかもしれないので実例を示す。
計算上の本人負担分 四捨五入 五捨五超入 五捨六入
12,345.45円 12,345円 = 12,345円 = 12,345円
12,345.50円 12,346円 > 12,345円 = 12,345円
12,345.55円 12,346円 = 12,346円 > 12,345円
12,345.60円 12,346円 = 12,346円 = 12,346円
ちなみに筆者が社労士事務所を改行した当初は厚生年金保険料が毎年0.354%ずつ増額されている最中で、間違って『五捨六入』で計算してしまい失敗したことがある。
現在の厚生年金保険料は18.3%に固定されているので保険料額も円単位まででよさそうなものだが、料額表の円未満のところにはいまだにご丁寧にずらっと『….00』が並んでいる。厚生年金保険料のさらなる増額を目論んでいるのだろうか。
・ 現在の給与の社会保険料は『五捨六入』でも同じ
ここまで細かいことを言ってから申し訳ないが、現在は、健康保険料率も介護保険料率も厚生年金保険料率も『….○○%』に収まっているので、折半した保険料率は必ず『0.005%』の倍数になる。
また、給与に関しては現在の標準報酬はすべて2,000円の倍数になっている。
2,000円の0.005%は0.1円なので、給与の社会保険料の折半額が小数第2位(0.01円単位)に突入することはない。
したがって現在は五捨六入で計算しても『五捨五超入』と同じ結果が得られる。ただし、これは現時点で給与については大丈夫というだけだ。
『賞与』については1,000円単位の『標準賞与額』(₁₃₉.賞与の社会保険料には上限が)がもとになるので小数第2位の端数も登場する(1,000円の0.005%は0.05円)。計算式を設定する場合はきちんと『五捨五超入』に設定しておくべきだ。
・ 雇用保険料も0.5円『以下』切捨て
また雇用保険料は労使折半ではないが『標準報酬』というものはないので(昔はあったらしい)、もととなるのは『総支給額』で円単位だ。
雇用保険料の被保険者負担分は『1,000分の○.○』(もっと正確には「1,000分の○」または「1,000分の○.5」)になっているので、端数処理前は0.0005円単位になる。
ずいぶん細かい話と思われるだろうが、2025年度のように雇用保険料率が1,000分の○.5の場合、残業等があまりない会社で月の総支給額が『○○万○千円』でも、千円単位のところが1・3・5千円等奇数なら、雇用保険料は必ず『…….5円』になる。
これを四捨五入すれば、正しい被保険者負担分とは必ず1円ズレる。
そんなにキッカリでなくても、たとえば雇用保険料率が1,000分の5.5なら、端数処理の違いによって雇用保険料の本人負担分は次のように変わる。正しいのは青ゴチックだ。
総支給金額 本人負担分 四捨五入 五捨五超入 五捨六入
90,990円 500.445円 500円 500円 500円
91,000円 500.500円 501円 500円 500円
91,010円 500.555円 501円 501円 500円
91,020円 500.610円 501円 501円 501円
『切捨て』・『四捨五入』でいいことも
・ 端数切捨ては可
以上説明した端数処理は原則で、これ以外がすべて禁止されているわけではない。
たとえば事業所によっては社会保険料の円未満の端数を切捨てているところはよく見られる。この場合50%近い確率で『五捨五超入』した場合とは1円ズレる。
ただし円未満の端数をことごとく切捨てるというのは少しだが労働者に絶対有利な端数処理だ。意図してやっているのなら法令上の問題は何もないので、いらぬお節介は言うべきでない。
・ 四捨五入は『特約』で可
社会保険料(雇用保険料も含める)の本人負担を四捨五入で求めると、端数が『0.5円』キッカリのときだけ原則の『五捨五超入』より1円不利になる。
それほどの問題ではないということで、端数処理を四捨五入でやることについては、当事者間の『特約』がある場合は可能となっている。『特約』は、労使協定を結ぶ必要まではないが、文書で残しておいた方がいいだろう。