₁₉₆.建設の一括有期事業と消費税の関係



請負金額は『税抜き』

 
 前回まで、建設業で請負金額から労災保険料を算出する『普通の』方法を取る場合、請負金額は『消費税抜き』で計算することをしつこく強調した。

 経理の方法は『税抜き経理』と『税込み経理』がある。これについて語るほどの知識はないので、その違いについて知りたい方は税理士の先生に聞いた方がいいが、労災保険料の基礎となる請負金額については『税抜き』と決まっている。

 間違って税込で算定すると、1割ほど保険料を余計に支払うことになる。

 なぜこうなっているかというと、消費税の変遷に要因がある。
 

・ 消費税の変遷

 
       時期        消費税率

  ● 1989年3月31日まで     0%
  ● 1989年4月1日 ~     3%
  ● 1997年4月1日 ~     5%
  ● 2014年4月1日 ~     8%
  ● 2019年10月1日 ~    10%
 

 

 こうした消費税の変遷と請負金額の算定の仕方とは深く関わっている。

 

・ 最初は『税込』が基準だった

 
 1989年に3%の消費税が導入されてからもそれを加味して料率が設定されていたので、あくまで労災保険料の基準となるのは『税込み』請負金額だった。
 

・ 5%引上げ時も『税込み』基準続く

 
 1997年に消費税率が5%に値上げされても、まだまだ基準は『税込み』請負金額だった。
 

・ 8%時代が始まり、『105 / 108』をかける暫定措置

 
 2013年10月以降、翌年に予定された消費税8%時代を前に、当時の基礎であった『税込み請負金額』に『105 / 108をかけた金額をもとに『請負金額』を算定することになった。

 要は、消費税が8%になると、5%時代の『税込み請負金額』の『108 / 105』が『税込み請負金額』になるので、『105 / 108』をかければ『消費税5%のときに対応した請負金額』が出るという考えだ。
 

・ 10%時代を前に、算定方法を抜本的に変更

 ただ、当初の予定では2015年10月に消費税を10%に上げることが予定されていたため、小手先の暫定措置では対処が難しくなった。そのこともあって、2015年4月からは、消費税率に無関係に税抜きの『請負金額』、すなわち本体価格そのものを労災保険料を決める際の算定基礎とすることに抜本的に変更された。

 というわけで、2015年4月から、消費税に関係なく『税抜き』の請負金額で労災保険料を算定することになった。
 

・ 建設業に8%の売り物はない

 
 経済情勢の悪化によって何度か増税は見送られたが、2019年10月には消費税はさら10%となった。

 年度のど真ん中での引上げだったので、前の税込基準なら大変なことになったと思うが、このときはすでに本体価格基準になっていたので、2019年度の確定保険料算定の際もそう混乱はなかった。

 このときには同時に『複数税率』が導入され、『軽減税率』として8%のまま据置くものも現れたが、みなさんご存じの通り、8%の『軽減税率』の対象は、酒類と外食を除く食料品、それに新聞だけだ。

 建設業者が軽減税率の恩恵にあずかることは『お菓子の家』でも建設しないことには普通あり得ない。

 ということで2014年からは、建設業の労災保険料の算定の基礎としては、『税抜き請負金額』を使うことになっている。今後消費税がどうなろうと影響がないようにはなっているが、これがさらなる増税の布石にならないことを願いたい。

 ただし、労災保険料や労務費率は『工事開始時期』によって決まるので、請負金額における消費税の扱いも、開始時期の方法で行なうことになる。

 だから、もうほとんどないと思うが、2015年以前に開始した長~い工事が今年終わったとしても、その工事については、開始時期の基準で消費税を扱うことになる。
 

本体500万円未満はまとめて可

 
 ここで税込経理の場合は、一旦すべての工事の『本体価格』を算出しなければならないが、建設業の場合消費税は10%で固定なので、それぞれ『1.1で割る』だけだ。

 Excelでやる場合は、とりあえず建設工事の一覧表のうち元請工事だけにすべて番号を振り、Excelの表のB列に番号・C列に事業の種類・D列に税込請負金額と打ち込んでいき、D列の金額を1.1で割ったものをE列に入れる。これがそれぞれ本体価格になる。

 あとは、事業の種類ごとにRANK関数等で『本体価格』に順位をつけ、金額の大きい順に『一括有期事業報告書』を上から埋めていく。

 左から順に、

工事名・所在地・期間・税抜請負金額・労務費率・賃金総額

となっている。ただし請負金額(もちろん本体価格)が500万円未満の工事は『他○○件』とまとめていい。

 もっとも、その種類の事業がすべて本体500万円未満なら、すべてまとめるわけにはいかないので、大きい方からいくつかは工事ごとに記入することになる。

 

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2024年12月17日