まずは雇用保険加入についての全体的な話だ。雇用保険については『入る人』と『入らない人』の2種類しかない。労災保険の場合は『特別加入』の制度があって『入りたかったら入ってもいいし、入りたくなかったら入らなくてもいい人』というカテゴリーも存在する。
しかし雇用保険には基本的にそういうカテゴリーはない。本人の意思に関わらず、雇用保険の被保険者になるか否かは、業種と事業所の形態・人数・本人の所定労働時間によって厳然と定まっている。
ただし、最近できた『マルチジョブホルダー』(65才以上の一定の方)は別とする。ここでは、普通の雇用保険の加入対象について述べる。
5人未満・個人の農林水産業は雇用保険任意
従業員5人未満の農林水産業の個人事業については雇用保険の適用は任意となっている(これについては後で触れる。)。それ以外の事業はすべて雇用保険の『強制適用事業』であり、いやでも雇用保険の加入手続きをしなければならない。
『強制適用事業』でない事業(任意適用事業)を整理すると次のようになる。
・ 雇用保険の任意適用事業
① 個人事業(法人でない)
② 農林水産業
③ 従業員5人未満
上記①~③全てを満たす場合は、そのままなら雇用保険の適用はない。それ以外なら強制適用ということになる。労災保険と違って他に細かい要件はない。
一般は週20時間・季節は週30時間が基準
労災保険なら、何度か書いたが適用事業所であれば、たまたま1度だけアルバイトで来た方が業務災害にあっても労災保険の対象になる。
これが雇用保険の場合は、一定の要件を満たす働き方の人でないと対象にならない。逆に要件を満たす場合はいやでも対象になる。
ここで、雇用保険の対象となる『一定の要件』は、一般と季節雇用の方では要件が異なる。
さらに日雇労働の方の雇用保険もあるが、これはシステムが全く違うので今回は触れない。
・ 一般の雇用保険の対象
65才以上の場合は正確には『一般』ではなく別の『くくり』になるが、加入条件は『一般』と同じなので、このページでは便宜上『一般』に含める。
一般の雇用保険の対象となるのは、以下の条件を満たす方だ。
① 1週間の所定労働時間が20時間以上で、
② 継続して31日以上の雇用が見込まれる
③ 学生でない方。
④ ただし、国・地方公共団体等に雇用され、
離職時の待遇が雇用保険のそれを超えるとして省令で定める者でない方。
ここで③については学生であっても
a. 卒業後、その事業所に引き続き雇用される方
b. 休学中の方
c. 定時制の方
d. a~cに準じ、厚労省職業安定局長が定める方
は対象になる。
・ 季節の雇用保険の対象
これに対して季節雇用として雇用保険の対象となるのは、
季節的に雇用され、
① 1週間の所定労働時間が30時間以上で、
② 4ヶ月と1日以上の期間を定めて雇用され、
③ 学生でなく(例外は一般と同じ)、
④ 国・地方公共団体等に雇用され省令で定める(一般と同じ)方でない方
になる。
・ 『1週間の所定労働時間』の考え方
ここでの『1週間の所定労働時間』とは、
就業規則、雇用契約等により、その者が通常の週に勤務すべきこととされている時間をいう。この場合の「通常の週」とは、祝祭日及びその振替休日、年末年始の休日、夏季休暇等の特別休日(すなわち、週休日その他概ね1か月以内の期間を周期として規則的に与えられる休日以外の休日)を含まない週をいう。(行政手引20303より)
ということになっているので、雇用契約期間の『所定労働時間』を平均すると週20時間(季節雇用の場合は30時間)未満ということは普通にあり得る。
一般と季節の『所定時間』と『契約期間』
ここまでで、一般の場合と季節雇用の場合で異なる条件は、雇用が『季節的かどうか』以外には、『所定労働時間』と『雇用契約期間』の2つだ。
・ 所定労働時間の違い
一般の場合は週20時間以上なので、
・ 4時間 / 日 × 5日 / 週 ( 20時間 / 週 )
・ 5時間 / 日 × 4日 / 週 ( 20時間 / 週 )
・ 7時間 / 日 × 3日 / 週 ( 21時間 / 週 )
等でも対象になるが、季節雇用の場合だと最低でも
・ 5時間 / 日 × 6日 / 週 ( 30時間 / 週 )
・ 6時間 / 日 × 5日 / 週 ( 30時間 / 週 )
・ 7.5時間/日 × 4日 / 週 ( 30時間 / 週 )
等の所定労働時間でなければ対象にならない。
1日7時間・週4日(週28時間)などの雇用契約の場合、一般の雇用保険は文句なく対象だが、季節雇用の場合は雇用保険の対象外になる。
・ 雇用契約期間の違い
一般の場合は契約期間が31日以上であれば対象だが、契約期間が30日以内でもその後引続き働いている場合は入社当初にさかのぼって加入になる。
ただここで『さかのぼって』といっても、その方が雇用保険に入ったという届出(被保険者資格取得届)の期限は法律上でも翌月10日までとなっているので、月初めに30日契約で入社した方が期間満了後も働いている場合は、それからおもむろにハローワークに行っても余裕で間に合う。
季節雇用の場合は雇用契約期間が4ヶ月と1日以上ないと入りたくても入れない。
地域と業種によっては契約期間の終了時期が『年内』と限定されているものもあるので、その場合は9月1日入社だと契約期間が4ヶ月以内になってしまうので、季節での入社は『もはや手遅れ』という事態になる。
また、契約期間が4ヶ月以内の季節雇用の場合は、業務の都合で4ヶ月を超えても一般と違って『さかのぼって加入』とはならず、当初の予定期間を超えた日から加入となる。ただし、超えた分を含めても通算した雇用契約期間が4ヶ月以内のときを除く。
逆に、契約期間が普通に季節雇用の加入対象でも、雇用期間が延びて1年以上となると自動的に『一般』へ移行させられる。4月1日入社で、翌年の3月31日以降まで雇用されているような場合だ。
同時に複数加入はできない
一般にしても季節にしても、ある方が同じ日に2つ以上の事業所の雇用保険に加入している状態というのはあり得ない。
手続的にも、雇用保険の取得手続にハローワークに行って『前の会社の離職手続が済んでいません』(だから取得手続はできません)と言われることは年に何回かある。この場合は『取得届』がハローワーク預かりになって、前の会社の手続が終わった段階で連絡が来る。
はたまたある会社に『在職中』のはずの方について他の会社から『取得届』が出され、事務所に照会が来ることもある。
離職にしても就職にしても、雇用保険の届出までにはタイムラグがあるのでそうした手続上の問題ならいいが、会社と本人の認識の違いによる場合はひと悶着(もんちゃく)起きる可能性はある。
たとえば本人が前の会社をずっと無断欠勤していて、会社も《何か言って来るまで…》と思ってそのままにしておいたところ、本人はすっかりその会社を辞めた気になっていて、黙って他の会社に就職してしまったような場合だ。