公益通報者保護法については、最近色々な場面でその存在が知られるようになった。企業としてもこれに無関心ではいられない。
特に気になるのが、俗にいう『企業秘密』の扱いではないだろうか。
個人にしろ家族にしろ企業にしろその他の組織にしろ国家にしろ、別に後ろめたいことではなくても秘密にしておかなければならないことはたくさんある。
公益通報って何?
まず大切なのは、保護される『公益通報』とは何かをしっかり押さえることだ。逆に言えば『公益通報』が何かが分かればそれほど怖いものではない。
行政(消費者庁)は『公益通報』を、
① 労働者等が
② 役務提供先の、一定の法令違反行為を
③ 不正でない目的で
④ 一定の通報先に通報する
ことと定義しているので、まずはここをしっかり押さえよう。
① 労働者等が
『労働者等』とは、
○ 労働者(派遣労働者も含む)
○ 退職(派遣終了)後1年以内の方
○ 役員
○ 取引先の労働者・退職者・役員
をいう。この方々が、
② 役務提供先の、一定の法令違反行為(等)を
・ 役務提供先とは、仕事先
『役務提供先』とは、要するに仕事先だ。
・ 『一定の法令違反行為(等)』とは、通報対象の法令違反
『一定の法令違反行為』とは『通報の対象となる法令違反』をいい、消費者庁のパンフレットには2025年4月1日付で505本の法律が列挙してある。例としては
刑法・食品衛生法・建築基準法・金融商品取引法・特定商取引に関する法律・不正競争防止法・個人情報保護法・労働基準法・著作権法…
等がある。これは『国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関する法律』として定められたものだ。
次に法令違反行為『等』の方だが、これは
最終的に刑罰又は科料が科される行為
をいう。たとえば消費者庁は『食品表示法違反』を例に挙げ、食品表示法に違反すると指示が出され、これに違反すると命令が出され、命令に違反すると刑罰に課されることから、食品表示基準に違反したことについての通報は、公益通報に当たるとしている。
また、パワハラ・セクハラは基本的には該当しないが、暴行・脅迫・強制わいせつなど犯罪行為に当たる場合は公益通報に該当し得る。
・ 営業秘密との関係は?
ここで、どの企業にもあるであろう営業秘密が『法令違反行為』であれば、公益通報があってもやむを得ないことになるが、企業秘密であろうが国家機密であろうが違法行為は許されないのが当然なので、ここでむやみに緊張する必要はないだろう。
③ 不正の目的でなしに
この法律は名前の通り『公益通報』を保護するものだ。あくまで公益のための通報を守るものなので、公益でない通報、たとえば
・ 不正の利益を得る
・ 他人に損害を与える
・ その他不正の目的
による通報は『公益通報』とはしない。
④ 一定の通報先に通報することをいう。
通報先は次の3つに限定されている。これについては、保護の要件とも関わってくるが、それについては次項で述べる。
○ 事業者内部
『事業者内部』とは、実際に働いている場所か、実際に働いている場所で通報先として定められた社外の社労士・弁護士・労働組合などになる。
○ 権限を有する行政機関
『権限を有する行政機関』とは、通報の対象となる事実(②の法令違反行為(等))に対して処分・監督する権限を持つ行政機関等をいう。
○ その他の事業者外部
『その他の事業者外部』とは、その通報によって被害の発生・拡大を防止するために必要と認められる相手方のことで、次の方々が想定されている。
・ 報道機関
・ 消費者団体
・ 事業者団体
・ 労働組合
・ 周辺住民
保護を受ける要件
公益通報者保護法の保護を受けるためには、次の要件を満たしていなければならない。
① 事業者内部への通報
・ 対象となる事実が生じ、又はまさに生じようといていると思うこと
② 行政機関への通報
⑴・⑵のいずれかであること
⑴ 対象となる事実が生じ、又はまさに生じようとしている
と信ずるに足る相当に理由がある。
⑵ 対象となる事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思い、
かつ、次の事項を記載した書面を提出している。(役員以外)
・ 通報者の氏名又は名称、住所又は居所
・ 通報対象事実の内容
・ 通報対象事実が生じ、又は生じようとしていると思う理由
・ 通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと
思う理由
③ その他外部事業者への通報
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足る相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当すること
⑴ 事業者内部又は行政機関に公益通報すれば、解雇その他不利益な扱いを受けると信ずるに足る相当の理由がある
⑵ 同様に通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されると信ずるに足る相当の理由がある。
⑶ 事業者内部に公益通報すれば、役務提供先が通報者について知り得た事項を、通報者を特定させるものであると知りながら、正当な理由なく漏らすと信ずるに足る相当の理由がある。
⑷ 役務提供先位から事業者内部又は行政機関に公益通報しないことを正当な理由なくて要求された。
⑸ 書面により事業者内部に公益通報した日から20日を経過しても、通報対象事実について、当該役務提供先から調査を行う通知がない場合又は当該役務提供先が正当な理由がなくて調査を行わないこと。
⑹ 個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人の財産に対する損害が発生し、又は発生する窮迫した危険があると信ずるに足る相当の理由があること。
保護の内容とは… 解雇や不利益取扱いは禁止
さて、公益通報者保護法とは読んで字のごとく公益通報者を保護する法律だ。ではその『保護』の内容とは、具体的に何をしてくれるというのか。ここが分かっていなければ意味がない。
・ 勤務先からの解雇・不利益取扱いは無効
まず、勤務先からの解雇は無効になる。つまりクビを言い渡されてもそれは無効だ。役員の場合、解任は無効にならないが、損害賠償を請求できることになる。
また、次のような取扱いも『不利益な取扱い』として禁止される。
・降格 ・減給 ・役員報酬の減額 ・訓告 ・自宅待機命令 ・給与上の差別
・退職強要 ・雑務専念の強要 ・退職金の減額・没収
なお、この不利益取扱いの禁止については、公務員も含まれる。
さらに、通報から1年以内の解雇は、他の理由であっても会社側が積極的に立証しない限り、通報が理由であると推定されるように今後改正される予定だ。
・ 派遣先の不利益取扱いも禁止
公益通報者が派遣労働者の場合は、派遣先の契約解除や派遣元に対する派遣者交替の要請などの不利益取扱いも禁止される。
301人以上の事業者は『公益通報対応業務従事者』が必須
従業員301人以上の事業所には、通報を受けるべき『一定の通報先』として、『公益通報対応業務従事者』の設置が義務づけられている。
もちろんこれは、他の行政機関や事業者外部に通報することを妨げるものではない。