『標準報酬』は保険料を決める基準になるものと、少なくとも給与計算担当者は誰もが思っている。だから一定の規則に従って報酬を届け出る必要がある。これはここまでも何回も書いてきたし、間違いではない。
それだけ考えれば、75才以上の『後期高齢者』に至った方の報酬を届け出る意味は内容な気もするが…
高齢者の報酬額は、年金に影響
それでも何才になろうとも、事業所で働いている限り基本的には報酬を届け出なければならない。
理由は、それが年金額に影響してくるからだ。厚生年金の標準報酬は、年金額を左右するのだ。
65才以上の方は、普通(繰下げしていなければ)老齢年金をもらっているはずだ。
この老齢年金の『報酬比例部分』というところが、現時点でもらっている報酬によってはカットされることになっているので、その確認のために報酬の届出が必要となっているというわけだ。
以前は一定の生年月日以前生まれの方はこの(カットの)対象から外れていたが、今は何才であってもカットの対象になる。
年金をカットされて喜ぶ人は誰もいないだろうから、75才以上になってもそのために報酬を届け出るのは気が進まない方もいるとは思う。
しかし届け出ないのは違法だし、その結果、場合によっては支給される年金額が法律上の規定より低いままになってしまうこともあれば、規定より高い年金が支給されていて、後から返還を命じられることもある。
いずれにしても届出を怠っていいことは何もない。
ただし年金のカット額については2026年度からかなり緩和されるので、これについては次回扱う。
算定基礎届は必要
従って75才以上でも算定基礎届は必要だ。
またもっと若い70才以上でも普通は厚生年金には加入していないので、厚生年金保険料が給与から天引きされることはない。それでも算定基礎届で厚生年金の標準報酬(正しくは『標準報酬相当額』)を決定してもらわなければならない。
『普通は』と条件を付けたのは、70才以上でも何らかの事情で老齢厚生年金を受取れない方は、要件を満たせば任意で厚生年金保険に加入し続けることができる特例があるからだが、その場合は毎月厚生年金保険料を天引きされているはずなので忘れることはないだろう。
また、70才を過ぎても74才までは健康保険の被保険者なので、これも提出忘れはないだろう。
75才以上の方の『算定基礎届』を出し忘れるケースは意外とあるようなので注意したい。
随時改定(月額変更)の手続きも必要
もっと忘れやすいのが『月額変更届』だ。
上の、毎年7月10日までに提出する『算定基礎届』は、年金事務所から来る名簿に75才以上の方の名前も載っているので、これに直接書いて提出している場合にはまず忘れることはないはずだ。
しかし『月額変更届』は、そういう状況になったときに届け出るものなので、『保険料にも関係ないし、問題ないか…』と思われる場合もあるようだ。
月額変更届も、もちろん75才以上の方も提出必須で、出し忘れると場合によっては大変なことになる。
『算定基礎届』は出し忘れても年金事務所から『出し忘れてるよ!早く出して!』という感じで督促が来るのでまだいい。
『月額変更届』については、何もしなければ報酬が変わったことなど年金事務所は知る由(よし)もないので、放っておけばそのままになってしまい、後で大変なことになることがある。
賞与支払届も忘れずに
年金のカット額には、過去(その月まで)1年間の賞与額も関係してくるので、賞与の届出ももちろん必要だ。
70才以上は、記入事項に若干の違い
要は、何才に達しても報酬や賞与の届出に関しては若い方とほとんど変わるところはないと思っておけば間違いない。
ただし、書き方については少々違いがあるので少し説明する。といってもそれぞれの届出用紙にも書いてあることで、見ればだいたいわかるはずなので、改めて覚える必要はないかもしれない。
7月10日までに提出する『算定基礎届』だと、70才未満との違いは以下のようになる。また『月額変更届』・『賞与支払届』についてもほぼ同様だ。
① 75才以上は、被保険者番号は記入不要
これは、75才以上の方は被保険者でないので被保険者番号はない。だから書かないというだけの話だ。
② 75才以上は、『従前の標準報酬月額』は『厚』だけで可
①と同じ理由で75才以上は健康保険の標準報酬はなので、『従前の標準報酬月額』の欄は、『厚』(厚生年金保険分)だけ書けばよい。
③ 基礎年金番号 or マイナンバー が必要
ここは70才以上の方全員だが、基礎年金番号またはマイナンバーの記入が必要になる。
④ 『70才以上被用者算定』にマル
70才以上になると厚生年金上は『70才以上被用者』という扱いになるので、そこにマルをつける。
※ 『月額変更届』の場合は『70才以上被用者月額変更』にマル
短時間就労なら報告不要
ここで述べてきたのはあくまで年を重ねてもずっと同じ条件で同じように働き続けた場合だ。
働き方を変え、たとえば51人以上の企業で週20時間未満になったり、50人以下の企業でフルタイムの4分の3未満の短時間就労になったりした場合は、報酬を届け出る必要はない。
というよりは、そういう勤務形態になったのならいくら若くても社会保険の加入条件を満たさないのだから、年齢に無関係に報酬の届出義務はなくなるのだ。
ただしこれについても、会社役員等労働者でない方の場合は別の基準もあるので、その条件も満たしていなければならない。