『雇用管理の責任者』という意味でいえば、少なくとも人を雇っている事業所であれば必ずその任に当たる人がいるはずだが、法律上『雇用管理責任者』の選任が問題になるのはぐっと業種が限定された場合に限られる。
具体的には建設業と介護事業の2つだ。
建設業では必須
建設業については建設労働者雇用改善法第5条で
事業主は、建設業を行う事業所ごとに(中略)、雇用管理責任者を選任しなければならない。
と規定されているので、雇用管理責任者の選任は、従業員を雇っている建設業事業主の義務だ。
・ 元方事業者の義務とは別
たまに誤解があるのが同じ建設労働者雇用改善法第8条との関係だ。
同8条では、数次の請負による1つの場所での工事で最も上位の元請に対して、請負人の氏名or名称・期間・『雇用管理責任者』の氏名を明らかにした書類の備付けを義務づけている。
ただしこの条文では
ただし、当該建設工事に係る事業所において元方事業者及び関係請負人が雇用する建設労働者の数が厚生労働省令で定める数未満である場合は、この限りでない。
としている。この規定に意識が行き過ぎて《50人未満なら雇用管理責任者はいらないの?》という誤解があるようなのだ。
もちろんこの8条は、一定の場合に下請の『雇用管理責任者』の氏名を備え付けることを元請に義務付けるものなので、各事業者の雇用管理責任者の選任との関連はない。
・ 経営管理責任者とも別
もう1つ、建設業の許可申請には『経営管理責任者』の選任が必要だが、これとも別物だ。経営管理責任者の要件はかなり厳格なので、これについて詳しく知りたい方は国土交通省や、この方面の専門家である行政書士の先生に聞いた方が間違いない。
・ 資格・講習は必要?
『雇用管理責任者』については特に必要な資格はない。ただし『経営管理責任者』の職務には労務管理も含まれているので、経営管理責任者に雇用管理責任者を兼任してもらうという方法もある。
全員もしくは大多数が季節雇用などの場合は、社長や個人事業主が自ら雇用管理責任者になるという選択も可能だ。
厚労省の委託事業では『雇用管理責任者』対象の雇用管理研修なども用意されている。建設労働者の雇用管理が任務になる雇用管理責任者となることに自信がない方などにとっては講習を受けることも意義はあると思うが、これも必修というわけではない。
・ 雇用管理責任者(建設)の職務
雇用管理責任者の職務内容は次のようなものだ。
○ 建設労働者の募集・雇入れ及び配置に関すること
○ 建設労働者の技能の向上に関すること
○ 建設労働者の職業生活上の環境の整備に関すること
○ 建設労働者に係る雇用管理に関する事項で厚生労働省令で定めるもの
※ 『厚生労働省令で定めるもの』とは、
・ 労働者名簿・賃金台帳に関すること
・ 労災保険・雇用保険・中退共その他建設労働者の福利厚生に関すること
となっている。
また、選任した雇用管理責任者については、
○ 氏名を事業所に掲示する等、従業員に周知する
○ 必要な研修を受けさせる等、雇用を管理するための知識の習得・向上を図る
措置が努力義務となっている。
・ 届出義務はないが…
建設業では雇用管理責任者の選任は義務だが、これをどこかの役所に届け出たりする必要はない。
ただ、雇用保険の助成金の申請書等、雇用管理責任者を記入する場面はいくつかある。
介護事業所では任意
介護事業所にも『雇用管理責任者』があるが、介護事業所においては、雇用管理責任者の選任は任意だ。厚労省のパンフレットでも〝事業主の皆様へ 「雇用管理責任者」を選任しませんか?〟というソフトな言い回しになっている。
ここで厚労省が『雇用管理責任者』の選任を勧めているのは、介護分野での人手不足が原因としてあるようだ。
人手不足を解消するには、介護労働者が能力を発揮し生き生きと働ける魅力ある職場づくりが大切で、その実現に向けて『雇用管理責任者の選任をご検討ください』ということのようだ。
・ 雇用管理責任者(介護)の職務
介護事業所における雇用管理責任者は、
介護事業所で、魅力ある職場づくりのために、介護労働者の雇用管理の改善、介護労働者からの相談対応、その他介護労働者の雇用管理の改善等に関する管理業務
を担当することになり、具体的には次の業務を行う。
○ 労働者の適切な配置
○ 賃金・評価等の処遇改善
○ 人材育成
○ メンタルヘルス対策
○ 労働者の相談体制の整備
○ ICTやロボット等の活用による業務効率化
等、労働者の身体的・精神的負担を軽減する取り組み
雇用管理責任者を選任するにあたって必要な資格等はないが、『介護労働者雇用管理責任者講習』が無料で実施されている。
また、冒頭で書いたように選任は任意だが、介護事業所対象の助成金の一部では、雇用管理責任者の選任が要件となっているものがある。