失業手当はそもそも失業中の生活を保障するとともに再就職をアシストするためにある。しかし再就職すれば当然失業手当は打ち切られる。失業手当受給中の再就職はソンなのか。
もちろんそんなことはなく、失業手当受給中に本気で再就職に取り組み、見事再就職を勝ち取った場合には、雇用保険から『お祝い』がある。
再就職手当
最も代表的なのがその名の通り『再就職手当』だ。こえは、失業した方が安定した職業に就いた場合に支給されるもので、具体的には
① 待期期間(求職の申込み以後最初の7日間)が満了し、
② 再就職等の前3年間に再就職手当や常用就職支度手当を受けていない
③ 所定給付日数の3分の1以上を残している方が、
④ 求職の申込み前に雇入れを約した(内定した)ものでない
⑤ 離職前の職場関係以外の、
⑥ 1年を超えて引き続き雇用されることが確実と認められる職業に就き、
または事業を開始した
場合に支給される。②の『常用就職支度手当』については後で触れる。
条件が『所定給付日数の1/3以上』残っていることなので、すべて残っていても対象になり得る。つまりまだ1日分も失業手当を受けていない場合だ。
ただし離職理由による給付制限があり、待期期間満了後1ヶ月以内の場合は、ハローワークまたは職業紹介事業者等の紹介により職業に就いた場合に限る。
つまり、給付制限期間中であっても、待期満了後1ヶ月を経過した後であれば、ハローワーク等の紹介なしでも対象になり得る。
④の『求職の申込み前に雇入れを約し』ている場合とは、次の仕事が決まっていながらハローワークに「何かいい仕事ありませんか」と求職の申込みをしたことになるので、これはズルいのでダメ。ということだろう。
これも言い換えると、ハローワークに『求職の申込み』をした直後にいい仕事を見つけて『雇入れを約する』ことは普通にあり得るので、『約した』のがたとえ待期期間中でも他の要件を充足していれば対象になる。
⑥の『1年を超えて』は『1年以上』でないところがミソとされる。
ただし『1年契約』なら『1年以内』なのでダメそうだが、1年以内に期限が切られていても、その雇用契約が『1年を超えて』更新されることが確実であると認められれば『1年を超えて引き続き雇用されることが確実』とみなされる。
・ 支給額は『基本手当残日数』分の 6割 or 7割
再就職手当の支給額は、基本手当(64才以下の一般の失業手当)の残日数分の6割または7割となる。『支給残日数』が当初の所定給付日数の1/3以上2/3未満なら6割、2/3以上なら7割だ。
たとえば15年務めた月給30万円(賃金日額1万円)の方(59才以下)が自己都合で退職した場合、所定給付日数は120日・失業手当の日額は6,103円なので(年齢と賃金による失業手当の日額)、再就職手当の額は、失業手当として給付された日数により、次のようになる。
失業手当の 支給された 失業手当の 再就職手当の
給付日数 失業手当 支給残日数 金額
0日 0円 120日 51万2652円
10日 6万1030円 110日 46万9931円
20日 12万2060円 100日 42万7210円
30日 18万3090円 90日 38万4489円
40日 24万4120円 80日 34万1768円
50日 30万5150円 70日 25万6326円
60日 36万6180円 60日 21万9708円
70日 42万7210円 50日 18万3090円
80日 48万8240円 40日 14万6472円
90日 54万9270円 30日 0円
100日 61万0300円 20日 0円
110日 67万1330円 10日 0円
120日 73万2360円 0日 0円
・ 支給申請は1ヶ月以内
再就職手当の支給申請は『安定した職業に就いた日の翌日から1ヶ月以内』なので、雇用保険の他の申請からみるとかなり忙しい。
この期間内に『再就職手当支給申請書』と一定の証明書類等をハローワークに提出しなければならない。
事業開始で再就職手当をもらう
個人的な話で恐縮だが、筆者は前職公務員で雇用保険はなかった。雇用保険料を払ったこともないのでないので文句は言えないが、前職を辞めた後、社労士開業を目指して勉強中は経済的にも非常に心細かった。
・ 事業開始でも可
前項の要件⑥にあるように、再就職手当は『事業の開始』でも認められる。
たとえば社労士資格を取った会社員が自己都合で会社を辞め、社労士事務所を開業するような場合でも該当する。これはありがたい話だ。
事業開始で再就職手当をもらうには、
『その事業により自立することができると公共職業安定所長が認めた事業を開始し、再就職手当を支給することがその者の職業の安定に資すると認められる』
ものでなければならない。この(その事業により)『自立することができると認められる』『安定した職業に就いた』ことの証明が、普通の再就職よりは難しい。
・ 雇用保険の適用事業主になる
まず、一発で認められる場合がある。それは
雇用保険の適用事業の事業主となる
ことだ。つまり『雇用保険の被保険者となる』従業員を雇って自らが『適用事業の事業主』となることだ。この場合は他の証明は一切いらない。
ただし、個人で従業員4人以下の農林水産業をやるような『任意適用』の場合は、適用事業の認定を得るまでの過程が非常に困難を伴うので、頭に入れておいた方がいい。
それ以外の業種や法人の場合は従業員が1人でも強制適用なので、準備が整えばすぐにでも可能だ。
人を雇わなくても可
ただ、人を雇うということはその人の人生を左右することにもなるので、海のものとも山のものともつかない新規事業に他人を巻き込むのに躊躇し、『最初は1人で開業しよう』とする場合が多いかもしれない。
その場合でも
(会社の)登記事項証明書・開業届・事業許可証
等の写しを提出し、次のいずれかに該当し、『1年を超えて事業を安定的に継続して行なうことができる客観的条件を備えているものとして安定所長が認めた』場合は対象になる。
a.通常、独立開業できる程度の資格・技能を有する者であって、自らの職業経験を生かして事業を開始するもの
b. 事業の開始にあたって、事業所の工事費、事業所等の賃貸料、設備・機器・備品の購入費・借料等、一定の経費を要したものであって、その地域の同種の他の事業と比較して事業実施体制、設備等がおおむね同様の事業実態にある。
c. (雇用保険の)被保険者とはならないが補助的に業務をこなす者(同居の親族を除く。)を複数雇用するもの
d. 他の事業主との請負契約等を締結する場合等、当該契約の内容から判断して1年を超えて事業の継続性が認められるもの
もっとも、事業を開始するとなれば他にも考えなければならないことがたくさん出てくるので、自分がやろうとしている事業が『たまたま』再就職手当の対象となるようなら申請も考えよう…
くらいのスタンスでいた方がいいかもしれない。