子が3才到達まで。厚生年金の標準報酬の特例
前回、育休・産休終了時、標準報酬を素早く低額に改訂できる特例について紹介した。この特例は健康保険・厚生年金保険の双方に共通するものだった。
・ 厚生年金保険限定
将来の老齢厚生年金は月々の月々の標準報酬と賞与の積み重ねで決まるのが原則だ。つまり育休・産休終了時改定を使っただけだとその分年金が減ってしまう。
そこでこれも申出を要件に、子が(基本)3才の誕生日の前月までは、標準報酬が下がった場合でも、もとの標準報酬のままで老齢厚生年金を計算していいことになっている。これを『養育期間標準報酬月額特例』といっている。
少子化対策の一環ではあろうが、これは『保険料に対する給付』という厚生年金『保険』の趣旨からいえば特例中の特例なので、これを利用しない手はない。
これは厚生年金保険限定の話だ。というよりは、健康保険は短期の給付が主なので、そんな必要はあまりないのだ。
養育期間標準報酬月額特例
子どもが小さいうちは、その養育のために勤務時間を短縮したり、残業を減らしたりすることで、標準報酬が下がることがある。これは前回説明した育休・産休終了時改定による場合もあるが、他のあれこれの事情の場合もある。
上の項では育休・産休終了時改定を行った場合について述べたが、『養育期間標準報酬月額特例』は、それ以外の要因で標準報酬が下がった場合も対象だ。
・ 保険料が下がるのはうれしいが…
標準報酬が低下するのは保険料が下がってうれしいが、長期的に考えれば将来の年金が下がることになるので不安…という方にはありがたい制度だ。
・ 産休・育休中なら標準報酬はそのまま
ここで、産休・育休中の『社会保険料免除期間』については、免除なく保険料を支払い続けた人と同じように将来の年金額が決定されるという制度を『₂₂₂.育休中の社会保険料免除は3才到達まで』で説明した。
つまり実際に育休・産休中の標準報酬については、通常は産休直前の標準報酬が維持されるので、保険料を払っていてもいなくてもその期間同じ標準報酬で働いたものとして年金額が決定されるので心配はない、
・ 保険料を払うようになると年金額が下がる?
それが産休・育休明けで、実際に保険料を支払うようになると、標準報酬が下がった場合は、年金額の基礎となる金額もそれなりに低額になってしまうことになる。
こうした事態を避けるために、『養育期間標準報酬月額特例』という救済措置があるのだ。
下がる前の標準報酬で年金を計算
ということで、理由はどうあれ、子の養育期間について標準報酬が減少する場合、子が(基本)3才の誕生日の前月までは、もとの標準報酬のままで老齢年金を計算していい。
・ もとの標準報酬より上がったときは通常通り
この規定の対象は『子が3才に達するまで』なので、公務員並みに3才到達まで育児休業を取得できる優良会社は別として、法律上の原則である1才到達までの育児休業を取得した場合は、その後約2年間と結構長期間だ。
本人の状況・企業の業績・社会の景気動向などによっては、その間にじわじわと給与が上がり、従前の標準報酬を超えることもあるだろう。そうした場合はどうなるのか。
この特例はあくまで元の標準報酬を『下回る』場合なので、子が3才に達するまでに元の標準報酬を上回った場合には、普通に標準報酬が上がることになる。
だから『申出』をしたまま、それを忘れて放っておいたとしても、老齢年金の計算に使用する厚生年金の標準報酬が元の標準報酬に抑えられるわけではないので、その点においても安心していい。
『元の』標準報酬っていつの?
ここまで何回も出てきた『元の』標準報酬とは、性格にはいつの標準報酬のことを言っているのか?
・ 通常は、出産前月の標準報酬
法律上は『当該子を養育することとなった日の属する月の前月』の標準報酬月額ということになっている。
普通は赤ちゃんが生まれたその日からその子を『養育することと』なるので、父母問わず、出生日が『当該子を養育することとなった』日だ。その出生日の前月の標準報酬をもって『従前標準報酬月額』、平たく言えば『元の標準報酬』ということになる。
・ 空白期間があっても、1年以内なら大丈夫
さらに、出産の1ヶ月以上前に離職していた場合など、『当該子を養育することとなった日の属する月の前月』に(社会保険の)『被保険者でない』場合は、
当該月前1年以内における被保険者であった月のうち直近の月
の標準報酬が、年金額の計算に使われることになっている。
出生前月すでに被保険者でなかった場合は、直近1年以内であればさかのぼって『元の標準報酬』とできる規定だ。
特例対象期間が終わる日
特例対象となる期間は、ここまでアバウトに『3才到達まで』としてきたが、正確にはこの期間は、次の日の翌日が属する月の前月までとなっている。
① 子が3才に達した日
② 被保険者資格喪失事由に該当した日
③ その子以外の特例対象の子を養育することとなった日
④ その子が死亡またはその子を養育しないことになった日
⑤ 保険料免除の適用を受ける育児休業・産前産後休業を開始した日
上で①・②・④は当然そうな気がするので、次で⑤について考えてみる。
弟・妹の産休・育休 ➡ 復帰 のときは、さらに特例
長子の『養育期間標準報酬月額特例』の対象期間中に弟・妹の出産に備えて産休を取った場合、もちろん再度保険料は免除されるが、長子の特例対象期間は前項⑤によって終了する。
その休業中の標準報酬は実際の低い標準報酬となり、年金額もこれで計算される。これはやむを得ないものと思っていただきたい。
さて、その弟・妹の産休・育休から復帰した場合でも、原則から言えば『当該子(この場合は弟・妹)を養育することとなった日の属する月の前月』の標準報酬が年金額の計算に使われることになる。
当然この標準報酬は『上の子を養育することとなった日の属する月の前月』の標準報酬より低い場合が多いだろう。その場合、年金額のもととなる標準報酬も低くなる。
こうした場合は、さらに特例が用意されていて、『上の子を養育することとなった日の属する月の前月』の標準報酬を、再び年金額のもととして良いことになっている。
例によってこれも本人の『申出』が要件になっているので、忘れないようにしたい。