₂₆₁.日額通勤手当はどうする?非課税限度変更




まさか、このタイミングで!

 

 いろいろな意味で我が道を行く高市政権がまたやってくれた。通勤手当の非課税限度の変更だ。

 マイカー等の通勤手当には所得税がかからない非課税枠が距離別に用意してあるが、この非課税枠を拡充するもので、それ自体はもちろん歓迎すべきことだ。

 『やってくれた』というのはそのタイミング。2025年11月19日に所得税法施行令を改正・翌11月20日施行!というもので、対象も2025年4月1日以降に支給されたものにさかのぼって適用というのだ。

 物事には準備と段取りというものが必要なのである。そのつもりだったのなら早く公表してほしかったというのが、正直なところ全国の給与計算者の恨み節ではないだろうか。

 まあ、そんなことをいつまでもボヤいていても始まらないので、その対応を考えていく。まず、改正された非課税枠を眺めてみる。
 

 通勤非課税枠は最大22.5%増

 
 今回、2025年4月1日以降支給の通勤手当の非課税枠(月額)は、自動車等の交通用具使用者について次のように拡充された。上に書いた通りこれ自体は歓迎すべきことだ。(通勤距離は片道)
 

     通勤距離      旧非課税枠   新非課税枠  増加率

  2km未満             0円      0円   ー
  2km以上  ~ 10km未満    4,200円 ➡  4,200円    0.0%
 10km以上 ~ 15km未満    7,100円 ➡  7,300円    2.8%
 15km以上 ~ 25km未満  12,900円 ➡ 13,500円   4.7%
 25km以上 ~ 35km未満  18,700円 ➡ 19,700円   5.3%
 35km以上 ~ 45km未満  24,400円 ➡ 25,900円   6.1%
 45km以上 ~ 55km未満  28,000円 ➡ 32,300円  15.4%
 55km以上           31,600円 ➡ 38,700円  22.5%
 

 という基準変更で、2km以上~10km未満は4,200円のまま変わらず、距離数が伸びるほど非課税枠の増加率も大きくなり、55km以上で最大の22.5%に達する。この理由は分からない。
 

何月分の通勤手当の非課税分がどうなるの?

 
 まず、いつの分の通勤手当がどういう扱いになるのか。

 個人の所得税の話なので、まず、今年『支給された』通勤手当が対象になるということはハッキリしている。

 次に改正の対象は、『2025年4月1日以後に支払われるべき通勤手当』ということになっている。つまり改正の対象は、当月払いなら4月分、翌月払いなら3月分以降の通勤手当だ。

 また、改正は2025年11月20日施行なので、11月20以降に支給される通勤手当の非課税枠は、すでに改正基準になっているはず…ということになるので、そうなっていれば11月20以後支給分については調整の必要はない。ということに法律上はなる。

 ただし、考えてももらいたい。給与計算というものはどんなに急いだってある程度の日数がかかるものだ。19日に交付された法律通りに20日に支払える事業所が日本全国に何か所あるのだ。それよりも別の実務上の問題として、給与を振込で支給しているところはまず絶対に間に合わない

 ということで、年末調整での対応も可能(あまりエラそうには言わないでほしいが…)ということになっている。

 その場合は、調整が間に合わなかった11月20日以降支給分も年末調整で調整することになるが、基本的には次のようになる。
 

当月支給   翌月支給   支給日      非課税分調整

3月分    2月分    ~3月31日      不要(改正対象前)
4月分   3月分    4月1日~      必要
 :    :       :
11月分  10月分    ~11月19日   必要
11月分  10月分    11月20日~   不要(調整済み?)
12月分  11月分    12月1日~     不要(調整済み?)
1月分     12月分     1月1日~      不要(無関係)
 

 つまり基本的には2025年4月1日~11月19日に支給された通勤手当が調整の対象になるが、その後に旧基準で支給した分も同じ対応で問題ない。
 

4月1日~11月19日支給の通勤手当の扱い

 
 というわけで4月1日~11月19日に支給した通勤手当の扱いだが、国税庁は、
 

 遡って税額の再計算を行う必要はなく、本来の年末調整の際に、改正後の非課税限度を適用した場合に過納付となる税額を清算することになります。
 

としている。具体的には、その間支給した通勤手当について、
 

イ. 改正非課税限度額によって新たに非課税となった部分を算出する
ロ. 源泉徴収簿の余白に『非課税となる通勤手当』と表示して、イの金額を記入する
ハ. 源泉徴収簿の『年末調整』欄の『給料・手当①』欄に、
 『総支給金額』の『計①』欄の金額からイを引いた金額を記入する

そして源泉徴収票については、

 給与所得の源泉徴収票の「支払金額」欄に、非課税とされる部分の通勤手当の金額を除いた金額を記入する
 

ことを求めている。

 つまり、計算しなければならないのはイ『新たに非課税となった額』で、これさえ分かればとりあえずはクリアだ。
 

毎月定額の通勤手当なら調整はカンタン

 
 まず、通勤距離20kmの方に毎月定額で1万5000円の通勤手当を支給している場合で考える。なお給与の〆日は月末・支給日は翌月の25日払いとする。

 この場合は、通勤手当の課税・非課税の内訳は次のようになる。
 

 月分    支給日    通勤手当 支給時の非課税額 非課税額 新たな非課税額

~2月分  1/25~3/25   15,000円  12,900円  12,900円    0円
3~9月分  4/25~10/25   15,000円  12,900円  13,500円  600円
10~11月 11/25・12/25  15,000円  13,500円  13,500円   0円
 

というように、この場合は3~9月分通勤手当として支給した分のうち、600円×7ヶ月分が新たな非課税額となるので、合計4,200円が、課税対象となる収入(つまり源泉徴収票上の収入)から消えることになる。

 もちろん事業所の通勤手当が、国で決めた通勤距離ごとの非課税額に合わせてあるか、これより少ない場合には、一切差額は発生しないので、そのままでいい。
 

日ごとの通勤手当はどうする?

 
 次に、日ごとに1日ずつ通勤手当を支払っている場合を考える。

 例として、月末〆・翌月10日払いの事業所で、通勤距離50kmの自動車通勤者に、1日1,500円の通勤手当を支給している場合を考える。この場合、通勤手当の非課税限度額は
 

        非課税限度額
旧基準 28,000円  ➡  新基準 32,300円
 

なので、月18日以内だと新旧どちらも27,000円以下の同額が非課税となって違いはない。月19日以上の月について新たな非課税となる金額を計算することになる。もちろん4月支給以降の分に限る。

 たとえば以下のようになる。
 

月分  支給日   出勤  通勤手当  支給時の  最終的な  新たに非課税に
                   非課税額  非課税額    なった額

12月分  1/10  19  28,500円  28,000円  28,000円     0円
1月分  2/10  18  27,000円  27,000円  27,000円     0円
2月分  3/10  22  33,000円  28,000円  28,000円     0円
3月分  4/10  20  30,000円  28,000円  30,000円  2,000円 ┓
4月分    5/9  21  31,500円  28,000円  31,500円  3,500円 ┃
5月分  6/10  17  25,500円  25,500円  25,500円    0円 対
6月分  7/10  19  28,500円  28,000円  28,500円   500円 象
7月分    8/8  24  36,000円  28,000円  32,300円  4,300円 期
8月分  9/10  16  24,000円  24,000円  24,000円    0円 間
9月分  10/10  23  34,500円  28,000円  32,300円  4,300円 ┃
10月分 11/10   22  33,000円  28,000円  32,300円  4,300円 ┛
11月分 12/10   19  28,500円  28,500円  28,500円     0円

合計       240 360,000円 329,000円  347,900円 18,900円
 

 この場合は、当初課税だった通勤手当(31,000円)のうち、18,900円が新たな非課税通勤手当になり、これを源泉徴収簿に記載することになる。
 

4月支給にさかのぼって通勤手当増額も可能

 
 別に通勤手当の非課税枠と実際の通勤手当には何の関係もないが、実際には便宜上、この非課税枠をそのまま通勤手当の支給額にしている事業所もある。

 原資に余裕のある企業なら、〝もう少し支給してやっても良かったかな〟というところもあるかもしれない。『エッ?今ごろ非課税枠を増やされても…。もう元の非課税枠通りで払っちゃってるよ。何とかならないの?』というような場合だ。
 

・ 通勤手当の追加支給は『昇給差額』

 
 これは別に問題はない。国税庁のホームページにはわざわざその対応についても書かれているが、書かれているいないに関わらず、通勤手当の追加支給は一般的な『昇給差額の後日支給』₂₅₃.昇給時期と標準報酬〟の一種という扱いで良い。

 つまり、翌月支給の会社で通勤手当を25年3月分(4月支給)にさかのぼって引き上げ、その『昇給差額』を11月分給与(12月支給)で支払うなどだ。

 もちろんその場合は、25年11月分~26年1月分給与の変動によっては社会保険料の『月額変更』に該当し、社会保険料が増額になる可能性はある。

 

 

2025年11月26日