₂₆₃.報酬による年金カットは2026年から大幅減


【2026年度版】



 65才以上の方には基本的に老齢年金が支給される。ただし65才以上でもバリバリに働いて稼いでいる方は大勢いるので、あまりにも報酬が多い方に普通に老齢年金を支給するのも『老齢年金』の趣旨に反する。

 …ということかどうかは定かでないが、そういう場合は年金をカットすることになっている。

 大ざっぱにいうと現在は『報酬+老齢厚生年金』が51万円を超すと、超した分の半分がカットされることになっている。
 

年金カット額は、最大5.5万円以上減

 
 この年金カット額が、2026年度から大幅に引下げられることになった。

 基準となる上記『報酬+老齢厚生年金』の基準が11万円増えて62万円になることになったのだ。

 カットされる金額はこの基準を超えた分の半分なので、これまでカットされていた方は最大5.5万円以上年金が増えることになる。

 また、特に年金カットを避けるために報酬額を引き下げているという方には役員報酬をもらっている方が多いと思う。役員報酬の場合は普通年に1度しか報酬変更の機会はないはずなので、チャンスを逃さないようにすることも必要だ。

 なお、この62万円という新基準だが、現在の『51万円』も元々名目賃金の変動によって年1回自動的に変わることになっているので、今回も『名目賃金』の変動によっては64~65万円になる可能性もある。詳しくは分かり次第公開する。

 Blog公開日としては少々早いが、今回の記事は2026年度版とした。
 

年金カット基準を11万円引上げ

 
 この、報酬によって年金をカットする仕組みを、聞いたことぐらいはあると思うが『在職老齢年金』という。

 カットされるのは厚生老齢年金(報酬比例部分)だけで、基礎年金は一切カットされない。

 また、加給年金も基本的にはカットされないが、厚生年金全額がカットされる場合は加給年金もすべてカットされる。

 前項のタイトルで〝年金カット額は、最大5.5万円『以上』減〟としたのは、これもあるからだ。
 

カット基準は、標準報酬と過去1年の賞与で決まる

 
 老齢年金がカットされるのは次の場合だ。
 

・ 年金カット基準

 
本来の厚生年金月額*¹標準報酬*²以前1年間の賞与*³÷ 1262万円*⁴
 

*¹本来の厚生年金月額

 加給年金を含まない老齢厚生年金の月額。『本来の』というのはカットされる前の金額のこと。通常、年金は2ヶ月ごとに支給されるので、その半分が『月額』だ。
 

*²標準報酬

70才以上の場合は、正しくは『標準報酬月額相当額』。算定方法は標準報酬と同じだ。
 

*³以前1年間の賞与

 正しくは『標準賞与額』で、賞与の1000円未満を切捨てたもの。1回150万円を超える場合は150万円になる。その月まで1年間にもらった『標準賞与額』の総額がここに入る。
 

*⁴62万円

 これが基準となる金額で、若干の変動があり得る。2025年度までは51万円だ。
 

ここで、
 

標準報酬』+『以前1年間の賞与』÷12 を、『総報酬月額相当額』

 
という。この言葉はこの後で使う。
 

カット額は62万円を超えた分の半分

 
 年金がカットされる金額は次の式による。注意書きは前項と同じだ。
 

本来の厚生年金月額+ 総報酬月額相当額 ー62万円 )÷ 2 = カット金額

 
 要は、報酬と本来の年金額を合わせた金額が62万円を超えると、超えた分の1/2が『カット金額』になるわけだ。

 この『カット金額』が、本来の老齢厚生年金月額そのものを超える場合は、厚生年金全額がカットされることになるので、その場合は付随する『加給年金』も支給されない
 

・ 報酬50万円・年金30万円の場合

 
 例として、標準報酬50万円・本来の厚生年金月額30万円の場合を考える。過去1年間の賞与は0とする。この場合は『総報酬月額相当額』も50万円になる。
 

総報酬月額相当額50万円      本来の厚生年金30万円
●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●
┗━━━━━━━━62万円引く━━━━━━━┛┗18万円 ┛
                        ┗━┛
                  ●●●●●●● 1/2
                   支給21万円   カット
 

ということでこの場合の支給額は、18万円の半分9万円カットされて21万円になる。

 2025年度中は、51万円引いた残りの21万円の半分14.5万円カットされ、支給は15.5万円なので、この違いは大きい。
 

賞与の余波は1年間続く

 
 前項までで分かったと思うが、年金カット金額には『以前1年間の賞与』の項が含まれる。これを忘れてしまう方が多い。

 とにかく一度賞与を支給したら、その月以後1年間はその余波が続いてカット金額を引上げる方向に作用することになるので、そのへんもよく考えて賞与金額を設定した方がいいだろう。

 たとえば、'25年12月に150万円の賞与を支給した場合、'26年11月までは毎月6万2500円ずつカット金額が引上げられることになる。

 1回の賞与は、ウェディングドレスのように裾が長いのだ。
 

結局、年金カット額はどうなる

 
 ということで、報酬(正しくは上記『総報酬月額相当額』)と本来の年金(正しくは老齢厚生年金)による年金カット額は次のようになる。最上段の横軸は、本来の年金額だ。

 この表で『全額』と書かれているところは年金が全額カットされるので、その場合は加給年金もカットされることになる。
 

 上段は2025年度下段は2026年度(予定)だ。

 

*報酬

タテ軸の『報酬』は、正しくは『標準報酬+以前1年間の賞与÷12』(総報酬月額相当額)だ。
 

賞与がなければ、全額カットはほぼナシ

 
 厚生年金の標準報酬は現在最大65万円なので、賞与が支給されていない場合は月額報酬がいかに多くてもこの表の『報酬』が65万円を超えることはない。だから『報酬』が65万円の欄より下は見る必要はない。

 つまり『賞与ナシ』の場合は、2026年度はいかに報酬が多くても『年金全額カット』という場面はなくなる

 この表で報酬『70~100万円』のところを見る必要があるのは、報酬以外に賞与をもらっている方だ。たとえば標準報酬が最高の65万円で、かつ1回150万円の賞与を1年間に3回もらっている方は、総報酬月額相当額(この表では『報酬』)が102.5万円になる。

 ただし、2027年9月からは厚生年金の標準報酬の最高等級の段階的引上げも計画されているので、27年度以降は、ここに書いたことも若干変更を余儀なくされる。

 これについては、別のページでいずれ紹介する。

 

 

2025年12月08日