₂₆₄.女性はあと5年。65才未満の老齢年金



特別支給の老齢厚生年金



 前回は65才未満の年金については対象者が残り少ないということで完全に無視してしまったが、まだまだあと5年くらいは『65才未満の老齢年金受給者』もいらっしゃる。

 今は遠い昭和の時代。60才で定年退職・60才以降は年金生活という人生を送る方がスタンダードだった。

 これを『年金受給は65才から』と抜本的に改めたのが今から40年前。1985年の年金大改正だ(今回は『年金』といったら老齢年金を指すことにする。)。

 そうは言っても受給開始を突然5年遅らせたら大混乱か暴動が起こる。

 ということで、受給開始年齢を遅らせる計画が実行に移されたのは17年後の2002年から。さらにそこからゆっくり29年かけて徐々に受給開始年齢を遅らせることにした。

 またその間、65才未満で受給開始年齢に達する方には、本来の老齢年金とは全く別扱いの『特別支給の老齢厚生年金』を支給することにした

 少し退屈かもしれないが、まずはこの遠大な計画を振り返ってみよう。次項の及び部分が『特別支給の老齢厚生年金』だ。
 

まずは男性から。3年で1才ずつ

 
 というわけで、年金支給開始年齢の65才への移行は1941年4月2日生まれの方から始まった。といってもこれは『男性』だけで、女性はさらに5年遅れで始まる。

 ただし、ここで『男性』とは、女性の公務員・私立学校の教職員等も含める(以下同じ。)
 

          65才▼            男性      女性

 報酬比例部分●●●●●■■…厚生年金  '42.4.1生まで  '46.4.1生まで
 定 額 部 分●●●●●■■…基礎年金
     60才▲
 報酬比例部分●●●●●■■…厚生年金  '41.4.2~    '46.4.2~
 定 額 部 分 ●●●●■■…基礎年金   2002年度~   2007年度~
     61才▲
 報酬比例部分●●●●●■■…厚生年金  '43.4.2~    '48.4.2~
 定 額 部 分  ●●●■■…基礎年金   2005年度~   2010年度~
      62才▲
 報酬比例部分●●●●●■■…厚生年金  '45.4.2~    '50.4.2~
 定 額 部 分   ●●■■…基礎年金   2008年度~   2013年度
       63才▲
 報酬比例部分●●●●●■■…厚生年金  '47.4.2~    '52.4.2~
 定 額 部 分    ●■■…基礎年金   2011年度~   2016年度~
        64才▲
 報酬比例部分●●●●●■■…厚生年金  '49.4.2~    '54.4.2~
 定 額 部 分     ■■…基礎年金   2014年度~   '2019年度~
     61才▼
 報酬比例部分 ●●●●■■…厚生年金  '53.4.2~    '58.4.2~
 定 額 部 分     ■■…基礎年金   2014年度~   '2019年度~
      62才▼
 報酬比例部分  ●●●■■…厚生年金  '55.4.2~    '60.4.2~
 定 額 部 分     ■■…基礎年金   2017年度~   2022年度
       63才▼
 報酬比例部分   ●●■■…厚生年金  '57.4.2~    '62.4.2~
 定 額 部 分     ■■…基礎年金   2020年度~   2025年度~
        64才▼
 報酬比例部分    ●■■…厚生年金  '59.4.2~    '64.4.2~
 定 額 部 分     ■■…基礎年金   2023年度~   '2028年度~
         65才▼
 報酬比例部分     ■■…厚生年金  '61.4.2~    '66.4.2~
 定 額 部 分     ■■…基礎年金   2026年度~   2031年度~
 

 男性最後の受給者は61年4月1日生まれ

 
 ということで、男性最後の『特別支給の老齢厚生年金』受給者は'61年4月1日生まれの方ということになる。

 この方は2025年の誕生日の前日3月31日に64才に達して受給権を得、実際の支給は翌月の4月分から始まっている。これは厚生年金保険法で次のように決まっているからだ。
 

 (厚生年金保険法第36条1項)
 年金の支給は、年金を支給すべき事由が生じた月の翌月から始め、権利が消滅した月で終るものとする。
 

 というわけで、'61年3月2日~4月1日生まれの方は、2025年4月分から特別支給の年金を受給できている。最終は2026年の3月分で、その後は65才以上の本来の老齢年金額額を受取れることになる。

 そして全体としては、この2026年の3月分で基本的に男性の『特別支給の老齢厚生年金』は終了となる。
 

女性はあと5年ある『特別支給』

 
 女性の年金支給開始年齢は男性より5年遅れで引上げられているので、男性の『特別支給』が2025年度で終了しても、あと5年は続く。

 1962年4月2日以降の生年月日の女性の、一般的な年金受給パターンは次のようになる。
 

生年月日   『特別支給』の初年金  本来の老齢厚生年金

'62.4.2~     63才           65才
      2025年5月分~26年4月分   2027年5月分~

'63.4.2~     63才           65才
      2026年5月分~27年4月分   2028年5月分~

'64.4.2~     64才           65才
      2028年5月分~29年4月分   2029年5月分~

'65.4.2~     64才           65才
      2029年5月分~30年4月分   2030年5月分~

'66.4.2~     なし           65才
                     2031年5月分
 

65才未満の年金は、本来の老齢年金とは違う

 
 こうした65才未満でもらえる『特別支給の老齢厚生年金』は、65才から始まる『本来の老齢年金』とはかなり違いがある。全く別物と考えた方がいい。

 『特別支給の老齢厚生年金』の受給者はかなり残り少なくなってきていることもあって、年金というと本来の老齢年金の解説がほとんどなので、誤解されている部分も多い。そこで、ここだけは覚えておいた方がいいという点にしぼっていくつか説明する。
 

・ 支給されるのは『報酬比例部分』だけ

 
 現在(男性2014年度以降・女性2019年度以降)支給されている特別支給の老齢厚生年金は、厚生年金(共済年金含む。以下同じ。)加入期間の報酬に応じた部分だけだ。

 65才以上の年金は『基礎年金』と合わせて2階建てになっているので、特に厚生年金加入期間の少ない方は非常に少額になってしまうが、65才以降は1人前の年金が支給されるはずなので、悲観する心配はない。
 

・ 『1年以上の厚生年金期間』が支給要件

 
 65才以上の老齢年金は厚生年金期間が1ヶ月でもあれば支給されるが、特別支給の老齢厚生年金はこの期間が『1年以上』ないと支給されない。もちろん厚生年金期間が1年未満の場合は、65才以上の老齢年金であってもわずかだ。
 

・ 繰下げは一切できない

 
 特別支給の老齢厚生年金は65才以上の年金と違って『繰下げ』はできない。年金の請求時効は5年なので5年間はさかのぼって受給することはできるが、本人がいくら『繰下げ』のつもりで巻ていたからといって金額は1円も増えることはない。

 年金は請求しないと支給されないとので請求しないで待っていることは可能だが、そんなことをやっても何の役にも立たないことだけはハッキリしているので、諸物価高騰の折でもあり、請求していなかった方は急いで請求した方がいい。

 なお、数年分まとめて受給したからといって数年分の年金に対する所得税が一気にかかってくることはないが、過去数年分の確定申告をやり直す必要が出てくることはある。
 

(参考)所得税法基本通達36-14より

 雑所得の収入金額または総収入金額の収入すべき時期は、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に掲げる日によるものとする。
⑴ 法第35条第3項≪雑所得≫に規定する公的年金
 イ 公的年金等の支給の基礎となる法令、契約、規程又は規約(略)により定められた日
 ロ (略)
(注)裁定、改訂等の遅延、誤びゅう等により既往にさかのぼって支払われる公的年金等については、法令等により定められた当該公的年金等の計算の対象とされた期間に係る各々の支給日によることに留意する。
 

・ 『特別支給の老齢厚生年金』だけの繰上げもできない

 
 たとえば63才・64才から支給される特別支給の老齢厚生年金を『繰上げ』して、その前から(もちろん60才以降に限る)受給することはできる。

 ただしその場合は、65才以降に支給される本来の老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)も同時に繰上げることになり、『特別支給』分だけ単独で繰上げることはできない。

 例として、特別支給の老齢厚生年金が64才から支給される方が60才からの支給に繰上げた場合、65才からの老齢基礎年金も同時に繰上げることになるため支給額はたとえば次のようになり、それが一生涯続くことになる。
 

       本来の金額(例)     減額率     繰上げ時の金額(年額)

報酬比例部分  100万円    4/1000×48 = 19.2%   80万2000円
基礎年金部分    80万円    4/1000×60 = 24%    60万8000円
  計     180万円                   141万円
 

 他、障害年金が受給できなくなる場合があるなど他の注意点は、本来の老齢年金を繰上げた場合と共通するのでここでは省略する。
 

報酬による年金カットは65才以上と同じ

 
 65才未満の方なら現在では普通に働いている方がほとんどだと思う。こうした方は、報酬や過去1年間の賞与によっては年金額がカットされる。

 この基準は2021年度まで、65才以上の方より非常に多くカットされるように設定されていた。具体的には年金額と報酬額の合計が28万円を超すと減額されるようになっていたのだ。

 2022年度以降はこのカット基準は65才以上と同じ(₂₆₃.報酬による年金カットは、2026年度から大幅減)になったので、報酬が月65万円以下の方ならほぼカットの心配はなくなった。

 

2025年12月19日