育休明け・産休明けで職場復帰するとき、育児に伴って労働時間が減少して給与が下がることはよくある。法律で定められた育児短時間勤務制度などや残業制限等を利用する場合もあるだろうし、他の事情のときもあるだろう。
・ 申出により、復帰直後3ヶ月間で算定
この場合、育児休業終了日(育児休業をとっている最後の日)に3才未満の子を養育している場合や産前産後休業終了時には、
『育児休業等終了時改定』
や
『産前産後休業終了時改定』
を申し出て、標準報酬を下げてもらう…つまり保険料を下げてもらうことができる。
理屈でいえば育児休業より産前産後休業の方が先だろうが、産休後は引き続いて育児休業に入る方が多いと考えて、タイトルもこの順序にした。
育児休業終了の方に『等』がついているのは、₂₂₂.育休中の社会保険料免除は3才到達までで書いたように、育児介護休業法上の育児休業は1才(状況によっては1才2ヶ月・1才6ヶ月・2才)までとなっていることによる。
それ以降の会社独自の育児休業は法律上は『育児休業に準ずる休業』として別扱いになるのだ。もちろんこうした『準ずる休業』からの復帰時も含めて改定の対象になるよ…というのが『育児休業等』の表記の趣旨だ。
・ 月額変更より条件はゆるい
この場合、月額給与や所定労働時間が減少するなど『固定的給与が減少』する場合は随時改定(月額変更)の対象にもなるが、その場合は満額支給月が起点になるので、たとえば月末〆翌月払いの会社で10月2日に復帰した場合は11月分が起点になる。
そこから3ヶ月間の平均をとるので、結論が出るのは1月分の給与が出る2月になる。つまり3月にならないと改定後の標準報酬は適用にならない。
さらに、2月に確定した減少後の報酬月額が、従前の標準報酬より2等級以上下がっていなければ対象にならない。
これに比べれば、育休・産休終了時改定は、かなり条件がゆるい。
・ 次の定時決定などまでが期限
この育休・産休終了時改定は、当然のことながら育休・産休終了時1回だけだ。その有効期間も次の定時決定・随時改定までの措置になる。
育休・産休終了時改定はスピーディー
随時改定に比べると、育休・産休終了時改定はスピーディーなのも特徴だ。
・ 随時改定との違い
随時改定との違いは大きく5点ある。
① 本人の申出が要件
育休・産休終了時改定はあくまで例外で、放っておけば従前の標準報酬がそのまま続く。もちろん固定的給与の変動など随時改定の条件を満たしたときなど強制的に変更される場合を除く。
標準報酬が低くなれば傷病手当金や次の出産時の出産手当金が減るなどの不利益もあるので『申出』だ必要な規定になっている。
もちろんこの改定を申し出ただけだと将来の年金額にも影響してくるが、これについては別に救済規定があるので、心配はいらない。
② 固定的給与の変動は不要
育休・産休終了時改定は、給与変動の理由を問わない。所定労働時間が減少する必要もないし、合意による職種変更等で単価が変更になる必要もない。
ただ単にそれまでの標準報酬の範囲よりも『給与が減少した』という事実があるだけで良い。
③ 復帰した月分以後3ヶ月間の給与で即決
育休・産休終了時改定は、復帰した月分以後3ヶ月間の給与の平均で標準報酬を決める。
給与〆日の翌日ドンピシャで復帰した場合を除いて、復帰した月はその一部しか報酬の基礎になっていないことになるが、それでも次の④でハジかれない限り3ヶ月平均の対象になる。
随時改定のように『満額出た月から平均しましょうね…』というような悠長なことはしないのだ。
④ 17日(11日)未満の月は除いて平均
③でも触れたが随時改定の際は、報酬支払基礎日数が17日(*一定の方は11日。以下同じ)未満の月が1ヶ月の月でもあればそもそも改定の対象外だ。
育休・産休終了時改定は逆に、17日以上の月が1ヶ月でもあれば対象になる。この点は定時決定の規定に近い。
たとえば復帰月が17日に満たない場合は、翌月・翌々月の2ヶ月間で平均をとることになる。
* 一定の方とは、週の所定労働時間・月の所定労働日数のいずれかが、通常労働者の3/4未満の短時間労働者
⑤ 1等級でも差があれば改定
随時改定なら、従前の標準報酬と2等級以上の差が生じなければ改定しないが、育休・産休終了時改定の場合は、1等級差でも改定になる。
育児休業終了時改定の計算例
ここでは例として、月末〆・翌月払い・時給1500円・1日6時間・週5日の条件で働いていた方(標準報酬20万円)が、10月8日から同様の条件で育児休業から復帰した場合で考える。
月 基礎日数 労働時間 総支給金額
10月 17日 95h 14万2500円
11月 15日 90h 13万5000円
12月 20日 122h 18万5000円
10月分は復帰月ではあるが、基礎日数が17日あるので計算に含める。
11月分は17日未満なので含めない。
12月分は文句なく計算に含める。
その結果、標準報酬の計算は次のようになる。
( 14万2500円 + 18万5000円 ) ÷ 2 =16万3750円 ➡ 16万円
ということで、この方は本人の申出があれば、翌1月分から標準報酬16万円として保険料を算定することができる。
なお、もちろん有給休暇を取得した日数も『基礎日数』に含める。