₁₈₉.フリーランス法の対象と規制事項



 前2回の一人親方等の特別加入のところでも一部『フリーランス』の名が登場した。これ以外の業種の方も含めて一人親方等は広い意味ではすべてフリーランスだ。
 

24年11月1日 フリーランス法施行

 
 フリーランス法(『特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律』)が'24年11月1日施行されたので、ここでまとめておく。

 フリーランスは労働者でないので、労働基準法をはじめとする労働法の対象ではない。自由対等な事業者間の取引になる(はずな)ので、民法の規定がそのまま適用されるのが原則だ。

 ただ現実には、大手事業者とフリーランスでは力関係に圧倒的な違いがあることからフリーランスが不当な扱いを受ける事例が多発したため、一定の規制がかけられることになった。
 

この法律で『フリーランス』とは

 
 この法律で保護対象となる『フリーランス』(法律上は『特定受託事業者』等)とは、

企業から業務を委託される、従業員を使用しない個人・法人代表

をいう。ここで『従業員』には、一時的に雇用される者は含まないことになっていて、具体的には雇用保険の適用対象者(週20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる方)が『従業員』となるので、アルバイトをたまに雇用するような方は『フリーランス』に含まれる。

 具体的には、次の要件を満たす方が、この法律での『フリーランス』だ。
 

・ 『フリーランス法』の保護対象となるフリーランスの要件

① 労働者でない
② 雇用保険加入対象となるような従業員がいない
③ 物品販売の事業ではない
④ 一般消費者から業務を委託される方でない
⑤ 不特定多数の消費者・企業から業務を委託される方でない
 

 ①の『労働者でない』のは当然なのだが『業務委託契約』を結んでいれば労働者でないと思っている方もいるのであえて入れておいた。『48.『業務委託契約』でも労働者?』でも書いた通り、契約の如何を問わず実態として労働者であれば労働者なので注意してほしい。
 

・ フリーランスがフリーランス法違反?

 
 ところで業務を『委託する』側の『企業』には、当然個人企業も含まれる。フリーランス自身も委託したフリーランスに『フリーランス法』違反を犯す恐れもあるので、『人のふり見て我がふり直せ』のことわざ通り、気を付けた方がいい。

 フリーランスがフリーランスに業務委託してフリーランスを保護する法律でフリーランスが訴えられることになったらシャレにならない。

 もっとも『従業員を使用していない』企業が業務委託する場合の義務は、それ以外の企業よりは項目は少ない。委託事業者側の規模や委託期間に応じて義務的事項は段階的に増えていく。
 

・ 義務的事項は4段階

 
 結局4段階になるので、ここでは『レベルⅠ』から『レベルⅣ』とする。ここだけの筆者流の表記なので「ウチはレベルⅠですから…」とか言ってもだれにも通じないのでご注意ください。
 

委託事業者の規模や委託期間による義務項目

 

・ レベルⅠ 従業員を使用していない企業

 

① 書面等による取引条件の明示

 
 業務委託した場合、直ちに以下の条件を明示することが義務付けられる。この項目は完全に1人だけの事業でも『委託者側』として対象になるので、委託者がフリーランスだとしても規制が及ぶ。

 なお、『書面等』にはメール・SNS等も含まれるが、書面の交付を求められたときは交付しなければならない。
 

・ 書面等で明示すべき取引条件

  ⑴ 業務の内容
  ⑵ 報酬額
  ⑶ 支払期日
  ⑷ 発注事業者・フリーランスの名称
  ⑸ 業務委託した日
  ⑹ 役務の提供を受ける日
  ⑺ その場所
  ⑻ 検査完了日
  ⑼ 報酬の支払方法に関する必要事項(現金以外の場合)
 

・レベルⅡ 従業員使用の企業

 
 ①に加え、次の義務がある。
 

② 報酬支払期日の設定(60日以内)・期日内の支払い

 
 成果物受領後60日以内のできるだけ早い日に報酬支払期日を設定し、期日内に支払うこと。
 

③ 募集情報の適格表示

 
 広告などにフリーランスの募集情報を掲載する場合の義務として、

  ⑴ 虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはならない
  ⑵ 内容を正確かつ最新のものに保たなければならない
 

④ ハラスメント対策に関わる体制整備

 
 フリーランスに対するハラスメント行為に対し、次の措置を講じなければならない。

  ⑴ ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化
  ⑵ 相談や苦情に対応するために必要な体制の整備
  ⑶ ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
 

・ レベルⅢ 従業員使用の企業の、1ヶ月以上の業務委託

 
 1ヶ月以上の業務委託をする場合、①~④の規定に加え、次の行為は禁止される。
 

⑤ 禁止行為

  ⑴ 受領拒否
  ⑵ 報酬の減額
  ⑶ 返品
  ⑷ 買い叩き
  ⑸ 購入や利用強制
  ⑹ 不当な経済上の利益の提供要請
  ⑺ 不当な給付内容の変更・やり直し
 

・ レベルⅣ 従業員使用企業の、6ヶ月以上の業務委託

 
 6ヶ月以上の業務委託の場合は、①~⑤に加えて次のような、準労働者的な扱いが必要になる。
 

⑥ 育児介護等と業務の両立に対する配慮

 
 6ヶ月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に対して必要な配慮をしなければならない。

  ※ 育児・介護による納期変更・オンライン化等
 

⑦ 中途解除等の事前予告・理由開示

 
 さらに、業務委託の中途解除・不更新の場合は、

  ⑴ 原則として30日前までに予告しなければならない。
  ⑵ 予告の日から解除日までにフリーランスから理由開示請求があった場合は、
     理由を開示しなければならない。
 

罰則

 
 フリーランス法には直接の罰則はないが、違反行為があった場合は、公正取引委員会・中小企業庁長官・厚生労働大臣は、違反行為について、助言・指導・報告徴収・立入検査・勧告・公表・命令の措置を講ずることができることになっている。

 この中で、今の時代何といっても一番怖いのは『公表』だろう。『この企業はフリーランスに対してこんなに悪いことをやっていました!』と公的機関から公式に公表されたら、大企業なら数億円の罰金よりもこたえるはずだ。

 もっともこの『命令』や『検査拒否』に対しては、50万円以下の罰金が法定されている。
 

下請法との関連

 
 これに似た法律として『下請法』がある。下請法では、

・ 資本金3億円超の事業者が同3億円以下の事業者を下請として
              または
・ 資本金1000万円超の事業者が同1000万円以下の事業者を下請として

業務を委託した場合などは、『親事業者』に次の義務が発生する。
 フリーランスが下請法にいう『下請』となることも多いので、フリーランス法と対照すると以下のようになるようだ。
 

・ 下請法による『親事業者』の義務

   親事業者の義務           フリーランス法

 ① 書面の交付            レベル Ⅰ~Ⅳ
 ② 書類の作成・保存
 ③ 下請代金の支払期日を決める    レベル Ⅰ~Ⅳ
 ④ 遅延利息の支払い        
 

   親事業者の禁止事項

 ① 受領拒否             レベル Ⅲ・Ⅳ
 ② 下請代金の支払い遅延       レベル Ⅱ~Ⅳ
 ③ 下請代金の減額          レベル Ⅲ・Ⅳ
 ④ 返品               レベル Ⅲ・Ⅳ
 ⑤ 買い叩き             レベル Ⅲ・Ⅳ
 ⑥ 購入・利用強制          レベル Ⅲ・Ⅳ
 ⑦ 報復措置            
 ⑧ 有償支給原材料等の対価の早期決済
 ⑨ 割引困難な手形の交付
 ⑩ 不当な経済上の利益の提供要請   レベル Ⅲ・Ⅳ
 ⑪ 不当な給付内容の変更・やり直し  レベル Ⅲ・Ⅳ
 

 こうしてみるとフリーランス法と重複する部分もあるが、趣旨目的や適用範囲が違う複数の法律で同じ行為が禁止されることはよくある。

 また、こうしたフリーランス法や下請法での禁止事項は、民法等他の法律でも元々違法なものもあるので、そうした場合はダブルまたはトリプルで違法ということになる。

 

次 ー ₁₉₀.海外派遣者の労災特別加入 ー

 

※ 文末変更
最終行 
違法というだけで、特別問題はない。 ➡ 違法ということになる。 '24.12.16

2024年11月19日