₁₉₀.海外派遣者の労災特別加入



 海外派遣者の場合が、特別加入を大きく分けたときの3つ目、『第3種特別加入』だ。

 国内の事業なら、労働者であれば当然何もしなくても自動的に労災保険の対象(一部除く。)だが、外国には日本の施政権は及ばない。海外の事業場に派遣された労働者が業務上の災害を被っても、普通は派遣された国の災害補償制度が適用される。

 しかし、海外といっても国によってその補償制度には相当のバラつきがあり、適用範囲や補償内容が十分でないこともあるので、日本での『特別加入』によって、海外での労災にも対応しようということになった。

 というわけで、法の趣旨からすればその対象は『労働者』ということになりそうだが、国内の中小事業主の特別加入(第1種)との均衡を考慮して、国内の中小事業と同じ要件(₁₈₄.社長も労災保険に入れる?)になる海外の『中小事業』に事業主等として派遣される方も対象となっている。
 

海外派遣者として特別加入できる人

 
 海外派遣者として特別加入(第3種特別加入)できるのは、次の方々だ。
 

  ① 日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人
  ② 日本国内の事業所から、海外にある中小事業に事業主等として派遣される人
  ③ 国際協力機構等から、開発途上地域で行なわれる事業に派遣される人

 
 ②の『中小事業』は、国内の中小事業主等の特別加入(第1種)の要件と同じで、次のようになっている。
 

・ 事業主等が特別加入できる海外の『中小事業』

 

       業種             労働者数

   ① 金融・保険・不動産・小売業     50人以下
   ② 卸売業・サービス業         100人以下
   ③ その他の業種            300人以下
 

現地採用はダメ

 
 あくまでこの特別加入は、国内の事業に所属している人が海外派遣された場合を想定しているので、すでに現地にいる人が『現地採用』された場合は対象にならない。もちろん、海外で新しく事業を始めた『中小事業主』もダメだ。
 

海外『出張』なら加入は不要

 
 ここで『出張』と『派遣』を混同する方がいそうだが、海外『派遣』とは、海外の事業場に所属することになる場合だ。

 海外『出張』なら、日本の事業場に所属しながらたまたま海外に行っているだけなので、業務災害にあっても普通に日本の労災保険制度の対象になる。従って特別加入は不要だ。
 

・ 海外出張と海外派遣

 
 厚労省では、この『出張』と『派遣』の違いを次のように例示している。
 

  ○ 海外出張(普通の、国内の労災保険の対象)

   ① 商談
   ② 技術・仕様などの打ち合わせ
   ③ 市場調査・会議・視察・見学
   ④ アフターサービス
   ⑤ 現地での突発的なトラブル対処
   ⑥ 技術習得などのために海外に赴く場合

  ○ 海外派遣(第3種特別加入の対象)

   ① 海外関連会社に出向する場合
   ② 海外支店・営業所などへ転勤する場合
   ③ 海外で行う有期事業に従事する場合
 

手続きは、事業主が管轄の監督署へ

 
 海外派遣者の特別加入(第3種)については、第1種や第2種と違って、事務組合への事務委託や特別加入団体への加入は不要だ。

 大体そんなことになったら、中小事業に限られている労働保険事務組合に加入できない大企業からの海外派遣者は、特別加入から締め出されてしまう。

 そういうことなので、海外派遣者の特別加入については、国内の事業所がその事業所を管轄する監督署に申請書を提出するだけでよい。
 

・ 海外の中小事業主として赴任の場合は、第1種に準じた書類を要す

 
 ただし、海外の中小事業主等として派遣される場合は、国内の『中小事業主等の特別加入』に準じて、派遣先の事業の種類・労働者数・所定労働時間等を付記し、証明資料を添付する必要がある。
 

赴任途中の事故は基本『業務災害』

 
 海外派遣先への赴任途中の事故については、次の要件を満たす限り『業務災害』として補償される。一般的に労働者の場合には、赴任途中の事故は『業務災害』として補償されると考えてよい。
 

・ 海外への赴任途中の災害が業務災害となる要件

 
   ① 海外赴任を命じられた労働者がその転勤に伴う移転のため、
       転勤前の住居などから赴任先事業場へ赴く途中で発生した災害
   ② 赴任先事業主の命令に基づく赴任であり、
       社会通念上、合理的な経路及び方法であること
   ③ 赴任に直接必要ない行為・恣意的行為による災害でない
   ④ 赴任に対して、赴任先事業主から旅費が支給される
 

給付基礎日額と保険料

 

・ 基礎日額は3500円~2万5000円

 
 海外派遣者については、特に大多数の労働者の場合はれっきとした『給与』が存在しているので、これを基に算定していいような気もするが、中小事業主や一人親方同様に日額を『申請』し、これによって保険料や保険給付が決まることになる。

 申請できる給付基礎日額(≒平均賃金)は3500円から2万5000円まで。1万円以下は1000円刻み・1万円以上は2000円刻みになっているのも、他の特別加入と同じだ。
 

・ 保険料率は一律 1000分の3


 海外派遣者の保険料率は、どんなに安全な作業でも危険極まりない仕事でも一律固定の3‰(1000分の3)だ。

 従って年間保険料も給付基礎日額によって一定で、最低3831円(日額3500円のとき)~最高2万7375円(日額2万5000円のとき)になる。

 また、年度途中で派遣期間が開始・終了になる場合(都度、申請は必要)は、保険料は月割りになる。たとえば7月21日から12月10日までなら6ヶ月分だ。
 

・ 特別加入者だけで20万円以上なら分割可

 
 海外派遣者についても申告書は普通と同じだが用紙は別になるので、『特別加入者だけ』の概算保険料が20万円以上なら3期に分割払いが可能になる。

 もちろん、『たまたま』派遣元が中小企業で労働保険事務組合に事務を委託している場合は、保険料にかかわらず分割可能だ。
 

保険給付の請求は、派遣元事業主

 
 いざ業務災害や通勤災害が起こったときの保険給付の請求は、日本の派遣元事業主を通して行なう。この請求書には、災害発生状況に関する以下の資料等を添付する必要がある。
 

  ○ 派遣先の事業主の証明書
  ○ 在外公館の証明書
  ○ 新聞記事等
 

給付内容は、中小事業主と同じ

 
 海外派遣者に関しても、給付内容は他の特別加入者と同じだ(₁₈₆.労災特別加入者の保険給付額)。

 ただ、療養の費用の給付(いったん窓口で医療費を全額支払い、その費用を後で請求する場合)については、『支給決定日』の為替レート(売レート)による邦貨換算額になる。

 

次 ー ₁₉₁.業種と労災保険料 ー

2024年11月22日