₁₉₁.業種と労災保険料



 ここまで『労災保険料』については特別加入の場合を除いてほとんど書いてこなかった。

 というのは、労災保険料は基本的に『会社の、従業員に対する損害賠償責任保険』という性格から従業員の負担はない。そのため賃金台帳にも給与明細にも登場しないので、毎月の給与計算で労災保険料を考慮することはないからだ。

 しかし、毎年7月10日(労働保険事務組合に委託している場合は4月には普通〆切がある。)までに提出する労働保険の『概算・確定保険料申告書』では、前年度『労働者』に支払った毎月の賃金額・賞与額・支給人数を月別・賞与の回数別に一覧表にまとめ、これをもとに申告書を作成しなければならない。

 よほど大規模な事業所か、申告書作成を社労士に委託している場合を除き、これも給与計算担当者の仕事になっているはずだ。

 そういうわけで労災保険料の話とする。ただし今回は、期間が限られた事業(単独の有期事業)の場合は扱わない。
 

労災保険料は、賃金と保険料率から

 
 労災保険料は、年度(4月分から3月分まで)の賃金額がもとになり、これに『労災保険料率』をかけて算出する。つまり、次の式になる。
 

   ※  労災保険料 = 年度の賃金総額 × 労災保険料率

      ① 給与の〆日が何日であっても『4月分から翌3月分』まで
      ② 年度の賃金総額は、労働者分をすべて算入
      ③ 賃金総額は1000円未満切捨て
 

・ 概算保険料は普通、前年度の賃金総額をそのまま使う

 
 ただし、その年度の賃金額はまだ確定していないので、概算(見込み)で申告・納付することになる。『概算』なのでテキトーでいいかというと、普通、確定した前年度の賃金総額を、そのまま今年度の概算賃金総額とすることになっている。
 

   ※  今年度の概算賃金総額 = 前年度の賃金総額

 
 ここで『普通』かどうかも勝手に判断することはできず、『普通』とは、前年度の賃金総額に対して今年度の『見込み賃金』が、次の場合をいう。
 

   ※  前年度の半分 ≦ 見込み賃金 ≦ 前年度の2倍

 
 たとえば前年度の労働者の賃金総額が2345万6789円だった農業で、今年度もその半分以上2倍以下の『見込み』だとすれば、農業の保険料率は1000分の13なので、今年度の概算保険料は次のようになる。
 

      23,456千円    ×   13/1000   =   30万4928円
     (千円未満切捨)        保険料率       概算保険料
 

・ その年度が終わったら確定清算

 
 さて、概算保険料はあくまで概算なので、その年度が終了した時点で算定すれば、これと違いが出てくるのが当然だ。

 筆者も保険料の算定を毎年60社程度10年近くやっているが、いまだかつて賃金総額の見込みが実際にピッタリその通りだったということは1回もない。

 そこで賃金総額が確定した翌年度、前年度概算で納付した保険料との差額を計算し、不足があれば追加し、過剰だった場合はその年度の『概算保険料』から差し引く。

 というわけで、どの会社も毎年、前年度の賃金額を確定し、当年度の概算の賃金額を申告し、労働保険料を納付することになる。これを労働保険の『年度更新』という。労働保険版の年末調整や確定申告みたいなものと考えてもらえばよい。
 

労災保険料率は、業種によって35倍

 
 ここで『労災保険料率』は、各業種ごとに労災の発生率・支給された労災保険給付などをもとに細かく定めてある。

 この辺は、民間の生命保険と似ている部分があるかもしれない。同じ保険会社の掛け捨ての生命保険で、死亡時に支払われる保険金額が同じだとしても、年齢・性別によって保険料は全然違う。

 具体的には年齢が上昇するにしたがって保険料は上昇するし、男性は女性よりも保険料が高いのが普通だ。これは別に差別ではなく、年齢が上昇するにしたがって死亡率も上昇するし、男性は女性よりも死亡率が高いのが普通だからだ。

 万一保険料と保険金額が統一されたら、男性や中年以上の方は民間保険から締め出されてしまうだろう。

 国営の労災保険の場合、保険事故が起こったときの支払額(保険金額)の計算方法はどの業種も一緒だ。ということは保険料で差をつけるしかない。そこで、それまでの実績から業種ごとに保険料率を定めてある。結果的に業種によって最大35.2倍の違いがある。
 

・ 長期的には低下傾向

 
 もちろん、各業種の災害率には変動があるので、数年おきに保険料の見直しが行われる。各業界の努力もあって保険事故は減ってきているので、保険料率も長期的全体的には低下傾向にある。

 おそらく事務担当者の方は、毎年業種ごとの労災保険料率は目にしているはずだが、ここでは保険料率順に業種を並べてみた。
 

労災保険料率順に並べると

 
 ここで示した数字は、1年間の賃金総額に対する千分率(‰)で、労働保険の申告書等も、すべてこの千分率で表されている。色については、次の通りとした。

・農林漁業 緑 ・鉱業 赤 ・建設業 青 ・製造業 黒 ・運送業 紫 ・その他 橙
 

業種                      労災保険料率(1000分の)

金属鉱業・非金属鉱業(②以外)・石炭鉱業        88
林業                          52
船舶所有者の事業                    42
採石業                         37
定置網又は海面魚類養殖業(①)             37
水力発電施設・隧道等新設事業              34
その他の鉱業                      26
その他の窯業又は土石製品製造業             23
船舶製造又は修理業(⑩)                23
海面漁業(①以外)                   18
陶磁器製品製造業                    17
鋳物業(⑤)                      16
その他の建設事業(土木等含む)             15
木材又は木製品製造業                  13
コンクリート製造業                   13
石灰石鉱業又はドロマイト鉱業(②)           13
農業又は海面漁業以外の漁業               13
清掃・火葬又はと畜の事業                13
港湾荷役業                       12
既設建設物設備工事業(③)               12
道路新設事業                      11
建築事業(③以外)                     9.5
金属製品製造業又は金属加工業(⑥以外)           9
舗装工事業                         9
鉄道又は軌道新設事業                    9
港湾貨物取扱業(⑬以外)(⑫)               9
貨物取扱業(⑫以外)                    8.5
非金属精錬業(④)                     7
パルプ又は紙製造業                     7
めっき業(⑦)                       6.5
洋食器・刃物、手工具又は一般金物製造業(⑦以外)(⑥)   6.5
倉庫業・警備業・ 消毒又は害虫駆除の事業又はゴルフ場の事業 6.5
ガラス又はセメント製造業                  6
その他の製造業                       6
機械装置の組立又は取付の事業                6
ビルメンテナンス業                     6
食料品製造業                        5.5
金属材料品製造業(⑤以外)                 5
機械器具製造業(⑧~⑪以外)                5
化学工業                          4.5
繊維工業又は繊維製品製造業                 4
輸送用機械器具製造業(⑩以外)(⑨)            4
交通運輸事業                        4
印刷又は制本業                       3.5
貴金属製品・装身具・皮革製品製造業             3.5
電気機械器具製造業(⑧)                  3
電気・ガス・水道又は熱供給の事業              3
卸売業・小売業・飲食店又は宿泊業              3
その他の各種事業                      3
原油又は天然ガス鉱業                    2.5
計量器・光学機械・時計等製造業(⑧以外)(⑪)       2.5
通信業・放送業・新聞業又は出版業              2.5
金融業・保険業又は不動産業                 2.5
 

 つまり、年間の賃金総額1000万円あたり、金属鉱業であれば88万円、林業なら52万円、土木工事なら15万円、農業や清掃業なら13万円、食品製造業なら5.5万円、小売業なら3万円、金融業なら2.5万円の労災保険料を支払うことになる。

 

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2024年11月26日