給与計算で実務上間違いが多いのは、年次有給休暇が絡んでいる場合である。
前回の月影さん(所定労働時間1日8時間)が始業時から半日年休(または4時間の時間年休)をとった日に、その後6時間勤務したらどう扱うか。割増賃金を支払う必要は?
結論を先に言うと、これは割増賃金の対象外である。割増賃金は、あくまで実労働時間が法定労働時間を超えた時にしか発生しない。
この場合は、実際に6時間勤務したのだから、月給の月影さんなら通常の労働時間の時間単価1,423円×2時間の2,846円を残業代として支払う必要があるのは当然だ。ただし、割増はつかない。割増賃金は、あくまで労働者の健康維持のため、時間外労働の縮減のために定められた制度だからだ。
4時間(年休分)+ 6時間(実労働時間)ー 8時間(法定労働時間)
で、2時間割増 … とはならない。
月影さん(所定労働時間1日8時間・所定労働日月~金で週5日間)が月曜日半日(または4時間)年休をとり、土曜日に3時間勤務したとしても、同様に残業代は単価1,423円×3時間の4,269円である(法定休日でなく、実働週40時間にも収まっているので)。
終業時刻を超えて働く『権利』が生ずるわけではない
『7.総支給金額を確定する』で扱った遅刻した日に終業時刻を延長した話も、ここで述べた話に似ているが、どちらも、『こういう働き方になった場合は、給与はこういう計算でいいですよ』という話である。『働く・働かせる』ことについての『権利・義務』とは切り離した議論だということは、一応おことわりしておく。
『7.総支給…』でも遅刻のところで『(事前に申告済み)』と会社との合意があることをほのめかして保険はかけておいたが、遅刻した日に、終業時刻を超えて働く『権利』が生ずるわけではない。同様に、事業主に、働かせる『義務』が発生するわけでもない。
そんなことになったら、何百人かが働いている工場で1人が30分遅刻し、その人が希望したら、そのために生産ラインを30分余計に稼働させなければならなくなる。
これがあり得ないように、たとえ事務系であっても、遅刻した人が例えば『仕事のキリが悪い』からといって、終業時刻を勝手に延長できるわけではない。
基本は、終業時刻で仕事は終了。ノーワークノーペイの原則から遅刻分は欠勤控除されることになる。
無断遅刻なら、就業規則で定めてあれば、懲戒の対象にもなるだろうし欠勤控除とは別に減給ということもあり得る(もちろん、法の範囲内で。詳しくは後で論じる。)。
半日年休をとった場合にしても、違いは年休部分の給与が支払われることだけで、冒頭の月影さんの場合のように『6時間勤務したら』とか他人事のように言っていてはいけない。必要ないのであれば、月影さんが終業時刻を超えて勤務するのを認めるべきではない。
就業規則ではどうなっている?
ただ、結果的に冒頭のような事態が発生したら、最初に記したように扱うのが一番間違いないし、給与計算的にも運用しやすいのだ。
ー 94.年次有給休暇中の給与は3通り ー で扱うが、年次有給休暇中の賃金は、1.『所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金』か、2.『平均賃金』か、3.『健康保険の標準報酬日額』のどれかで決定されることになっている(3は労使協定が必要)。
多くの会社で一般的に採用されているのが1.『所定労働時間…賃金』で、ここまでの議論もそれを前提としたものだ。2や3の場合は、この説明が通用しない場合がある。
また、欠勤控除については、会社にその運用(計算)ルールがほぼ任されている。たとえば、2時間遅刻して2時間残業(法定内)した日の場合、これに従って一度欠勤控除してから改めて法定内残業分を足すと、微妙に変わってくるのが普通だ。
・ 給与計算が終わらない…
こうなってくると、給与計算担当者に時間外労働割増と深夜割増をいくら払っても給与計算が終わらない事態になるかもしれない。かといって、そういう規則であれば、担当者が勝手に計算方法を変更するわけにはいかない。
就業規則等をつくるときも、あまりにも変な細工はしない方がいい。
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就業規則ではどうなっている?
3行目 今後どこかで ➡ ー 94.年次有給休暇中の給与は3通り ー で '24.05.27