11. 割増賃金を1日ごとに確定したい

 

 端数処理のポイントとして強調しておいたのは、『1ヶ月の』『1時間の』というものばかりで、『1日の』という表現がどこにも出てこないことだった。

 しかし、1日ごとの給与額をその都度ハッキリさせたいという会社もある。

 その日その日の賃金を円単位で端数なく確定させておきたいということならば、その日の時間外労働・休日労働・深夜労働に対する賃金額をすべて切上げし、それらを合計して『その日の賃金』とするしか方法はない。1日ごとの賃金の四捨五入はご法度である。
 

・ 時給の時岡さんの場合

 そういった要請は時給の方の場合に多いので、まず、時給1200円の時岡さん(前回の通り基礎賃金は1277円)の場合で考える。

 この日は大変忙しい日で、深夜23時16分まで勤務したとする。この日の労働に対する給与は、次のように分けて考える。ただし、皆勤手当分もいつも割増賃金の基礎に算入するものとする。

10:00~17:00 6h00m 通常勤務  1,200円/h × 6h   = 7,200円
17:00~19:00 2h00m 所定時間外 1,200円/h × 2h   = 2,400円
19:00~23:16 4h16m 法定時間外 1,596円/h × 4h16m = 6,809.6円
22:00~23:16 1h16m 深夜割増   319円/h × 1h16m =  404.066…円

                             (計)16,813.666…円

 ここではたまたま法定時間外と深夜割増について端数が出たが、ここで四捨五入して法定時間外6810円・深夜割増404円としてはならない。どうしてもというなら両方端数を切上げて6810円・405円とする必要がある。

 また、この日の給与総額は四捨五入すると16,814円だが、上の理由でそれは認められないので、この日だけの給与を確定させたいなら、切上げたものを合計して16,815円としなければならない。

 もちろん、月ごとの手当は別計算になる。
 

・ 月給の月影さんの場合

  次に月給の月影さんの場合だ。月給者は基本給や定額の手当等は考慮する必要はないので、もっぱら日ごとの割増賃金をその都度確定することになる。何度もしつこいが日ごとの割増賃金を四捨五入することは認められていないので、すべて切上げることになる。

 前に使った月初めの1週間のデータを再掲するが、必要のない部分は除いてある。また、8日以降は割増は発生しなかった場合である。

      法定時間外 休日労働  深夜割増      割増賃金日計
割増賃金  1,779円/h 1,921円/h  356円/h

1日(日)        2h42m         5,186.7円   ⇛ 5,187円
2日(月)  0h41m               1,215.65円   ⇛ 1,216円
3日(火)  0h41m               1,927.25円   ⇛ 1,928円
4日(水)  4h32m         0h32m   8,254.666円  ⇛ 8,255円
     (8064.8円)      (189.866…円)
5日(木)
6日(金)
7日(土)  2h10m               3,854.5円   ⇛ 3,855円
       8h28m   2h42m   0h32m         (計)20,441円
 計    15,062円 (+) 5,187円 (+) 190円 (=) 20,439円

 時間外・休日・深夜の割増賃金を月ごとに集計する法定通りの計算の場合、割増賃金総計は20,439円(1ヶ月のそれぞれの時間数を四捨五入しない場合)になるが、1日ごとに確定させていった場合の総計は、20,441円になる。

 また、注意深い方は気付いたかもしれないが、4日の割増賃金は法定外が8064.8円・深夜が189.866…円となるので、それぞれ切上げた8065円+190円=8255円となったもので、8064.8円+189.866…円=8254.666…円を切上げたものではない。
 

1日ごと確定はデメリットが大きい


 1日ごとの賃金確定は不可能ではない。割増賃金を日々切上げていくので、支払額は若干多くなるが、多く見積もってもせいぜい月数十円くらいに収まりそうである。この点でそう問題はない。

 それよりも、計算が複雑になり、給与計算担当の皆さんの多くが使っていると思われる給与ソフトとも非常に相性が悪そうなのが大きなデメリットと言える。

 さらに大きな問題は、この例では皆勤手当分はいつも基礎賃金に算入することにしたが、『皆勤手当が出ない場合は基礎賃金に算入しない』と定めた会社なら、〆日が無事に終わってからでないと割増単価が確定しないことだ。

 そう考えると、1日ごとに賃金を確定させていくのは、労多くしてメリットはほとんどない

 もちろん、よほど特別な事情があり、万難を排しても1日ごとに確定したいということであれば、ここに書いた通り、それは可能だ。

 しかし一般的には、毎日の残業時間等をきちんと管理しておいて、最後に時間外・休日等それぞれの合計時間で計算する原則的方法の方をお勧めする。

 

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※ 誤字を訂正しました。

・時給の時岡さんの場合
4行目  基礎に参入 ⇛ 基礎に算入

1日ごと確定はデメリットが大きい
13行目 最期に ⇛ 最後に      ('22.11.25)

※ 最低賃金改定に伴い、金額変更 '23.10.03

2022年11月22日