ここで、時給で働いている方の割増賃金と、その元になる基礎賃金を考えてみよう。
時給者は時給をそのまま『基礎賃金』にして計算すればいいと思うかもしれないが、前に『基礎賃金は、時給とは似て非なるもの』と書いたのは、時給以外に手当があると、話はそう単純ではないからだ。
時給で働いている時岡さんの給与は次のようになっている。
時岡さんの給与
・基本給 時給1,200円
・通勤手当 1日200円
・資格手当 5,000円(毎月支給)
・皆勤手当 3,000円(欠勤のない月)
・勤務日 週4日(月.火.木.金)
・勤務時間 1日6時間(10時~17時・休憩1時間)
名前を時岡さんにしたのは… … 省略 … (私は25年前35才でした)
時給者の基礎賃金
時給者の『基礎賃金』を出す計算は、次の通り。
『基礎賃金』 = 時給 + その月の職務関連手当 × 12月 ÷ 年間所定労働時間
通勤手当は関係しないのは説明済み。『資格手当』と『皆勤手当』が『職務関連手当』なので、この部分だけの時間単価を出し、基本給と合算することになる。
・年間所定労働時間 6時間/日 × 208日 = 1248時間 なので、
1,200円/h +(5,000円/月+3,000円/月)× 12月 ÷ 1248h = 1,276.923…円/h
となり、四捨五入すると、
基礎賃金は1,277円/h
となる。時給の1,200円ではない。1,277円を基礎賃金として割増賃金を計算しなければならない。
ということは、割増賃金は次のようになる。
・基礎賃金 1,277円/h
・時間外労働単価 1,277円/h × 1.25 = 1,596.25円/h ⇛ 1,596円/h
・ ” (60時間超)1,277円/h × 1.5 = 1,915.50円h ⇛ 1,916円/h
・休日労働単価 1,277円/h × 1.35 = 1,723.95円/h ⇛ 1,724円/h
・深夜労働割増単価 1,277円/h × 0.25 = 319.25円/h ⇛ 319円/h
ここで、単に1日6時間を超過しただけの場合は法定時間内の『所定労働時間外』となるので、8時間までは本来の時給1,200円を支払うだけで良い。
これが、1日8時間を超えたとたんに時間単価が1,596円に跳ね上がることになる。設定上あまりないはずだが、週40時間を超えた場合もそうなる。
実際、時間外労働単価1,596円というと、時給1,200円の33%増し、休日労働の1,724円だと44%増しになる。
時給者に月々手当を支給している場合は、その手当が多いほど、年間所定労働時間が少ないほど基礎賃金が急激に上昇するので、《時給の25%増し・35%増しでいい》などと簡単に考えていると大変なことになる。
皆勤手当がない月は、
1,200円/h + 5,000円/月 × 12月 ÷ 1248h = 1,248.076…円/h
で、基礎賃金を1,248円/hとして計算してよいのは、月給者の場合と同じだ。
法定時間内残業は、基本給を下回ることも
上で、所定労働時間1日6時間の時岡さんが6時間を超えたとき、8時間(法定労働時間)までは本来の時給と言ったが、これは、特別な取り決めがない場合である。
時給の場合に限った話ではないが、労働協約・就業規則等によって別に定められた賃金がある場合にはそれによってもいいことになっている。ただし、最低賃金を下回ることはできない。
要は『所定労働時間の賃金』は、当たり前だが通常の労働をしているときの賃金である。『所定外』のときは、想定外であり、そこまで労働強度が強くないこともあり得るので、その場合については合理的な範囲内で決めておいてよいという主旨のようだ。
ただ、所定労働時間の労働と大して違わないのに、『所定外』の賃金がそれを下回るというのは、よほどきちんとした理由がないと、説明がつかなくなるだろう。
以下では、断り書きがない限り、法定時間内残業時の賃金は、所定労働時間の通常の賃金と同様と扱う。
これは、この時間帯の賃金は決めていないという、圧倒的多数の事業所の場合に対応するものだ。
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※ 最低賃金改定に伴い、金額変更 '23.10.03