月影さんの1ヶ月の時間外労働の所で、8h28mを四捨五入して8hとした。つまり28mは切捨てた。8.5hにしてやりたいところだが、これはどうか。要は30分や15分単位に丸めるのはどうかということだ。
『丸める』というのは、30分・15分・5分単位といった『分』の倍数に近い(等距離の場合は大きい方の㊟)数値(整数ではあと、20・12・10・6・4・3・2分単位が理論的に可能だが、見たことはない。)に直すことで、たとえば『30分単位に丸める』と言ったら15分未満⇛0分・15分以上45分未満⇛30分・45分以上⇛1時間等となる。
中には、15分未満・30分未満を切捨てることを『丸め』と思っている方もいるようだが、これは単なる切捨てで全然丸めていないので、一緒にしないように願いたい。
都合のいいことに、30分・15分に丸めた場合には、10進法でも0.5,0.25時間単位の扱いやすい数字になる(理屈では12分,6分,3分単位でも0.2,0.1,0.05時間単位になるが、これも見たことはない。)。
1時間単位は大雑把過ぎる?
前に述べたように、1ヶ月の時間外労働等の合計時間の端数処理について認められているのは、1時間単位に丸めることだけだ。
1時間の割増賃金というと、法定時間外を最低賃金で計算しても最賃1,010円の北海道で1,263円、最賃1,163円の東京では1,454円になる。
1時間単位に丸めると、全く丸めなかった場合と比較して、たとえば○時間29分台や○時間30分のときには、北海道で±632円・東京で±727円の差が出る(同じく最低賃金の場合の最大値)ことになる。
休日割増・深夜割増の分も考えると、普通さらに差は広がる。いかに法で認められているとはいえ、ほぼ偶然に左右されてのこの差は、ちょっと大きすぎないかと思う感覚は自然だ。
・月影さんの時間外労働では
そこで、以前の月影さんの割増賃金について、そのまま算出した場合・15分,30分単位に丸めた場合・1時間単位に丸めた場合を比べてみる。(円未満四捨五入済)
割増単価 分単位 15分単位 30分単位 1時間単位
法定時間外 1,779円/h 8h28m 8.5h 8.5h 8h
15,062円 15,122円 15,122円 14,232円
休日労働 1,921円/h 2h42m 2.75h 2.5h 3h
5,187円 5,283円 4,803円 5,763円
深夜割増 356円/h 0h32m 0.5h 0.5h 1h
190円 178円 178円 356円
確かに、当然だが時間間隔が短いほど実態に近くなる。それで計算もしやすいとなれば、30分・15分単位で行こうと思いがちだが、これは厳密にいえば問題がある。
30分単位に丸めたとすれば、15分~29分は1時間単位よりも労働者にとって有利になるが、30分~44分の場合は不利になるからだ(0分~14分・45分~59分の場合は1時間単位と同じ)。
同様に、15分単位に丸めると、1時間単位に比べ、8~29分の場合は労働者に有利だが、30~52分の場合は不利になる。
1時間以外は、迷ったら分単位
理不尽とは思うが、法定以外の端数処理は、平均して損得がないだけではダメで、労働者にとっていかなる場合にも、法定より同じか有利な計算方法でなければならない。これは、他の場面でも出てくる労働法の基本的な考え方と言える。
だから、30分や15分・5分あるいは0.1時間(6分)単位に『切上げ』ることは、いかなる場合にも労働者に不利にならないので可能である。
ただ、上記30分・15分単位等の丸めは、長期間にわたれば、法定の1時間単位の丸めに比べても、さらに一切丸めなかった場合に比べても、統計学を持ち出すまでもなく違いは相対的には限りなく0に近づいていくはずなので(もし、違いが積み重なってくるようなら『丸め』と称して切捨てているのではないかとの疑いを招くことになる。)万一民事訴訟となってもそう困ることはないだろう。
実際、1ヶ月の時間外労働等を30分・15分単位に丸めている会社は多い。
ただ、今時そろばんや電卓で給与計算をしているところは少ないと思うし、そういった危惧があることは事実なので、労働時間に関しては、1時間単位以外の我流の端数計算をするくらいなら、分単位でそのまま計算した方が良い。
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㊟ JIS規格では、等距離の場合小さい方をとることもある『丸め』もある。
※ 最低賃金改定により、金額一部変更 '23.10.03
※ 最低賃金改定により、一部変更 '24.09.17