ここで、保留しておいた『営業手当』の扱いに戻る。『契約1本5000円』というのは歩合給の一種であることは前に述べた。歩合給が含まれる場合は、その部分を別に計算してから合計しなければならない。
資格手当や皆勤手当の場合は所定労働時間働いたことがもととなって支払われているので、基本給と同じく、それに寄与した月の平均所定労働時間で割った。
しかし歩合給の場合は、残業時間も含めてすべての労働時間がその『営業手当』の獲得に寄与しているので、その1時間当たりの寄与分を計算しなければならないという考えから、実際の月の総労働時間で割ることになる。
この金額が、その人がその月の労働1時間当たりに獲得した歩合給、即ち『歩合給分基礎賃金』(これは全くの造語。検索しても出てきません。)となる。
『歩合給分基礎賃金』 = その月の歩合給 ÷ その月の総労働時間
歩合給分の基礎賃金を計算
月影さんが、この月、契約を1本取り、5000円の営業手当を得たとする(他の条件はすべて同じ想定)。このとき、歩合給分基礎賃金は次のようになる。ただし、この月の法定時間内労働時間は168時間だったとする。
歩合給分基礎賃金 5,000円 ÷ (168h+8h+3h) = 27.932…円/h
これが、この月に5000円の営業手当を獲得するための、1時間の労働の寄与分である。
この5000円自体はすべての労働時間が寄与しての5000円なので、たとえば時間外労働の8時間であれば、8時間の『寄与分』はこの5000円に含まれ、すでに支払われていることになる。
しかし、この寄与分の8時間はただの8時間ではない。通常の労働時間の最低 1.25倍の価値を、国家権力が公式に認定した8時間である。『1.25倍』のうち『1倍』部分はすでに支払われているとしても、残り『0.25倍』分は、追加で払う必要がある。
つまり、乗率は、時間外0.25(60時間超0.5)・休日0.35・深夜0.25となる。
計算すると、
・歩合給分の割増賃金
時間外労働部分 27.932…円/h × 8h × 0.25 = 55.865…円 ⇛ 56円
休日労働部分 27.932…円/h × 3h × 0.35 = 29.329…円 ⇛ 29円
深夜割増 27.932…円/h × 1h × 0.25 = 6.983…円 ⇛ 7円
となる。ここで、これらを前回算出した『月影さんの割増賃金額』にそれぞれ足せば、この場合の割増賃金額が計算できる。
法定時間外勤務 14,232円 + 56円 = 14,288円
休日労働 5,763円 + 29円 = 5,792円
深夜割増 356円 + 7円 = 363円
歩合給を含めた割増単価を先に計算したら
ここで、日々実務に携わっている方なら、「先に歩合給を含めた法定時間外・休日・深夜の単価を計算した方が早いのではないか。」と思うかもしれない。
試しに、『基礎賃金』と『歩合給分基礎賃金』のそれぞれから計算した割増単価の合計額に各残業時間等をかける方法で、割増賃金を計算してみる。
割増単価 普通部分 歩合給分 歩合給を含めた 時間 割増賃金
割増単価
時間外労働 1,778.75円/h + 6.983…円/h ≒ 1,786円/h 8h 14,288円
休日労働 1,921.05円/h + 6.776…円/h ≒ 1,931円/h 3h 5,793円
深夜労働 355.75円/h + 6.983…円/h ≒ 363円/h 1h 363円
となる。当然だが、基本的に損得は発生しない。
ただ実際には、通常の残業等部分は割増単価がほぼ固定なのに対して、歩合給や残業時間は毎月変わるので歩合給分の割増単価は毎月変わる。
従って、歩合給分を含めたその月限りの割増単価を先に計算しても、労力の節約にならず、かえって誤りが発生しやすくなるだけかもしれない。
結局最初の、厚労省認定の正式な計算順序でやる方がいいだろう。
定額の手当との違い
あまりにも意味がなくて申し訳ないので、計算の途中でせっかく求めた『歩合給を含めた割増単価』を、普通の定額の手当が5000円出る場合の割増単価と比べてみよう。
月影さんの職務関連定額給与総額は232,500円だったので、これに単純に5000円足して基礎賃金を求めると、
237,500円/月 × 12月 ÷ 1960h = 1,454.081…円/h ⇛ 1,454円/h
となるので、これを元にした割増単価を今回の条件の下での歩合給のときと比べると、次のようになる。
元の単価 今回の歩合給5000円のとき 定額手当5000円のとき
時間外労働 1,779円/h 1,786円/h 1,818円/h
休日労働 1,921円/h 1,931円/h 1,963円/h
深夜労働 356円/h 363円/h 364円/h
歩合給の場合は総労働時間によって様々に変わるので一概には言えないが、定額の手当とはかなりの違いがあることが分かる。
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※ 11/14 表現の誤りを訂正しました。よろしくお願いします。
『歩合給を含めた割増単価を先に計算したら』
3行目 合計額に⇛それぞれから計算した割増単価の合計額に