前回書いたように、一般の離職者(65才未満で季節雇用でない方)でもその離職が『倒産・解雇等』や『正当な理由のある自己都合』の場合は、勤務期間(正しくは前回説明した『被保険者期間』)が離職以前『1年間に6ヶ月』でも失業手当の受給権が発生する。
『倒産・解雇等』にしても『正当な理由のある自己都合』にしても、その意味するところはかなり多岐にわたる。そこでそのうち今回は雇用保険法上『倒産・解雇等離職』と取り扱われるものを解説する。
この『倒産・解雇等』の場合は『特定受給資格者』として、待機間満了後の『受給制限期間』(手当が支給されない期間)がなくなり、さらに、一般の場合は手当の『支給日数』も優遇される。
倒産等による離職
倒産等による離職とは次の通りだ。
① 倒産による離職
ここで『倒産』とは、次の場合をいう。
○ 破産手続開始
○ 再生手続開始
○ 更生手続開始
○ 特別清算開始の申立て
○ 金融取引停止となる不渡手形の発生
② 大量雇用変動による離職
○ 大量雇用変動の届出による離職
○ 人員整理により離職した一般の被保険者が
1年前の被保険者数の1/3を超えるための離職
これは人員整理によって従業員が1年間に2/3未満になったための離職で、たまたま5人の従業員のうち2人が辞めたような場合は該当しない。
③ 事業所の廃止に伴う離職
これは事業の期間が予定されていたものである場合を除き、事業所の事業活動が停止し再開する見込みがない場合を含む。
④ 事業所の移転により通勤困難となったことによる離職
これは倒産とはかなり趣きが違うが、従業員にとっては会社がなくなったのと実質同じということか、『倒産等による離職』の1つとなっている。
『通勤困難』とは、往復所要時間がおおむね4時間以上の場合とされる。なお、移転後おおむね3ヶ月以内の離職でなければならず、この期間を超すと『ほら、通勤できるじゃん』ということになって対象にならなくなる。
解雇等による離職
解雇『等』による離職とは次の原因による離職をいう。ここには労基法上認められないような状況も規定されている。
① 解雇(重責解雇は除く。)
② 契約時の約束と違う!
労働契約時の労働条件が事実と著しく違っていた場合、または会社による労働条件の変更により契約と著しく異なる労働条件となったことにより、相違または変更から1年以内に離職した場合が当てはまる。
③ 給与の遅配
具体的には、給与の1/3を超える金額が支払期日までに支払われなかったことによる離職で、この事実があった後1年以内に離職した場合だ。ただし、その事実の後、3ヶ月以上継続して通常の給与が支給された場合を除く。
④ 定期給与が約束より低い!
これは、予期し得ず定期給与がその85%未満となったことによる離職で、毎月決まって定期的に支給されるべき給与が、前6ヶ月間のいずれかの定期給与の85%未満となり、または6ヶ月以内に85%未満となると見込まれることになった場合だ。
『予期し得ず』がキーワードで、元々賃金が変動するような雇用契約の場合や、本人の欠勤、または60才以上の定年再雇用後の賃金低下等は含まない。
⑤ 残業多すぎ!
労働基準法や育児介護休業法で定める時間外労働・休日労働の限度基準を超える残業による離職の場合だ。
・ 3ヶ月連続で45時間超の残業
法律上は次のような表現になっている。
離職の日の属する月の前6月のいずれか連続した3箇月以上の機関において労働基準法第36条第3項に規定する限度基準に相当する時間数(育児介護休業法による次回外労働制限対象者はその時間数)を超えて、時間外労働及び休日労働が行なわれたこと
ここで『労働基準法第36条第3項に規定する限度基準』とは、時間外労働に関する基準で、普通は『月45時間』とされている。
『育児介護休業法』に定める小学校就学前の子を養育する方や家族介護を行なう方の場合は『月24時間』だ。
これを超える残業が6ヶ月間に連続3ヶ月以上あり、それによって離職した場合は『解雇等』とみなされることになる。
・ 残業時間の上限規制を超える残業
2020年から中小企業にも導入された残業時間の上限規制では、時間外労働・休日労働を含めて、絶対的な残業上限が『1ヶ月100時間未満』・『2ヶ月以上の平均で80時間以内』と定められた。
1,2ヶ月でもこれを超えた場合は同様の扱いとなる。
⑥ 危険が放ったらかし
危険又は健康障害の恐れを、監督署等行政機関から事業主が指摘されても、なお事業主が防止措置を取らなかったため離職した場合だ。
⑦ 妊娠・出産・養育・介護に配慮がない
事業主が法令に違反し、妊娠中若しくは出産後の労働者又は子の養育若しくは家族の介護を行う労働者を就業させ、若しくはそれらの者の雇用の継続等を図るための制度の利用を不当に制限したしたこと又は妊娠したこと、出産したこと若しくはそれらの制度の利用の申出をし、若しくは利用したこと等を理由として不利益な取扱いをしたこと
による離職がこれに当たる。
⑧ 配慮のない職種・勤務地変更
これは次のような場合だ。
○ 採用時に明示されたのと違う職種に配置され、賃金も低下した
○ 10年以上同じだった職種が変えられ、教育訓練不足のため適応困難になった
○ 契約上特定されていた勤務地が、概ね往復4時間以上の遠隔地に変更になった
⑨ 3年以上継続後の契約更新ナシ
期間雇用の契約更新によって3年以上継続雇用されている方について、希望に反して更新がなかったことにより離職した場合だ。
これは、定年・再雇用等で契約更新の上限が元々定められているときは含まない。
⑩ 終業環境が著しく害された
条文では、
事業主又は当該事業主に雇用される労働者から就業環境が著しく害されるような言動を受けたこと
となっていて、各種ハラスメントの多くが当てはまるが、事業主や相談窓口に相談後おおむね1ヶ月以内に必要な改善措置が講じられたときは該当しない。
⑪ 退職勧奨
『退職勧奨』とは退職の『お勧め』だ。これに応じた場合だ。
希望退職募集への応募も含まれるが、その場合はその措置が導入されて1年以内であり募集期間が3ヶ月以内のものに限られ、恒常的な『早期退職優遇制度』等への応募は含まない。
⑫ 3ヶ月以上の休業
事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3箇月以上となったこと
による離職の場合だ。経済情勢の変化で事業活動の継続が困難となったための休業も含まれる。ただし、休業状態が解消してからの離職は含まない。
⑬ 業務が法令違反
事業所の業務が法令に違反していて、その事実を知ってから3ヶ月以内に離職した場合が該当する。
見解の相違がある場合は?
ことがことだけにこれらについては離職者と会社で見解の相違が生じることもある。雇用保険での取扱いは、両者の言い分を聞いてハローワークが判定することになるが、これ(見解の相違)についてはいずれ触れる。