前回紹介した『(安全)衛生推進者』は従業員50人未満規模の事業所の場合だったが、50人以上になるとそれなりにしっかりした安全衛生管理体制が義務づけられる。
実際にはこの規模になると担当の部署の方がそれなりに専門的に勉強して対処することが多いと思う。
今回は、《まだそうした規模の会社ではないが、ゆくゆくは拡大していきたい》と考える方に一応の知識を持ってもらうことを目的として、規模や業種による安全衛生管理体制のあらましをまとめた。
50人以上なら『衛生管理者』が必要
前回の『衛生推進者』の上位バージョンともいえる『衛生管理者』は、50人以上の事業所になると業種に関わらず必須だ。
・ 資格
衛生管理者になれるのは、(安全)衛生推進者のように講習や実務経験ではダメで、次の資格のいずれかが必要だ。
① 第2種衛生管理者免許
② 第1種衛生管理者免許
③ 衛生工学衛生管理者免許
④ 医師又は歯科医師
⑤ 労働衛生コンサルタント
⑥ その他厚生労働大臣が定める者
ただし、①の『第2種衛生管理者免許』では、次の業種の衛生管理者にはなれないので、②~⑥の者から選任しなければならない。
農林水産業・鉱業・建設業・製造業・電気業・ガス業・水道業・熱供給業・運送業・自動車整備業・機械修理業・医療業・清掃業
・ 従業員数による衛生管理者の人数
さらに大規模な事業所では、従業員数に応じて最低次の人数の衛生管理者を選任しなければならない。さらに、従業員数と一定の有害業務に従事する方の人数によっては、専任の(その仕事だけをやる)衛生管理者を選任する必要がある。
従業員数 衛生管理者の必要人数 内、専任者の数
10~49人 0人((安全)衛生推進者) 0人
50~200人 1人 0人
201~500人 2人 0人
501~1000人 3人 0人(一定の場合*は1人)
1001~2000人 4人 1人
2001~3000人 5人 1人
3000人~ 6人 1人
一定の場合
501~1000人のところの『一定の場合*』とは、特定の有害業務に30人以上が従事する場合。
50人以上なら産業医も必須
従業員50人以上になると、業種に関わらず『産業医』も必要だ。
・ 資格
産業『医』というからには当然医師でなければならない(歯科医師は不可)。さらに医師であるだけではダメで、次の資格を持った方でなければならない。
① 労働者の健康管理について一定の研修を修了した者
② 一定の大学の産業医養成課程の卒業者で、その大学の実習を履修した者
③ 『保健衛生』区分の労働衛生コンサルタント試験合格者
④ 大学の労働衛生科目の、常勤の教授・助教授・講師またはそれらであった者
⑤ 厚生労働大臣が定める者
・ 専属
保健医療関連の事業所でもなければ『たまたま自分の会社に医師免許を持っている人がいた!』ということはまずないだろう。
産業医については、かなりの規模の事業所でなければ専属でなくてもよい。というよりは、中小の事業所でそのために医師を雇入れるというのは不可能に近い。
ただし、次の業種・規模の事業所なら、産業医はその事業所に専属の方でなければならない。
① 従業員1000人以上
② 従業員500人以上の一定の業種
※ 一定の業種とは…
坑内労働・多量の高温.低温物の取扱い・著しく暑熱.寒冷な場所の業務・有害放射線にさらされる業務・塵埃.粉末を著しく飛散する場所の業務・異常気圧下の業務・著しい振動業務・重量物の取扱い・強烈な騒音下の業務・有害ガス.蒸気.粉塵が発散する場所の業務・深夜業・有害物取扱い・病原体による汚染の恐れが著しい業務
さらに、従業員が3000人を超えると、産業医は2人以上必要になる。
・ 法人代表等はダメ
逆に医療関連の事業所とかなら資格のある法人代表者等が.産業医になってもよさそうだが、次の方がその事業所の産業医になることは、原則禁止されている。
① その法人の代表者
② その事業所の個人事業主
③ その事業所の事業の実施を統括管理する者
ただし①・②で、事業所の運営について利害関係を有しない者は可ということになっている。どういう場合なのかは謎だが。
50人以上の一定の業種なら『安全管理者』
最初の『衛生管理者』の選任が必要な従業員50人以上の事業所のうち、一定の業種にあてはまる場合には、『衛生管理者』のほかに『安全管理者』の選任が必要だ。
ここでの『一定の業種』とは、前回10~49人の〝₂₄₆.10人以上なら(安全)衛生推進者が必須〟で紹介した『安全衛生推進者』の選任が必要になる業種で、再掲すると次のようなものだ。
運送業・各種商品.家具.建具.じゅう器の卸売業・ガス業・機械修理業・建設業・鉱業・各種商品.家具.建具.じゅう器.燃料の小売業・ゴルフ場業・自動車修理業・水道業・清掃業・通信業・電気業・熱供給業・旅館業・林業
・ 資格
安全管理者は次の資格を持った者でなければならない。ここで『研修』とは、安全に係る技術的事項を管理するのに必要な知識についての厚生労働大臣が定める研修に限る。
① 大学・高専で理科課程を修了し、2年以上産業安全の実務に従事した研修修了者
② 高校・中等学校で理科課程を修了し、4年以上 ”
③ 労働安全コンサルタント
④ その他厚生労働大臣が定め者
・ 専任
業種や労災発生頻度・労働者数によって、次の場合は、1人は専任の安全管理者としなければならない。
業種等 従業員数
① 建設業・石油製品製造業等 300人以上
② 道路貨物運送業・港湾運送業等 500人以上
③ 鉄鋼・造船・紙.パルプ製造業 1000人以上
④ 上記以外で過去3年間の労災休業者が100人以上 2000人以上
100~1000人以上で『総括安全衛生管理者』
業種により以下の人数規模になると『総括安全衛生管理者』が必要になる。
業種 従業員数
林業・鉱業・建設業・運送業・清掃業 100人以上
製造業・電気業・ガス業・熱供給業・水道業・通信業
各種商品.家具.建具.じゅう器の卸売業と小売業・燃料小売業 300人以上
旅館業・ゴルフ場業・自動車整備業・機械修理業
その他の業種 1000人以上
・ 資格
総括安全衛生管理者になるのに特別な資格はいらない。というよりも『その事業の実施を実質的に統括管理する権限及び資格を有する者』をもって充てなければならないことになっているので、自ずと限定されてくるのだ。
こうした規模の事業所ではこの『安全衛生管理者』が安全管理者・衛生管理者等を指揮して、その事業所の安全衛生管理体制を掌握することになる。