健康保険と厚生年金保険はそもそも健康保険法と厚生年金保険法という別々の法律で運営されているので、元々健康保険と厚生年金保険の標準報酬は別物だ。
ただし一般的には、この2者は同じものになることが多い。健康保険と厚生年金保険の標準報酬が違う場合は大きく2通りある。
厚生年金の標準報酬の最低・最高等級の場合
〝₂₄₈.健康保険と厚生年金の『標準報酬』は違う〟でも書いたように厚生年金保険の標準報酬範囲は健康保険の標準報酬範囲より狭い。
健康保険では、より低額・高額な標準報酬が存在するので、厚生年金の最低・最高標準報酬の場合は、厚生年金の標準報酬が同じでも、健康保険の標準報酬は幾通りか発生することになる。
具体的には次のようになる。
厚生年金の標準報酬 健康保険の標準報酬
8万8000円(1等級) 5万8000円(1等級)
6万8000円(2等級)
7万8000円(3等級)
8万8000円(4等級)
65万円(32等級) 65万円(35等級)
68万円(36等級)
:
133万円(49等級)
139万円(50等級)
つまり、社会保険加入者のうち月額報酬が『8万3000円以上67万5000円未満』のワクをはみ出した場合には、厚生年金と健康保険の標準報酬が相違することになる。
どちらかに未加入だったが、途中で加入した場合
健康保険と厚生年金保険は何度もいうが元になる法律が別なので、加入条件も違う。実際にはほとんど同じだが、それまでどちらかに入っていなかったという場合もある。
その方が(または事業所が)もう一方の保険に途中加入した場合、こうした現象が起こることがある。
国保組合からの途中加入
健康保険法上、『国民健康保険組合』(国保組合)の事業所に使用される者は(日雇特例被保険者となる場合を除き)健康保険の被保険者になることができないことになっている。
『なることができない』というのだから否も応もない。絶対ダメという規定だ。
こうした絶対に健康保険の被保険者になることができない『国民健康保険組合』とは、特定の業種に所属する個人事業主を主体に組織・運営される医療保険制度で、市町村国保とは競合することになるので、設立には高いハードルがある。これには
① 建設国民健康保険組合
② 医師国民健康保険組合
③ 歯科医師国民健康保険組合
④ 薬剤師国民健康保険組合
の4つが有名だが、このほか『国民健康保険組合』として存在する業種には次のようなものがある。
税理士・理容・芸能人・文芸美術・料理飲食環衛業・技芸・食品販売・美容・自転車商・青果卸売・浴場・写真材料・弁護士・左官タイル・板金業・食品衛生・食品・芸術家・料理飲食業・酒販・食品衛生・衣料・花街・整容・小売市場・文化芸能・中央市場青果・たばこ・質屋・公設市場・卸売市場・衣料品小売・食料・港湾
こうした国保組合には、
従業員5人未満の個人事業の事業主・従業員と扶養家族
しか加入できないのが原則だが、加入後に5人以上になったり、途中で法人化したりした場合は、その国保組合の理事長と厚生労働大臣の承認を得れば、その国保組合に引き続き加入できることになっている。
こうして承認を得て国保組合に加入している場合、協会けんぽのような健康保険には加入できないが、法人や5人以上の個人事業なので厚生年金保険には加入することになる(一部業種除く)。
だから標準報酬も、厚生年金のみ社会保険事務所が決定・通知することになる。
こうした経緯で、『国民健康保険組合』+『厚生年金保険』というパターンの事業所も、建設業・医療業等、業種によっては相当たくさんある。
・ 5・6月支給から一方加入の場合
こうした事業所(末日〆・翌月払いとする)が、国保組合をやめて4月から健康保険に加入したとする。
この場合、厚生年金と同じように4~6月支給(3・5月分)給与で定時決定。9月分からの標準報酬が決められるかと思いきや、健康保険についてはそうはならない。
厚生年金にはずっと前から加入しているのだが、健康保険には4月からなので、この場合は4月1日新規加入の方と同様、4月支給(3月分給与)は計算に入らない。4月・5月分だけで算定されることになる。
月によって繁閑の差が大きく、残業代や固定されていない手当がかなり変わってくる場合は、健康保険と厚生年金の標準報酬も微妙に違ってくる場合があることになる。
残業等がない月給者でも、たとえば固定手当を含めて月給24万円の方が4月に1万円昇給して25万円になった場合は、
3月分 4月分 5月分
月分の給与 24万円 25万円 25万円
健康保険の標準報酬 ┗━平均25万円━━━┛ ➡ 26万円
厚生年金の標準報酬 ┗━━━平均24万6666円━━━━━━━━┛ ➡ 24万円
という具合になる。他に何事もなければ、このアンバランスな標準報酬がその年9月分から翌年8月分まで続くことになる
一方のみ任意加入の事業所が、他の一方も加入
法人なら社長1人でも社会保険の強制適用事業だが、個人事業の場合は5人未満なら(業種によっては5人以上でも)『任意適用』になる。
任意加入については実際に申請するのは強制適用の事業所に比べると少し面倒だが、その話はここでは置いておく。
とにかく任意適用の事業所が任意に加入しようとする場合、健康保険・厚生年金保険に同時に加入するのが一般的だが、法律上はこの2つは別物なので、あくまで『任意』に、どちらかだけ加入することもできないわけではない。
こうして健康保険だけ、あるいは厚生年金保険だけ加入している事業所が、4月とか5月とか、要は定時決定に関わる月に、もう一方の保険にも加入することになった場合も同様だ。
またはその事業所が法人化するなどして、こうした月に強制適用となった場合も考えられる。