₂₅₂.随時改定(月変)になる場合・ならない場合



 前回まで書いたように、社会保険料の根拠となる『標準報酬』は、4~6月に支給された給与で決まり(定時決定)、それが9月分から翌年8月分まで続くのが基本だ。

 ただし給与の支給額が劇的に変化したときには、次の定時決定まで待たないで変更しないと実態と乖離しすぎる。

 そういうわけで、一定の条件を満たしたときに限るが、報酬が大きく変わったときにはそれに応じて標準報酬も変わるようになっている。

 正しくは『随時改定』というが、企業の実務担当者にとっては月額変更…略して『月変』といった方が通りがいいだろう。
 

随時改定(月額変更)の3要件

 
 上で『一定の条件を満たしたとき』と限定をつけた通り、この『一定の条件』を満たさない限りは、給与総額がどれだけ劇的に増加・減少しても標準報酬は変わらず、従って保険料も変わらない(全国的な料率変更等は除く。)。

 随時改定は、次の3要件がすべてそろった場合だけに行なわれる。
 

 昇給または降給等による、固定的賃金の変動があった

 変動月以後3ヶ月とも、報酬支払基礎日数が17日(または11日)以上ある
    ※ ()内は、3/4基準未満の短時間労働者の場合

 3ヶ月間の報酬平均が、固定的賃金変動方向に、従前と2等級以上差がある
 

① 昇給または降給等による、固定的賃金の変動があった

 
 これは『昇給または降給』のあとに『等』が付いているので、昇給・降給に限らず固定的な賃金が変動した場合は対象になる。固定的賃金の変動とは、一例として次のような場合だ。
 

 ア. 昇給・降給(日給.時給の変更・手当の追加・削除・変更を含む)

 イ. 給与体系の変更(時給⇔日給⇔月給間の変更等)

 ウ. 請負給・歩合給等の単価・歩合給の変更

 エ 時給・日給者の、所定労働時間の変更
 

 つまり、住居移転等で通勤手当が増額・減額された場合も『ア.昇給・降給』に入る。

 『エ.所定労働時間の変更』とは、1日8時間・週5日の契約で働いていた時給の方が、1日6時間契約に変更になったような場合などだ。

 この場合は常識的に考えても給与は25%程度減少するので、これは『固定的賃金の変動』となる。逆に所定労働時間が多くなった場合も同じだ。
 

・ 1円でも対象に?

 
 ここで、固定的賃金の『変動』には『○円以上』というような最小基準はない。つまり、1円でも昇給・降給すれば、随時改定の対象になり得る。
 

② 変動月以後3ヶ月とも、報酬支払基礎日数が17日(または11日)以上ある

 
 ①の『固定的賃金の変動』月以後3ヶ月連続で、報酬支払基礎日数が17日(または11日)以上あることが『随時改定』の要件で、ここが定時決定と大きく異なる点だ。

 つまり昇給・降給等以後3ヶ月間のうち、報酬支払基礎日数が17日(または11日)を下回る月が1ヶ月でもあれば、随時改定は行なわれない。従前の標準報酬がそのまま続くことになる。

 ここでカッコ内の〝または11日〟というのは上のにあるように『3/4基準未満の短時間労働者』の場合で、その場合は基準が『11日以上』になるが、この『3/4基準未満の短時間労働者』というのは、
 

『週の所定労働時間』・『月の所定労働日数』のいずれかがその事業所の『通常の労働者』の4分の3未満の方だ。

 これらの方は以前は社会保険加入要件を満たさなかったが、最近の要件緩和で社会保険加入となった。

 もともと加入要件を満たす『週の所定労働時間・月の所定労働日数のいずれも通常の労働者の3/4以上の方』は、短時間労働者であっても普通に『17日』基準になる。
 

③ 3ヶ月間の報酬平均が、固定的賃金変動方向に、従前と2等級以上差がある

 
 ここは、細かくいうと2つの要件があることが分かると思う。
 

・ 固定的賃金の変動方向

 
 1つ目の『固定的賃金の変動方向に』というのは、昇給や手当加算ならプラス方向・降給や手当減少ならマイナス方向ということだ。

 ここで、たとえば4月支給から5000円昇給したが子どもが独立して家族手当が4000円減ったということもあるだろう。この場合は差引1000円プラスなので、報酬平均がプラス方向に変わった場合でなければ随時改定の対象にならない。

 またこの例で、4月支給から5000円昇給し、5月支給から家族手当が4000円減った場合は、4月支給から3ヶ月間のプラス方向の報酬変化と、5月支給から3ヶ月間のマイナス方向の報酬変化を、別々に評価して、別々に随時改定の対象とする(またはしない)ことになる。

 時給や、月給でも残業時間の変化が大きい職種なら、時給や月給は上がったがトータルの給与は大きく下がった・またはその逆ということもあるので、そうした場合は随時改定の対象にはならない。

 ただし上記『3要件』の①イの『月給⇔日給⇔時給』間の変更など、給与体系の変更の場合はどちらともつかないので、その場合は『変動方向』要件はムシする。
 

・ 2等級以上

 
 2つ目は一番有名な『2等級以上』要件だ。これがもし『1等級』変動でも改定ということになったら、等級の境目なら報酬月額1円差でも『1等級変更』があり得ることになるので、そんなにしょっちゅう変更していたら年に1度の『定時決定』の意味がなくなる。

 ただしここで次の場合は、1等級の変動ではあるが実質2等級変動ということで、随時改定の対象とすることになっている(カッコ内は等級)。
 

 ①   5万3000円未満 (1)  ⇔  6万3000円以上 (2)  健康保険
 ②   8万3000円未満 (1)  ⇔  9万3000円以上 (2)  厚生年金
 ③   62万5000円未満(31) ⇔  66万5000円以上 (32)  厚生年金
 ④   135万5000円未満(49) ⇔ 141万5000円以上(50)  健康保険
 

思いがけない保険料増額!?

 
 20~30万円台の月給の方が4万円昇給したら、これはほぼ間違いなく保険料が上がるだろうことは想像がつく。実際この状況で保険料が上がらないのは余程の好?条件が重なったとき(残業が激減したなど)だろう。

 ここまでの話でお分かり頂けたと思うが、固定的給与の増額がわずかでもこの『随時改定』によって標準報酬が2等級以上上がり、保険料増額!という事態はかなりひんぱんにあるのだ。

 この理由は色々考えられるが、比較的多い例は、次のような場合だ。
 

・ 残業代など非固定的給与が多かった

 
 たとえば月給や手当(通勤手当も含む)など固定給与が6月給与(7月支給とする)で500円増額したとする。

 同じタイミングで残業や特別手当が増え、6~8月分給与総額の平均がそれまでの標準報酬の範囲より2等級上がれば、随時改定により保険料が上がる。

 時給も『固定的賃金』なので、時給が10円上がり、そのタイミングで残業が増えたりした場合も同じ現象が起こる。このときの『残業』は、法定内残業・法定外残業のいずれかは問わない。

 これらの場合、この方の職種が夏場いつも忙しい職場で、平均の上がり方が激しすぎる場合は、救済措置によって上がらない場合もあるが、この救済措置に当てはまる場合はまれだ。
 

・ 直近の昇給等で、随時改定にギリギリ該当しなかった

 
 このように昇給等、固定的賃金変動の際は、常に標準報酬改定の可能性(危険?)があるが、たとえば前回の昇給時、2等級増にわずかに届かないギリギリ『1等級増』で改定がなかった場合、次のわずかな固定的給与の増額で『随時改定』発動!というのもよくある話だ。

 これは月給でほとんど固定給のみ・残業ナシの場合でもあり得る。

 たとえば定時決定では報酬月額平均24万9700円で標準報酬24万円だった方を考える。この方が7月支給分から2万円昇給したとする。

 7~9月の平均報酬月額は26万9700円になる。この段階では標準報酬は24万円から26万円への1等級増に過ぎないので随時改定はない。

 この方、このあと固定的賃金の増加がなければ標準報酬も、ということは保険料も翌年8月分まではこのままだ。これは、残業代等の非固定給が増える月があっても同じことになる。

 ただしこの方は7月支給分の2万円昇給の少しあと、職場から遠いところに転居し、この年の10月支給分から通勤手当が月500円上がったとする。または資格手当か何かが月500円付いた(または増えた)とかでもいい。

 この場合、残業等がなくても10~12月の報酬月額は27万0200円になるので、標準報酬は28万円。現状より2等級増で、文句なく保険料は増額になる。

 

 

2025年08月26日