前回、シフト勤務者が『2時間の日に年休を取って2時間分の給与をもらうのも、8時間の日にとって8時間分の給与をもらうのも自由』と書いたのは、年休中の給与が『所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金』と規定されている一般的な場合だ。
年休中の給与については、次の3つの方法のどれかということになっている。
※① 所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金(以下『通常の賃金』)
※② 平均賃金
※③ 健康保険の標準報酬日額に相当する賃金
③の場合は労使協定が必要になる。また時間年休の場合は、いずれもその日の所定労働時間で割った額になるが、今回は触れない。
一番多いのが※①の『通常の賃金』だ。月給者の場合なら、『何もしない』ことが即ちこの賃金を支払ったことになるので、最も分かりやすい方法といえる。
前回のシフト勤務者のように所定労働時間に変動がある場合は、その勤務日の所定労働時間分の賃金を支払うことになる。
年休中の給与についても統一的に処理しなければならないので、Aさんには通常の賃金・Bさんには平均賃金・Cさんには標準報酬日額…というわけにはいかない。
どの程度の違いが?
さて、※①~※③で、実際のどのくらいの違いがあるものか、実際に試算する前に、ちょっと定性的に評価してみる。
①『通常の賃金』は、いつも残業ばかりしている方なら少ないかもしれない。年休中は残業しないので当然だが。
②『平均賃金』は、土日祝日など休みも全部ならして平均するので少なくなりそうだ。しかし、通勤手当も残業代も、およそ賞与以外はほとんど入るから、残業が多い人は多いかも。
③『標準報酬日額』は、標準報酬を30で割って出す。標準報酬は段階的なので、バラつきが大きいかも…
などの予想が立つ。
もう一度、次のデータを基に、月給の月影さんの給与で考える。
所定労働時間:年間1960時間 ・ 基礎賃金:1,423円/h(日額 11,384円/日)
職務関連給与:232,500円 (基本給・役職手当・資格手当・皆勤手当)
他、定額給与: 27,200円 (住宅手当・家族手当・通勤手当)
計:259,700円
考え方としては、年休を取得したことによる不利益な扱いはしないようにしなければならないので、職務に関係ない給与も操作しない。
細かく言えば、1日年休を取った日は『通勤』しないので、通勤手当を日割りで減額しても『年休を取得したことによる不利益な扱い』ではないとも言えるが、ここでは一般的な扱いとする。
要するに、1日年休を取った場合は、基礎賃金の日額11,384円を引き、次の※①~※③のいずれかを充当することになる。
※① 通常の賃金
※①『通常の賃金』なら、所定労働時間分の基礎賃金11,384円になる。結果としてプラスマイナス0になる。
これが、月給者は『何もしないことが即ちこの賃金を支払ったことになる』という言葉の意味だ。
※② 平均賃金
※②『平均賃金』の場合、直近の賃金〆日以前3ヶ月間の残業状況に大きく関わってくる。ここでは、歴日数の除外日数や欠勤等、特殊な事情はなかったものとする。また、3ヶ月間の歴日数は89日~92日となるが、ここでは90日とする。
平均賃金は、賞与等以外ほぼ全ての給与を対象に計算されるので、月影さんの場合は、住宅・家族・通勤手当を含む定額給与259,700円が基になる。
ここでは、平均賃金算定期間中の時間外労働時間が、月平均0・15・30・45時間、及び月45時間+休日労働32時間の場合で考える。
ここで、30時間というのは、普通の36協定の年間上限360時間の月平均・45時間というのは同じく普通の36協定の上限だ。
月平均時間外労働時間
⑴ 0時間
259,700円 × 3 ÷ 90日 ≒ 8,657円/日
⑵ 15時間
(259,700円 + 1779円/h × 15h)× 3 ÷ 90日 ≒ 9,547円/日
⑶ 30時間
(259,700円 + 1779円/h × 30h)× 3 ÷ 90日 ≒ 10,436円/日
⑷ 45時間
(259,700円 + 1779円/h × 45h)× 3 ÷ 90日 ≒ 11,326円/日
⑸ 45時間+休日労働32時間
(259,700円 + 1779円/h × 45h + 1921円 × 32h)× 3 ÷ 90日 ≒ 13,375円/日
(※ ここでは、円未満切上げとしました。)
このケースでは、①『通常の賃金』とほぼ同じになるのは時間外45時間の⑷、これを超えるのは、かなりの長時間労働となった⑸の場合だけという結果になる。
※③ 標準報酬日額
『標準報酬日額』というのは、あまり馴染みがないかもしれないが、出産手当金や傷病手当金の支給額は、すべてこの『標準報酬日額』が基になっている。
健康保険の標準報酬日額は、標準報酬を30で割って10円未満を四捨五入した金額だ。10円単位というのがいかにも健康保険っぽい。標準報酬は5万8000円から139万円まで50段階なので、標準報酬日額も、1,930円から46,330円までの50段階ということになる。
標準報酬についてはいずれ書くが、固定的賃金に変更がなければ基本的には4~6月に支給された給与額で決まる。
ここでは、②『平均賃金』の⑴~⑸のケースをそのまま使って、これが年中続いていたと仮定する。つまり、⑷・⑸の場合は、『特別条項付き』36協定でないとムリだ。
この場合、標準報酬と標準報酬日額は、おおむね次のようになる。
比較のため、②平均賃金も右端に載せた。
時間外 月収 標準報酬 標準報酬日額 平均賃金
⑴ 0時間 259,700円 26万円 8,870円 (8,657円)
⑵ 15時間 286,385円 28万円 9,330円 (9,546円)
⑶ 30時間 313,070円 32万円 10,670円 (10,436円)
⑷ 45時間 339,755円 34万円 11,330円 (11,325円)
⑸ +休日32h 401,227円 41万円 13,670円 (13,374円)
年休権があるのは労働者に限るので月収300万円というのは滅多にいないだろうが、その場合でも標準報酬は139万円なので、給与日額10万円に対して標準報酬日額は46,330円(上限)となり、損なことは確かだ。
こうした超高給の方や、月による繁閑が激しい方を除けば、標準報酬はもらっている給与をほぼ反映しているはずだ。この例でも、平均賃金とほぼ同じ結果となった。
ただ、この②と③が、いつもほぼ同じになるかというとそうでもないので、ここまで近いのは今回たまたまだ。
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※ 訂正
『どの程度の違いが?』16行目
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