年休中の給与について、前回、月給者の場合を例にざっと説明したが、時給者やシフト勤務者・さらに歩合給の方の場合にはまた違った結果となるので、ここで扱うことにする。
労基法で定められた年休中の給与を、所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金(以下『通常の賃金』)・平均賃金・標準報酬日額(労使協定が必要)とした場合で考えるが、『統一的に処理』しなければならないということと、『不利益変更』に当たる場合はそう簡単に変更できないということは、頭に入れておかなければならない。
時給のシフト勤務者は、平均賃金が安定
・通常の賃金の場合
日によって所定労働時間が違う時給のシフト勤務者の年休取得時の支給額は、『93.シフト勤務者の年休取得の運用』の最後に書いたように、通常の賃金の場合は、
時給 × その日の所定労働時間
となるので、たとえば時給が1,200円なら、2時間の日は2,400円、4時間の日は4,800円…となる。
・平均賃金の場合
この方が週4日勤務で、その日によって2・4・6・8時間の勤務がほぼ均等に組んである状態が続いていたとすると、平均賃金はザックリ
1,200円/h × 20h/週 ÷ 7日/週 ≒ 3,429円
となりそうだが、この場合は『最低保障』を下回るので実際は3,600円程度になる(なぜそうなるかは近いうちに扱う。)。
つまり、所定労働時間が何時間の日に年休を取っても、1日3,600円程度を支払うことになる。従って、最初から計画的に年休を入れる場合でも、年休を取る日の『所定労働時間』に悩む必要はない。
・標準報酬日額の場合
この週時数では、100人(24年10月以降は50人)超の会社でないと、普通は社会保険に入れないが、加入している場合は標準報酬104,000円程度になるはずなので、その場合は標準報酬日額は3,470円になる。
これが、1日年休を取った場合に支払うべき給与だ。
週4日以内の平均賃金は最低保障あり
同じく、時給1,200円・1日8時間・週3日の場合を考える。
・通常の賃金の場合
1日年休を取ったとき『通常の賃金』を支払う場合は、何も考えなくても1,200円×8時間分の9,600円になる。
・平均賃金の場合
平均賃金の場合は、普通に計算するとざっくり、
1,200円/h × 24h/週 ÷ 7日/週 ≒ 4,114円/日
ではなくて、『最低保障』の関係で約5,760円程度。
・標準報酬日額の場合
この方は、標準報酬126,000円程度のはずなので、標準報酬日額は4200円になる。
標準報酬日額に『最低保障』はないので、週の所定労働日数が少ないと、平均賃金より低くなることが多い。
歩合給は、『通常の賃金』が一番大変
歩合給の場合は、年休中の給与が『所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金』と規定されているときが一番大変になる。この『通常の賃金』を算定するのが結構難しいのだ。
・通常の賃金の場合
『通常の賃金』の場合は、歩合給の部分についても、(歩合給分)基礎賃金の所定労働時間分をプラスして支払うことになる。
たとえば、その月の勤務状況が次のようになっている方が、契約1本5,000円の『営業手当』を支給されたとする。
・基礎賃金 :1,423円/h(日額 11,384円/日) ・営業手当:5,000円
・総労働時間:185h(時間外含む)
歩合給分の基礎賃金は、『 歩合給 ÷ 総労働時間 』で出すので、
5,000円 ÷ 185h = 27.027…円/h ≒ 27円/h
となる。
これの8時間(所定労働時間)分で、216円(27円/h×8h)がプラス分だ。
従って、この方が1日年休を取った場合、基礎賃金の1日11,384円に、この歩合給関連分216円を加えて支払う必要がある。つまり『11,600円』が『通常の賃金』だ。
・歩合給分『216円』って何?
さて、この『216円』とは一体何なのか。
実際にはこの場合、契約『1本5,000円』の規定なので、『216円』という営業手当は存在しない。これは、実は数学でいうところの『期待値』なのだ。
185時間で1本の契約を獲得した ー というのが、この方の実績だ。
このことから、仮にこの1日(8時間)の年休を取らずに労働した場合、4.324%(8h÷185h)の確率でもう1本契約を獲得できたはずと考える。
つまり、(5,000円×4.324%≒)216円分営業手当を獲得する可能性があったところ、年休を取ったことによってその可能性を0にしたとも言える。
この分を補償しようということなのだ。
義務的取得など一部の例外を除いて年休は本人の請求で取得するものだ。その年休中の給与で、実際には獲得していない歩合給を『補償』するのは納得できないという方もいるかもしれないが、実際に労働していなければ歩合給を得る可能性もない。
比喩が適切かどうか分からないが、宝くじを買わなければ当たる可能性もないのと同じだ。
さらに、『歩合給÷総労働時間×所定労働時間』という計算方法は一緒なのでここでは例示しないが、完全歩合給の場合はこれを認めないと年休時の給与が0になってしまう。
これでは『年休を取得したことによる不利益な扱い』どころか、無給ではそもそも年次『有給』休暇にならない。
これがあり得ないことは、さすがに誰でも分かっていただけるところだろう。
・平均賃金・標準報酬日額の場合
平均賃金や標準報酬日額を使う場合は、どちらにしても歩合給ははじめから計算に入っているので、改めて頭を使う場面はない。もちろん、所定労働時間が変わる場合でも支給額は変わらない。
次 ー 96.年休時の給与と深夜割増 ー
※ 訂正
・歩合給分『216円』って何?
6行目 (8h÷185%) ➡ (8h÷185h)
・平均賃金の場合
4行目 保証 ➡ 保障
(サブタイトル)週4日以内の平均賃金は最低保証あり ➡ 〃
・平均賃金の場合
3行目 〃
・標準報酬日額の場合
2行目 〃 ('24.01.26)