93.シフト勤務者の年休取得の運用



 シフト勤務者についての年休付与日数の考え方については前回述べた。特別な運用の仕方があるわけではなく、他のパートの方等と同じように取得させればよい。

 ただ、実際にシフト勤務者がいる会社の方なら当然経験していることであり、わざわざ言うほどのことではないが、年休を取得させるにあたってシフト勤務者には別の問題がある。

 例えば月末近くになって「これが来月のシフト表だよ。みなさんよろしく!」と、突然バーンと一方的にシフト表を貼り出すような強気な会社は極めてまれである。
 

・各人の希望が織り込み済みのシフト

 
 シフト勤務の労働者には、家庭の主婦とか学生のアルバイトとか、予定が自由にならない方が多いので(「だからシフト勤務で働いているのよ!」という方もいる。)、シフトを組む際には、会社と従業員・または従業員同士の予定の事前すり合わせを綿密に行って、『これで大丈夫!』となってからシフトが発表されることが多い。

 経営者にしても、シフトを発表してからそれぞれの都合を言われたら余計な手間が増えるばかりか下手をするとシフトに穴が開き、自分の首を絞めることになりかねない。

 結果的に《この日は子どもの参観日だからダメ》とか《この日は恋人の誕生日なのでカンベン》とかいった各人の希望は織り込み済みのシフトとなる。

 そうなると、シフトが入っている『労働日』に年休を取るというのは、家族が急病になったとか、慶弔休暇がない会社なら身内に不幸があったとか、ごく例外的な場合に限られる。
 この場合、『計画的な年休取得』など、原理的にあり得ないことになる。
 

シフトが入ってない日に休暇はあり得ない

 
 何度も強調したが、労働義務がある日に給与をもらって休むから年次有給『休暇』なのであって、シフトが入っていない(労働義務がない。すなわち元々休日である)日に年次有給休暇の取得はあり得ない

 理屈からいっても、年次有給休暇に限らず、労働義務がない日に休暇を取ることは絶対にムリだ。

 しかし、実際には年10日以上年次有給休暇を付与された方には最低5日取得させなければならないし、義務ではないが、退職者には年休を完全消化して気持ちよく辞めてもらいたいという経営者の希望もよく聞く。

 言い方は悪いが、ここは無理やりシフトを入れて労働義務を発生させ、そこで年休を取ってもらうしか方法はない。他の方法を知っている方がいたら、真面目に教えを乞いたいものだ。
 

・無理やりシフトを入れる

 
 さて、年休を取ってもらうために無理やり入れるシフトだが、1日何時間にすべきだろうか。

 日程はバラバラだとしても雇用契約上、1日の労働時間が固定化されていたり、実態としてほぼ同じ労働時間ならばそれに従うべきであり、そもそも『何時間にすべきか』などという疑問も生じないだろう。

 問題は、日ごとの労働時間もバラバラな場合だ。

 そのような場合は、前の基準日からさかのぼって1年間、または入社後初の付与なら当初6ヶ月間、シフト上の所定労働日数・所定労働時間にあまり変化がないのであれば、その1年間または6ヶ月間の総労働時間(年休時間が有れば当然含める。)、その1年間または6ヶ月間の総労働日数(同じく、その間の年休日数も含める。)で除した時間を1日の労働時間とするしかないこともある。

 ただしこの場合、法定時間外の労働時間がある場合は総労働時間から除く。

 たとえば、日によって所定労働時間がバラバラなシフト勤務の労働者が、入社6ヶ月間に80日勤務し、総労働時間が280時間(法定外なし)だった場合は、
 

280h ÷ 80日 = 3.5h/日


を、その『無理やり入れる』シフトの1日の所定労働時間とする。この場合は6ヶ月間に80日なので『週3日』の労働者ということになり、6ヶ月後には『5日』つまり17.5時間(3.5h/日×5日)分の年次有給休暇が付与されることになる。

 もちろん、こんな学説はないので、取得日現在の明確な根拠が存在する1日の所定労働時間があるのなら、それに従うべきなのは当然で、あくまで緊急避難的な措置と考えてほしい。
 

従業員の希望があれば、それがほぼ絶対

 
 しつこいようだが、従業員の希望がある場合は原則通り、ほぼ絶対にその日の所定労働時間を年休処理することになる。

 『絶対』に『ほぼ』という副詞(連体詞?国語はあまり詳しくないので、間違っていたらすみません。)をくっ付けるというのは絶対に変なので《はぁ?》と思った方がいると思うが、これは前に述べた『時季変更権』行使を想定しての『ほぼ』だ。

 『事業の正常な運営を妨げ』ないのなら、1日の所定労働時間がバラバラな従業員が『1日年休』を取る場合、所定労働時間が2時間の日を取るか8時間の日を取るかは、完全にその方の選択に委ねられる。

 2時間の日に年休を取って2時間分の給与をもらうのも、8時間の日にとって8時間分の給与をもらうのも自由だ(※㊟)。当然、どちらの場合にも『年次有給休暇1日取得』とカウントされる。

 ここで『不公平』とか言っても始まらない。そういうシフトを組んでいる以上、そういうリスクをはらんでいることは当然知っておかなければならないことだからだ。

※㊟ 年休中の給与が一般的な規定による場合

 

次 ー 94.年次有給休暇中の給与は3通り ー

 

※ 訂正
従業員の希望があれば、それがほぼ絶対
10行目 脚注を付加           '23.10.27
・無理やりシフトを入れる
18行目 基準日現在の ➡ 取得日現在の '23.10.31
・各人の希望が織り込み済みのシフト
8行目 シフトとと ➡ シフトと    '23.12.12
・無理やりシフトを入れる
11行目・13行目 法定労働時間外の勤務がある場合について挿入  '24.10.14

 

2023年10月24日