₁₃₉.賞与の社会保険料には上限が


給与等からの控除Ⅲ 賞与にかかる社会保険料


 別に当方は給与ソフト会社の回し者ではないが、賞与の計算に関しては給与ソフト使用の場合は設定を間違わない限り給与計算以上に簡単だ。特に頭を使わなくても一発で社会保険料と税額は出てくる。

 ただし、担当者としてはどうしてそういう計算になるのか従業員に聞かれたら答えられなければならないし、万一ソフトの設定が誤っていても気づかないままということもあり得る。たとえば、どうしてか不明だが、賞与の厚生年金保険料がデフォルト(初期設定)で『計算不要』になっているものもある。
 

・ 給与ソフトがブラックボックスに…

 
 ここまでくれば逆に「気付かない」ということはまずないだろうが、給与ソフトの便利さにかまけていると次第にソフトが『ブラックボックス』化していく。要は機械に使われている状態だ。

 ということで今回は、賞与からの社会保険料控除の計算を見ていく。
 

① 健康保険料

 
 (狭義の)社会保険料である『健康保険料』・『介護保険料』・『厚生年金保険料』の3つは、『標準賞与額』から算定する。『保険料率』そのものは給与の場合と同じなので、健康保険料率なら北海道で10.21%だ。保険料は次の計算で出る。

健康保険料 = 標準賞与額 × 健康保険料率

 これを労使で折半するので、従業員の賞与から控除する金額はこの半分だ。端数の扱いは給与の場合と同じで、『0.5円以下切捨て・0.5円超切上げ』となる。
 

・ 標準賞与額

 
 また面倒そうな言葉が出てきたが、これは何のことはない。賞与の金額の1,000円未満の端数を切捨てたものだ。ただし、同じ月に2回以上賞与が支給されるうらやましい状況の場合には、その月の賞与の総額で算定する。

 たとえば8月に2回賞与が支給された次の場合では、

① 8月15日  100,600円
② 8月31日  200,500円

100,600円 + 200,500円 =301,100円 ➡ 301,000円

が標準賞与額になる。1,000円未満を各々切捨てた額を合計した30万円にはならない。
 

・ 上限は年度ごと573万円

 
 また、この『標準賞与額』には上限があって、年度(4月1日~翌年3月31日)の累計額で573万円となっている。『年』や会社の決算月で区切るわけにはいかない。
 たとえば、景気の良すぎる話で恐縮だが、8月・12月・翌年3月に200万円ずつ賞与が支給された場合は、健康保険料率が10.21%なら

     賞与額   標準賞与額   健康保険料
8月   200万円   200万円   102,100円
12月   200万円   200万円   102,100円
3月   200万円   173万円   88,316円
年度計   600万円   573万円   292,516円

で、この保険料率としては、賞与にかかる年間の保険料の最大となる。

 また、月途中(末日前)で退職する場合、退職月に支給された賞与については保険料を控除しない。ただ、支給日に在籍している場合は『賞与支払届』は提出の義務がある。これについては②介護保険料・③厚生年金保険料も同様だ。
 

② 介護保険料

 
 介護保険料については、前項の健康保険料とほとんど同じ扱いだ。介護保険料率は全国一律1.6%(事業主・本人各々0.8%)となっているので、同様に計算すればよい。

 ただ実務的に注意を要するのが『介護保険料』が発生する年齢が40才~64才と現役ど真ん中で境目が来るので、年齢による控除の要否が微妙な点だ。給与の場合はあまり気にならないが、賞与は『40才になった月』の支給であれば介護保険料の控除対象となるし、『65才になった月』であれば控除対象でない。
 

・ 誕生日の前日に年を取る

 
 ここで重要なのが『年齢計算に関する法律』で、年齢が増えるのは法律上誕生日の前日となっている。

 たとえば40歳の誕生日が9月1日の方は8月31日に40才になるので、8月中に賞与が支給された場合、支給日39才であっても控除対象になる。
 また、9月1日が65才の誕生日の場合は、8月31日には65才になるので、8月に賞与が支給されたのなら、支給日に64才であっても介護保険料は控除されない。
 

③ 厚生年金保険料

 
 厚生年金保険料についても①の健康保険料とほぼ同じ扱いで料率も18.3%と全国一律なので、『標準賞与額』に18.3%をかけた金額を労使で折半することになる。

 基本的には厚生年金保険料の控除対象は69才までなので、70才に達した月に支払われた賞与からは控除しないのも②と同じだ。

 上で『基本的には』とつけたのは、70才以上でも老齢年金の受給資格がない方は、いくつかの要件をクリアすれば加入できる場合があるからだ。これについては、忘れなければ後日触れる。
 

・ 上限は1回150万円

 
 もう1つ健康保険と違うのは『標準賞与額』の上限だ。
 厚生年金の『標準賞与額』の上限は、1回150万円(正確にはひと月あたり)で、健康保険の規定とは異なる。

 ①の健康保険料のところで示した8月・12月・翌3月に200万円ずつ支給の場合は、標準賞与額は1回150万円×3回となるので、年度合計で450万円だ。

 仮にこれを12月に600万円一括で支給したとすると、健康保険の標準賞与額は変わらず573万円だが、厚生年金の標準賞与額は150万円になる。もちろんこの場合は将来の年金額もその分少なくなる。この例をまとめると、北海道なら(介護保険料・厚生年金保険料は全国一律です。)次のようになる。

 賞与の支給 ┏━━ 標準賞与額 ━━┓┏━━━━━━━ 保険料 ━━━━━━━┓
        健保・介保 厚生年金   健康保険   介護保険  厚生年金保険
200万円×3回  573万円  450万円  292,516円  45,840円  411,750円
600万円×1回  573万円  150万円  292,516円  45,840円  137,250円

 当然だがこの場合は、1回にまとめると厚生年金保険料は3分の1になる。
 

④ 雇用保険料

 
 雇用保険料は、賞与も給与と全く同じように総支給額に雇用保険料率(一般・牧場等は0.6%、建設業や農漁業等は0.7%)をかけて算出する。端数0.5円以下は切捨て・0.5円超を切上げるのは(狭義の)社会保険と同じだ。

 あと(狭義の)社会保険との違いは、(狭義の)社会保険の場合は月途中の退職者のその月の賞与分の保険料は控除しないが、雇用保険料は必ず控除対象になることだ。たとえ賞与の支給が退職後であってもその分の雇用保険料は徴収する。
 もちろん、退職金からは徴収しない。

 

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2024年04月26日