37.歩合給の最低賃金

 

 歩合給の場合、最低賃金と比較すべき金額の計算式は、基礎賃金算出のときの式と全く同じである。つまり、基礎賃金は、

『歩合給分基礎賃金』= その月の歩合給 ÷ その月の総労働時間

で算出したので、最低賃金との比較の際にもこの『歩合給分基礎賃金』(私の造語です。)を計算し、これを、月給や時給等、他の最低賃金と比較すべき金額と合算して、それを最低賃金と比較すればよい。
 

一部歩合給の場合

 たとえば、『給与の一策 8・歩合給分の基礎賃金』で例とした、所定労働時間月168時間の月影さんが時間外労働8時間・休日労働3時間を費やして契約を1本取り『営業手当』5,000円を獲得した話で言うと、この場合は

歩合給分基礎賃金    5,000円 ÷ ( 168h + 8h + 3h )= 27.932…円/h

としたので、最低賃金と比較すべき金額も、月給分(1,484.693…円/h)と合わせて,

   1,484.693…円/h + 27.932…円/h = 1,512.626…円/h

となる。もちろん月給分だけで余裕で最低賃金を超過している月影さんが、さらに歩合給分を足して最低賃金を割込むわけはないが、計算方法としてはこういうことになる。

 ということで、月影さんの場合は大した影響はないが、ここで月影さんの後輩の北島さんという方が、新卒で東京本社に入社したとする。
 北島さんの、最低賃金と比較すべき月給分の給与は1,150円/hだった。このままでは当然東京では最低賃金1,163円/hを下回る。

 ここで、北島さんが同じように所定労働168時間・時間外労働8時間・休日労働3時間を費やして営業手当を5,000円得たとすると、最低賃金と比較すべき給与は、

1,150円/h + 27.932…円/h = 1,177.932…円/h

となり、東京の最低賃金をクリアすることになる。
 確かに最低賃金法上は合法だが、実に危ういことは分かっていただけると思う。この月契約を取って5,000円獲得したのは単なるビギナーズラックだったのかも知れず、これがなければ最低賃金を割っているのだ。

 常識ある経営者なら、こんな危ない橋は渡らない。最低賃金をクリアするかどうか事前に分からないというのは危険極まりない。こうした、あるかないかも分からないような『歩合給』なら、これを考えに入れずに最低賃金との比較をすべきだろう。
 

完全歩合給の場合


 完全歩合給やそれに近い場合は、そんなことは言っていられない。なにしろ歩合給を考慮に入れなければ、最低賃金と比較すべき給与は0に近くなってしまうからだ。

 これらの場合も、歩合給分の『最低賃金と比較すべき給与』は、上と同じ

        その月の歩合給 ÷ その月の総労働時間    となる。

 次の条件で『最低賃金と比較すべき給与』を算出してみよう。

・当月の歩合給  290,000円
・総労働時間   260h

 この時点ですでに、290,000円 ÷ 260h = 1,115.384…円/h

となり、東京・神奈川ではアウト・北海道等それ以外の地域ならセーフということがわかる。ちなみに、この場合の『総支給金額』は、

・法定内労働時間  168h
・法定時間外労働   60h
・ 〃 (月60h超) 20h
・休日労働      12h
・深夜労働時間    15h      とすると、

・基礎賃金     290,000円 ÷ 260h ≒ 1,115円/h
・時間外割増     1,115円/h × 0.25 × 60h ≒ 16,725円
・ 〃(月60h超)  1,115円/h × 0.5  ×  20h = 11,150円
・休日割増      1,115円/h × 0.35 × 12h ≒  4,683円
・深夜労働割増    1,115円/h × 0.25 × 15h ≒  4,181円   で、

290,000円 + 16,725円 + 11,150円 + 4,683円 + 4,181円 = 326,739円

となる。ただし、上で書いたように、この給与は、東京・神奈川では最低賃金に達しないので、仮に東京の最低賃金で計算すると、同じ状況で340,701円必要になる(内訳は以下の通り)。

※ 基礎賃金の260時間分 1,163円/h × 260h = 302,380円
  時間外 1,163円/h × 0.25 × 60h ≒ 17,445円
  60h超 1,163円/h × 0.5  × 20h ≒ 11,630円
  休日  1,163円/h × 0.35 × 12h ≒  4,885円
  深夜  1,163円/h × 0.25 × 15h ≒ 4,361円


 ・出来高払制の保障給との関係


 後で詳しく述べる予定だが、この完全歩合給のように、『出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ、一定額の賃金の保障をしなければならない(労基法27条)』ことになっている。

 これを『出来高払制の保障給』という。法は保障すべき『一定額』を示していないが、ざっくり『平均賃金の6割程度』ということになっている。

 この『保障給』と最低賃金の関係はどうなるのか。

 平均賃金とは、日額で、普通は過去3ヶ月分の給与総額をその間の総歴日数で割ったものである。正確な出し方はいずれまとめるが、ここでは、休日を含めた1日当たりの賃金と考えてもらえばよい。

 上の例でいうと、この方の過去3ヶ月の給与が似たようなものであった場合は、平均賃金は1万円程度になる。その6割というと約6000円だ
 これを労働日数分支給しても、最低賃金には到底足りない。

 1日8時間労働で『平均賃金』の6割が最低賃金となるような月額(30日の月とする)を逆算すると、北海道の場合(1,010円/h)で

1,010円/h ÷ 0.6 × 8h/日 × 30日/月 = 404,000円/月

       となる。東京だと同様に計算して 465,200円/月  だ。

 この金額には、各割増賃金額等は含まない。
 この式の『×30日/月』のところで《ん?》と思う方がいるかもしれないが、平均賃金は暦日で割って出すので、逆算するとこうなる。決して、1日8時間・月30日働いた意味ではないので誤解のないように。

 つまり、この場合でいうと、北海道で40万円程度・東京で46万円程度以上の平均月収のときに、はじめて平均賃金の6割程度の『保障給』が意味を持ってくる。

 この平均月収を下回る水準の場合には『平均賃金の6割』より『最低賃金』の方が高いので、最低賃金額が保障されていれば、法の定める『労働時間に応じた一定額の賃金の保障』はなされていることになる。

 

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※ 最低賃金改定に伴い、金額変更 '23.10.03

※ 最低賃金改定による金額・設定変更 '24.09.17

 

2023年03月17日