前回、『資格期間は未納以外の期間』と書いた。ここで『未納』とは、制度的に『加入が義務なのに』納付も免除等もしなかった期間だ。ただ、長い人生、途中で制度が変更されることも多い。
また、加入できなかったり加入が任意だったりした期間の保険料を払っていなかったとしてもそれは『未納』ではない。
それらを本人の不利に扱うわけにもいかないので、そういった期間を中心に『合算対象期間』(『カラ期間』)というのが設定され、老齢年金の『資格期間』の一部にはカウントすることになっている。
この『合算対象期間』、大きく
・ 1961年3月までの期間
・ 1961年4月から1986年3月までの期間
・ 1986年4月以後の期間
に分かれるが、『国民皆年金体制』ができあがる前の1961年以前の期間については、もう問題となることはほとんどないのでここでは考慮しない。従って、これ以前に働いていた期間等がある方は、厚労省のサイトなどで確認してほしい。
もちろんこの『合算対象期間』、通称『カラ期間』とも呼ばれる通り、老齢年金額そのものには一切貢献してくれないので、納付期間・免除期間・猶予期間だけで10年確保できる方には関係のない話だ。
任意加入していた期間については当然資格期間になるので、それ以外の期間になる。
① 厚生年金未加入・20~59才の日本人の海外在住期間
厚生年金未加入の場合、国外に住所を有する方には国民年金の加入義務はない。ただ1986年4月からは任意加入はできることになっている。
② 1991年3月以前の20~59才の学生(夜間・通信制を除く)だった期間
1991年3月以前は『昼間学生』については加入が任意だった。
③ 19才以下・60才以降の第2号被保険者期間
19才以下・60才以降でも『厚生年金加入期間』としては、当然毎月保険料を支払った分、厚生年金の原資を積み増しているのは当然だが、『資格期間』としてはあくまで『合算対象期間』の扱いだ。
④ 20~59才で任意加入しながら未納だった期間
加入しなくていい期間だからこそ『任意加入』の制度がある。加入しなくていい期間に加入しなかった場合は元々『合算対象期間』だ。しかし『任意加入』で加入の意思を示しながらこれを未納にした期間は、以前は『未納期間』の扱いだった。
ただ、加入が任意の方が保険料を納付しなかったことについては同じなのに、最初から加入しなかったら『合算対象期間』で、任意加入の意思を示しながら結果的に保険料を納付できなかったら『未納期間』というのは公平性に欠ける。
そこでこのような規定となった。たとえば20~59才のうちの一定期間、海外に在住して『任意加入』したにも関わらず未納にしていた場合などだ。この取扱いは2014年4月1日からと割と最近で、こうした期間はこの日をもって合算対象期間とすることになった。
⑤ 日本国籍等を得る前の海外在住期間のうち20~59才の期間
20~59才の方に限るが、日本に住んでいれば国籍に関わらず国民年金の加入義務がある。外国に住んでいる日本人は任意加入の道がある。
しかし、外国に住んでいる外国人は日本の国民年金には加入できない。日本国籍取得や日本在住の時期が遅ければ、そこから保険料を納付し始めても60才まで10年ない場合がある。これは、そうした場合の救済措置だ。
※ ここでの『日本国籍等』とは『日本国籍』または『永住許可』のこと
⑥ 1986年3月以前に厚生年金等の加入者の配偶者だった20~59才期間
第3号被保険者の制度ができたのは1986年4月だ。その前は(今でいう)第2号被保険者の配偶者は国民年金の加入が任意だったため、この前の厚生年金・共済年金等の被保険者の配偶者であった期間は『合算対象期間』とされる。
⑦ 1986年3月以前の、以下の20~59才期間
・ 老齢年金受給権者の配偶者
・ 障害年金受給権者とその配偶者
・ 遺族年金の受給権者
この方々も⑥同様、1986年3月以前は加入が任意だった。
⑧ 1980年3月以前の国会議員またはその配偶者だった20~59才期間
⑨ 1962年12月~1986年3月の、
地方議員またはその配偶者だった20~59才期間
これも議員年金との関係もあって、適用除外とされていたり加入が任意だったりした時代の救済措置だ。
⑩ 1962年5月以降に日本国籍等を得た方の
1981年までの在日期間のうち20~59才の期間
1981年までは、国内居住でも外国人は適用除外だった。82年以降は強制加入。
⑪ 1986年3月以前に受けた脱退手当金の計算の基礎となった期間
(1986年4月以降65才到達前月までに納付または免除期間がある場合)
以前は厚生年金保険料を納めていた方が所定の要件を満たせば、権利を放棄する代わりに脱退手当金をもらえる仕組みがあった。要は手切れ金みたいなもので、国と被保険者の権利・義務関係は一旦終了するが、『資格期間』の一部としては使えることになっている。
⑫ 国民年金を任意脱退していた1986年3月以前の20~59才期間
1986年3月以前は特定の要件の下、都道府県知事の承認により『任意脱退』することが認められていた。2017年まで存在していた厚生労働大臣の承認による『任意脱退』とは別物。
合算対象期間だけならダメ
こうした『合算対象期間』だが、『合算』ということは『ほかに資格期間があれば、それにくっつけて合算してあげるよ』ということなので、『合算対象期間』のみが何十年分あっても『資格期間』にはならない。
ちなみに、2019年の社会保険労務士試験では、次の文章の正誤を問う問題が出されている。
日本国籍を有している者が、18歳から19歳まで厚生年金保険に加入し、20歳から60歳まで国民年金には加入せず、国外に居住していた。この者が、60歳で帰国し、再び厚生年金保険に65歳まで加入した場合、65歳から老齢基礎年金が支給されることはない。
なお、この者は婚姻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻と同様の事情にある場合も含む。)したことがなく、上記以外に被保険者期間を有していないものとする。
語尾が『されることはない』等で断言されている場合、試験対策上は『誤』の可能性が高いものだが、この場合、18才・19才時と60才から65才までは上記③の合算対象期間、20才から60才までの海外居住期間は①の合算対象期間になる。
つまり、全期間『合算対象期間』なので、正解は『正』ということになる。このように、『納付済期間』・『免除期間』・『猶予期間』と違い、合算対象期間だけがいくらあっても年金の受給には結びつかない。冒頭で〝『資格期間』の一部〟と強調しておいたのもそのせいだ。
※ 挿入
タイトル
合算対象期間とは? ➡ 合算対象期間(カラ期間)とは?
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