タイトルに偽りはない。
国民年金保険料は、厚生年金加入者やその扶養配偶者を除き、特別な場合以外20才から59才までの国内居住者すべてに納付義務がある(免除・猶予については後述。以下同じ)。
なぜ『20才の学生』にピンポイントで限定するのか。
筆者の心が狭いのかもしれないが、役所から何度督促されても国民年金保険料をずっと支払わず、免除申請もしなかった方が30~40代で障害を負い、障害年金が不支給になっても「お気の毒ですが、しょうがないですね」としか言えない。
・ 20才学生の未納リスク
本当に悲惨なのは20才そこそこの学生が知識か注意不足で数ヶ月保険料を未納したために障害年金が受けられなくなる事態だ。この方々が、保険料未納で不支給となるリスクが高いのだ。
前回も触れたように、中卒や高卒で就職した場合は普通厚生年金に加入するので20才前後は『厚生年金加入期間中』となり、障害を負っても障害基礎年金も障害厚生年金も支給される。
また、学生でも20才未満なら前回扱った『20才前傷病』により保険料納付要件なく障害年金が受けられる。
ここで、学生が20才に到達すると保険料の納付が必要になるが、学生なら普通無収入かバイト収入程度だし、年金というとまずは老齢年金が頭に浮かび《そんな40年以上先のことを気にしても…》という方が多いのも事実だろう。
・ 20才到達直後は障害年金の納付要件がシビア
しかし、一番のネックはそこではない。こと障害年金に関しては、20才直後で厚生年金未加入という条件は、保険料の納付要件が非常に(非情に?)シビアに効いてくるのだ。
20才の誕生日が7月1日の学生がいるとする。この方は『年齢計算に関する法律』により6月30日に20才に到達するので6月分から保険料の支払いが必要になる。しかし、面倒なので年金の手続きは一切せず、保険料も納付せず放っておいたとする。
ちなみに6月分の国民年金保険料の納付期限は7月31日なので、何もせずに8月に突入してしまうとその時点で『6月分の保険料は未納』となる。
この方が、直後の8月1日に事故に遭い、重篤な障害を負った。
・ 障害年金の納付要件
ここで、障害年金が支給されるための保険料納付要件は、
初診日の前日において
① 初診日の前々月までの加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付又は免除されていること
② 初診日に65才未満であり、初診日の前々月までの直近の被保険者期間1年間に保険料の未納がない
だった。今回のケースだと、
① 初診日の前日(7月31日)において、初診日の前々月(6月)までの加入期間(1ヶ月)の3分の2以上の期間(1ヶ月)について、保険料が納付も免除もされていない
② 初診日の前々月(6月)までの1年間に保険料の未納(6月分)がある
ということで、保険料納付要件の①も②も満たせず、障害年金は不支給となってしまう。
・ 障害年金は一生もの
2024年度現在1級の障害基礎年金は年102万円(物価・賃金等により毎年改定される)。20才時点での平均余命は男性で62年・女性で68年程度だ。
この方が受傷1年6ヶ月後に1級の障害認定を受けて平均余命まで生きたとすれば、男性で6100万円・女性で6700万円程度(現在価額)を生涯で受け取れたはずだ。
この例では、7月31日までに6月分の保険料を払っておけばよかったのだ。
・ 20才到達直後の保険料納付要件
この方のように6月に20才に到達した方の場合で、障害年金が支給されるための、事故に遭った月(正確には初診日のある月)と納付要件の関係は次のようになる。
初診日 初診日の前日までに納付されているべき保険料
6月 なし(初診日が20才前なら20才前傷病)
7月 なし
8月 6月分
9月 6月・7月分
10月 6月~8月分のうち2ヶ月分
11月 6月~9月分のうちの3ヶ月分
12月 6月~10月分のうちの4ヶ月分
翌1月 6月~11月分のうちの4ヶ月分
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といった具合になる。
この表を見ると分かるように、初診日が9月の場合も同様に、納付期限が過ぎた6・7月分の保険料が納付されていることが必要だ。
初診日が10月になると、6・7月分の保険料が納付されていれば、仮に8月分が未納だったとしても『前々月までの加入期間の3分の2以上の期間について納付済み』ということになるので、1ヶ月は余裕ができる。納付期限切れですぐに不支給という事態は避けられる。
20才になった月以後12ヶ月間忘れず保険料を納付しておけば、この『3分の2』要件により6ヶ月の余裕ができる。このあと6ヶ月連続で『ついうっかり』未納という事態はまずないだろう。『20才の学生』に限定したのはその意味だ。
人間、いつ大ケガや急病で障害を負うかは分からないので、特に20才到達直後は何があっても保険料の未納だけは避けるべきだ。
学生納付特例の活用も
ここで重要なのは『未納』状態を避ければいいということで、必ずしも保険料を『納付』する必要はない。
保険料を納付するのが一番いいのだが、普通の学生には余分な収入はないし、学費も生活費も親がかりという場合には、国民年金保険料まで親に頼ることはできないという場合もあるだろう。
その場合は『学生納付特例制度』の活用をお勧めする。これは納付『猶予』制度の1つで、猶予されている期間は、障害年金に関しては月々全額納付した場合と同じ扱いになる。
もちろん制度活用には条件があるが、普通の学生ならまず条件に該当する。これについては次回で説明する予定だ。
※ 挿入
・障害年金の納付要件
5行目 前々月までの1年間に ➡ 前々月までの直近の被保険者期間1年間に '24.07.26