₁₅₂.学生納付特例制度の利用



 『学生納付特例制度』とは、学生であれば20才以上でも申請により保険料の納付が猶予される制度だ。この『猶予された期間』は障害年金の受給については、保険料を毎月毎月満額納付した場合と全く同等に扱われる。
 

定時制・通信制も可。予備校でも可能性あり

 
 ここで『学生』とは、大学・大学院・短大・高等学校・高等専門学校・特別支援学校・専修学校・各種学校等に在学する方をいう。定時制・通信制課程も含む。
 さすがに予備校はダメだろうと思いきや、その予備校が学校法人の認可を受けている場合には対象となる可能性はある。

 学生納付特例の要件は『学生であること』の他には本人の前年所得が128万円以下であることだけだ。所得が128万円以下ということは給与収入なら194万4000円未満になるので、学生ならほとんど対象になるだろう。

 ちなみに、学生であると同時に会社員等の配偶者でもある場合は『第3号被保険者』として、もともと保険料は不要だ。
 

自分で払った社会保険料は差し引ける

 
 定時制や通信制ならパートやアルバイトでも雇用保険料が引かれる場合もあるので、その金額は所得金額から差し引いてよい(昼間学生は雇用保険の対象外)。もちろん、社会保険の適用拡大等で社会保険(厚生年金)加入なら、国民年金保険料の納付は不要だ。

 20才以降何年か自活していて、自力で納付した前年の『国民年金保険料』や『国民健康保険料』がある場合は、その金額も『所得』から差し引ける。

 正確には、学生納付特例制度の認定基準所得は、次の式で決める。

本人の所得 ≦ 128万円 + 『扶養親族等の数』× 38万円 + 社会保険料控除額等

 『扶養親族等の数』ということは、学生でも扶養親族等(16才以上)がいる場合は1人につき38万円最低基準が高くなるし、単身でも障害者の場合は同様だ。
 

基準は本人の所得だけ

 
 他の免除制度は配偶者や世帯主の所得も審査対象になるが、『学生納付特例』に関しては他の家族の所得は考慮しない。
 あまり必要ないかもしれないが、どんな財閥総帥のご子息・ご令嬢でも本人の所得が基準以下なら猶予の対象になる。
 

納付可能期間は10年

 
 猶予された保険料の納付は、その後10年間可能だ。何も手続きせずに『未納』にした場合はその期間の保険料を納付できるのはその後2年間に限られるので、この違いは大きい。

 ただし、修士・博士課程に進んだり、大学を留年したりして10年間丸々この制度を活用した場合は、現在の保険料で計算しても総額204万円を超えるし、各々の月の3年後以降に納付した場合は加算額が付くので、なるべく早く納付した方がいいのは言うまでもない。
 

老齢年金の支給金額には貢献しない

 
 もちろん、この制度にはデメリットもある。
 前回お話ししたように、障害年金を念頭に置いた場合は猶予期間中も全額納付したのと同じ扱いで、学生時の補償をバックアップする強力な制度といえるが、幸いなことにその後何事もなく65才を迎え老齢年金を受給する際には、猶予期間は老齢年金の支給金額には一切貢献してくれない

 他の免除制度の場合には国庫負担分(支給金額満額の半分)は支給になる。40年間保険料を納付した場合の老齢基礎年金額は年額81万6000円(2024年度)だが、40年間丸々全額免除でも半額の40万8000円(同)は支給されるのにだ。

 もちろん猶予された分の保険料を10年以内にきちんと納付すれば、その期間は当たり前に『保険料納付済み期間』となり老齢年金の支給額にも満額反映されるが、あとで納付できなかった場合はその分の支給額はゼロになってしまうので、これは相当大きなデメリットと言っていい。
 

他の免除制度は利用できない

 
 「それなら他の免除制度を利用しよう」と思っても、学生納付特例制度の対象となる期間については他の免除制度は利用できない
 他の免除制度では、配偶者や世帯主の所得も要件に入ってくるが、これらすべてが各々の免除制度の要件に合致しても、学生はそれらの免除制度は使えないことになっている。
 つまり学生にとっては、

『保険料の全額納付』か『学生納付特例制度の利用』かの2択

で、他に選択の余地はないのだ。
 

あとから納付できなくてもペナルティーはない

 
 『あとで納付できなかったらその分の老齢年金はゼロ』というデメリットについて前々項に書いたが、逆に言うと、学生納付特例制度で猶予された保険料をあとで納付できなかったとしても、あとでその『猶予期間』が『未納期間』になったり、それが原因で障害年金が受給できなくなったりという意味でのペナルティーはない
 『猶予期間』はあくまで『猶予期間』として扱われる。

 もう少し正確にいうと法律上の建付けは、この『猶予期間』はまず『保険料全額免除期間』とされ、あとで(10年以内に)その分を納付した時点で『納付期間』となる扱いだ。ただし、国庫負担分が全くないという点で普通の『全額免除期間』とは異なる。

 いずれにしても、自分の予定通り人生が進むということは滅多にないし、奨学金も借りている場合はその返済を優先させざるを得ない場合もあるだろう。猶予期間分の保険料を予定通り納付できなかったとしても悲観することはない。その分の保険料を後で国から督促されるということもない。

 また将来60才になったときに、猶予期間が5年以内で他の期間が全て納付済み(厚生年金期間も含む)なら任意で最大64才まで保険料を支払い、老齢基礎年金を満額にすることもできる。つまりはそこで挽回することもできるので、その意味では安心して申請して良い
 

学生納付特例の手続き

 
 学生期間中など、厚生年金加入期間がない方が20才になると、日本年金機構によればおおむね2週間以内に『基礎年金番号通知書』(以前の『年金手帳』のかわり)等とともに『学生納付特例制度』などの免除・猶予制度の申請書と返信封筒が送付されるので、説明に従って申請すればよい。

 前回書いたように20才到達直後は、申請の遅れによる未納期間の発生が障害年金の保険料納付要件に与える影響が大きいので、保険料の納付・猶予の申請のいずれにしても急いで行った方がいい

 

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2024年06月21日