47.どんな家政婦が労働者?

労働時間・休日規制の 例外1
        そもそも労働者でない  続き

 今回は、家政婦と家事使用人の話。
 

⑥ 家事使用人

 前回も登場したが、労働基準法第116条2項に
           『この法律は(中略)家事使用人については適用しない
とハッキリ書いてあるので、家事使用人は労基法の適用外だ。
 ここで、   『家事使用人』 = 『家政婦』   ではない。

    家事使用人 ⊂ 家政婦    ※ 家事使用人は、家政婦に含まれる

という関係になる。
 

・家事使用人は労働者でない

 確かに一般家庭がその家の家事を行う事業所であり、労働者を使って事業として家事を行うというのは、どんな豪邸でもちょっとムリがある。

 もし、家事使用人が労働者なら、一般家庭のご主人や奥さんが監督署やハローワークに手続に行かなければならなくなる。多分、ご自分でやるのは難しいと思われるので、我々社労士の仕事が増えるのは有り難いが…。

 このように、一般家庭と個人交渉して家政婦(以下『家政夫』も含む。)として働く場合は、どう頑張っても『家事使用人』であり、労働者にはなり得ない。家事サービス紹介所等に単に『紹介』されて、個人家庭と契約する場合も同様だ。

 個人が家政婦を雇う場合のみならず、法人が雇った方で、その役職員の家庭でその家庭の指揮命令の下で家事に従事している方も家事使用人とされている。この場合はその法人から給与を支払われることになるにも関わらずだ。
 その家庭と指揮命令関係にあるからとされる。

 こうした『家事使用人』は、以前は労災保険の特別加入もできない状態で、先に特別加入の対象となっていた介護作業従事者との落差が指摘され、2018年から『特定作業従事者』として、労災保険の特別加入(任意)の対象とはなっている。
 

・事業者の指揮命令下の家政婦は労働者


 一方、家事を事業として請負う事業者に雇われて個人家庭に派遣され、事業者の指揮命令下で家事を行う家政婦は、その事業者との関係で正真正銘立派な『労働者』である。この場合はその家庭の指示は受けない。これは実際には微妙な場面もあるかもしれないが、法律上の違いとして重要な点だ。

 『個人家庭の家事を事業として請負う者に雇われ、その(事業者の)指揮命令下で家事を行うものは労働者である(家事使用人ではない)』ことになっているからだ。
 

家事代行女性に、労災認めず


 2022年9月29日、東京地裁の判決はまだ記憶に新しい。

 2015年、業務後に急死した家事代行兼介護ヘルパーの女性(当時68才)について、渋谷労働基準監督署が、女性が『家事使用人』だったとして労災を認めなかったことに対して、夫が国に対して取消処分を訴えたものだ。

 女性は東京都の訪問介護・家事代行サービス会社に『介護ヘルパー』として雇われ、利用者の家庭に約1週間泊まり込みで派遣され、2015年5月、要介護5の利用者宅で勤務後、入浴施設で急性心筋梗塞により死亡した。

 これについて、家事に関しては『会社から紹介・あっせん』される立場だった(判決による)ことから、『家事の雇用契約はこの家庭と結んでおり』家事使用人に該当すると判断。

 判決は、女性が1日計19時間(待機時間含む)の業務をしていたと認定しつつ、介護ヘルパーとしての仕事(要するに『労働者』の部分)は1日4時間半にとどまり『過重業務とは認められない』とした。

 過重労働による労災認定基準については簡単に述べられるものではないのでここでは割愛するが、確かに1日4時間半・1週間勤務で『過重労働』と考える人はいないだろう。

 ただ、人間の体は『労働者』である時間と『労働者以外』の時間とで明確に区切ってリセットできるものではない。
 

・『一体の業務』

 原告が訴えているのは、大きく次の2点だ。

① 家事と介護は会社の指示による一体の業務で、いずれも労働者と扱うのが相当。
② 家事使用人を労基法の適用外とするのは憲法違反

 係争中(控訴中)の事件について私見を挟むのは慎重にしなければならないが、①の主張については一考の余地があると思う。

 家事の部分についても会社の指示によるものだったのかどうかは事実認定の問題なので、その当否を判断する材料を持ち合わせていない者としては何とも言えないが、もし『実態として』会社の指示だったのが事実とすれば、『労働者性』は高まる。

 逆に、家事について会社の指示がなく、労働者でなかったとしても、『家事使用人』としての業務部分についても労働者としての介護労働と一連の流れの中にあったことは判決からも確からしい。この点、介護労働とは無関係に全くの私用で寝る暇なく活動していた場合と同一視していいかどうかは疑問が残る。

 『労働者』部分としての労働とそれ以外の業務、たとえばほぼ全員が参加する『自由参加』の研修や自己啓発・ボランティア活動等が一連の流れの中で一体となっているような業務様態が他の業種でもあると思われる。そうした様態への判断にも関係してくる部分があるかもしれない。

 ②については、労働基準法の適用範囲そのものを問題とするもので、これが認められれば、労働基準法だけでなく、労働者災害補償保険法・雇用保険法をはじめとする労働法規全体と関連法令の全面改訂が必要になるだろう。

※ その後の高裁判決は『₁₇₃.家事代行女性は労災・高裁で逆転判決』へ

 

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2023年04月28日