ー 47.どんな家政婦が労働者? ー で紹介した女性 ー
ー 東京都の訪問介護・家事代行サービス会社に『介護ヘルパーとして』雇われ、利用者の家庭に約1週間泊まり込みで派遣され、2015年5月、要介護5の利用者宅で勤務後、入浴施設で急性心筋梗塞により死亡 ー
について、東京高裁(水野有子裁判長)は'24年9月19日、
・ 家事部分について、要介護者の家庭との契約書がなかった
・ 女性を派遣した事業者が、介護と家事の業務を明確に区分していなかった
ことから、
『家事も派遣元の業務で、家事使用人にはあたらない』
と判断(すなわち労働者)。そのうえで、(家事を含む)勤務時間を1週間に105時間と算定。『短期間の過重業務』として労災認定を決定した。
『家事と介護は会社の指示による一体の業務で、いずれも労働者と扱うのが相当』と訴えてきた女性側の主張がおおむね認められたものといえる。
家事使用人は(労基法上の)労働者ではないが…
今回の判決でも『家事使用人は労働者にあらず』との原則が揺らぐことはなかったが、厚生労働省も'24年2月15日『家事使用人等への「家事使用人の雇用ガイドライン」等の周知及び相談等があった場合の対応について』という自治体・介護保険関係団体への通知を出すなど、家事使用人の働き方についての一定の配慮を促してた。
上記通知の中では、家事代行業者に雇われてその指揮命令の下に家事を行う者は『家事使用人』には当たらないという従来の見解とともに、
… 家事使用人については、昨今、(略)家庭での労働におけるトラブルが発生していること等の実態が一部にあることが明らかとなり、家事使用人の働きやすい環境の整備が必要となってきていることから、家事使用人本人や家事使用人を雇う家庭、家政婦(夫)紹介所等から相談があった場合には …
「家事使用人の雇用ガイドライン」(2006年厚労省公表)の周知や適切な対応をとるよう要請している。
今回の女性は判決から『家事使用人』ではなかったものの、国はそう(家事使用人と)主張してきており、こうした動きも今回の事故や裁判が契機となったものとは言えるだろう。
過重業務における脳・心臓疾患
急性心筋梗塞によって亡くなった女性について、地裁判決では介護ヘルパーとしての業務を行っていた時間(約1日4時間半)のみを労災認定に係る業務とし、『過重業務とは認められない』とされていた。
今回の高裁判決では、家事代行部分も含めて1週間に105時間の勤務と算定し、『短期間の過重業務』とした。『過労死』とも呼ばれるこの労働災害を認めるかどうかは『脳血管疾患及び虚血性心疾患(負傷によるものを除く)の認定基準』によって判断される。
認定基準は大きく次の3つに分かれる。
① 異常な出来事 (発症直前から前日まで)
② 短期間の過重業務(発症に近接した時期・発症前おおむね1週間)
③ 長期間の過重業務(発症前長期間・おおむね6ヶ月以内の時間外労働等)
③の『長期間』については、時間外労働(ここでは所定労働時間に関わらず1日8時間・週40時間を超える労働をいう。)の時間の目安が示されているが、今回対象とされた②『短期間の過重業務』については、考慮する要素として、
・ 不規則な勤務
・ 拘束時間の長い勤務
・ 出張の多い業務
・ 交代制勤務・深夜勤務
・ 作業環境
・ 精神的緊張を伴う業務
が挙げられている。
このうち、『拘束時間の長い勤務』では、拘束時間数・実労働時間数・労働密度・業務内容・休憩・仮眠時間数・仮眠施設の状況等を考慮することになっている。
裁判所はこうした行政上の基準に完全に拘束されることはないが、こうした基準に特筆すべき不備でもない限りこれをもとに判断されることが多いので、今回もおそらくこの『拘束時間』に着目したものと思う。
筆者も判決全文は残念ながらまだ見ることはできないでいるので、詳細を知ることができた段階で新たに書くことがあれば追記・または訂正させていただく予定だ。