₁₇₄.新たな障害補償給付は引き算で決める



 前回は家事代行女性の高裁判決の関係で1回お休みしたが、また通常運転に戻る。

 前々回、障害の併合の話をしたが、これは1つの事故で2つ以上の障害を負ったときの取扱いだった。
 今回は、元々障害がある方が新たに業務災害にあってさらに障害を負った場合や、障害の状態が長い間に変更した場合について考える。
 

障害の『加重』

 
 すでに身体障害(その原因は業務災害か通勤災害か私傷病かを問わない)があった方が同一部位にさらに労災保険上の障害を負った場合(『加重』という)、その後の障害によってその等級が決まる。

 ただ、障害補償給付の支給額についてはその等級の満額ということにはならずに減額される。具体的にはその災害についての支給額は次のようになる。『○○相当』としたのは、元々の障害が私傷病等によるものなら労災保険から給付は出ていないからだ。
 

① 年金相当(1~7級) ➡ 年金相当(1~7級)の場合  (例・7級 ➡ 4級

加重後の障害等級による年金額 ー 既存の障害の障害等級による年金額
 の年金

② 一時金相当(8~14級)➡ 一時金相当(8~14級)の場合(例・12級 ➡ 9級

加重後の障害等級による一時金の額 ー 既存の障害の障害等級による一時金の額
 の一時金

③ 一時金相当(8~14級)➡ 年金相当(1~7級)の場合  (8級  6級

加重後の障害等級による年金額 ー 既存の障害の障害等級による一時金の額÷25
 の年金

 
 障害補償一時金は25年分?

 
 ①・②は常識的に考えて当然という気がするが、③でいきなり出てきた『÷25』とは何か。
 

・『÷25』は、平均受給期間から

 
 これは、障害補償年金を受けた方がその後平均何年受給したかを基準に経験的に求めた期間『25年』がもとになっている。つまり、8級以下の一時金は考え方としては25年分』の補償ということだ。
 

・ 7級と8級の差は6.5倍

 
 その考え方でいくと、8級の障害補償『一時金』503日分とは、年金に直すと20.12日分/年ということになる(503日分 ÷ 25年)。つまり障害補償『年金』7級の131日分/年との間には相当の格差(約6.5倍)があることが分かる。

 なので、8級の方が加重で7級になった場合は上記③から、

131日分 ー 503日分 ÷ 25 ≒ 111日分

の年金が支給されることになる。
 

・ 元々年金なら2本立て
 

 このように、元々あった障害が私傷病や生まれつきなら新しく111日分の『障害補償年金』が新たに支給され始めるだけだが、元々の障害が過去の業務災害による場合は、その元々の障害補償給付はどうなるのか。

 この場合、上記②や③のように、元々の障害が一時金なら何事も起こらない。

 上記①で、元々の障害により『障害補償年金』を受けている方の場合は、元々の『障害補償年金』と新たな障害による差額の障害補償年金とが併給されることになる。

 たとえば、かつての業務災害で7級の障害補償年金を受けている方が、新たな業務災害によって障害が加重され、5級の障害となった場合、

5級(184日分) ー 7級(131日分) = 53日分

の障害補償年金が受けられることになるが、この場合は元々受けていた年間131日分の7級の障害補償年金はそのまま支給される。
 つまり、この方の年金は2本立てで支給されることになる。
 

・ もとになる『給付基礎日額』が違う。

 
 一発で『5級』の年間184日分の支給として以前の7級の年金はナシにすればいいと思うかもしれないが、なぜこんなややこしいことをやるかというと、別々に扱わないと色々矛盾が出てくるからだ。1つ述べると…

 前項で『かつての業務災害で…』と書いたが、この方が7級の障害を負ったのは30年前かもしれないのだ。後で述べるスライド改定の仕組みはあるので30年前から同じ金額ということはないが、この方の131日分の年金は九割方(『9割』の根拠は後日)当時の給付基礎日額がもとになっている。

 前項で新しく支給されることになった『53日分』は、今回の事故当時算定した給付基礎日額なので、もとになる金額が全く違うのだ。
 

障害の程度が変わったら(変更)

 
 障害補償年金は長い期間の給付になるので、その間には障害の程度が『変更』になることもある。その場合は新たな障害等級の年金に変わる。

 たとえば5級が3級になったら3級の年金だけが支給され、もとの5級の年金はなくなる。6級が7級に軽減した場合も同様だ。
 ここは前項の『加重』の場合とは考え方も取扱いも全く違うので、混同しないようにしたい。

 ここで、年金(たとえば7級)の受給者の障害が一時金相当(たとえば8級)に軽減したときはどうなるのか。

 その場合は障害が軽くなって『年金』相当ではなくなったことになるので年金の支給はなくなる。その代わり、8級の『一時金』503日分が最後に支給される。
 この『503日分』というのはもちろん、事故当時の503日分だ。
 

・ 一時金が年金に『変更』されることはないが…

 
 この項目『障害の程度が変わったら』の冒頭で『障害補償年金は…』と書いた。つまり筆者としてはここで『一時金』の扱いに触れる責任を回避したつもりなのだが、気になる方もいるだろうから一応触れておく。

 8~14級の『一時金』を一度もらった方の障害が自然的に変更になっても、労災保険は対応しない

 たとえば9級の『一時金』をもらった方の障害が何年かたって自然に軽くなり10級相当になったとしても『差額返せ』と言われないかわりに、8級に重くなっても差額支給はない。

 同様に『年金相当』になったとしても、一度『一時金』対象となった方の障害が自然に重くなって年金に『変更』されることはない。
 

『再発』後『治癒』の場合は可

 
 ただし『一時金』を受けた方の負傷疾病が『再発』後『治癒』した場合は、冒頭の『加重』の場合と同様に扱われるので、年金支給となることもある。

 

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2024年09月24日