46.事業主の隣の息子は労働者

労働時間・休日規制の 例外1
        そもそも労働者でない 続き

 今回は、役員や、事業主の同居の親族を見ていく。
 

③ 取締役


 ここでの『取締役』についての以下の説明は、前回の『法人代表』でないことを前提とする。たとえば代表取締役がいない有限会社の『取締役』は、代表権があるので②法人代表と同様、絶対に労働者にはなり得ない。

 さて、法人代表以外の『取締役』については、原則として労働者ではないが、代表権を持たず、実態が他の労働者と同じ働き方であり、役員報酬より賃金の方が多ければ、兼務役員として労働者と認められることはある。

 労働者と認められた場合、雇用保険料の徴収や労働保険料の申告の際には、『賃金』だけを給与として計上すればよい。
 

④ 監査

 会社の監査役に就任している場合、いかに労働者的な働き方でも、労働者と認められることは少ない。絶対ダメということはないが、会社法の『従業員との兼職禁止』規定から、取締役よりも労働者性が認められる余地が少ないのだ。

 人がいないからといって安易に従業員に監査になってもらうと、離職や労災等、何かあったときに『労働者性がない』ということで後々恨みを買う可能性もあるので、慎重にやってほしい。

 会社法上、株式の非上場会社なら、一部を除き監査は不要だ。昔は『監査』を置かなければならなかった法人も、特別な理由がなく商法の時代からの慣例で置いているだけであれば、あえて監査を置く必要はない
 

⑤ 個人事業主や法人代表の、同居の親族


 個人事業主の『同居の親族』は、原則として労働者ではない。法人代表の同居の親族も、中小企業の場合、一般的に労働者とは認められない。ここで、

『同居』とは、『(事業主と)居住及び生計を同一にしている』こと
『親族』とは、民法の規定の『6親等内の血族・配偶者及び3親等内の姻族』

とされる。
 事業主の隣の家に住んでいる息子は労働者なのに、同じ家に住んでいれば『はとこ』(いとこの子ども同士。6親等の親族)でも労働者でないというのは不合理な気もする。まあ、『はとこ』と同居している方が国内に何人いるかは知らないが。
 しかし、どこかで線引きはしなければならないので原則としてはやむを得ないのであろう。

 ただ、労働条件が他の『労働者』と一緒であり、待遇面でも優遇されている状況になければ、たとえ同居の子どもでも勿論『はとこ』でも労働者として認められ、雇用保険等もかけられる。これについては、経験上も認められなかったことはない。

 ハローワークには、役員・同居親族(ここまでの③~⑤)を労働者と認め得るかを認定する書類が常備してあるので、必要事項を記入し、労働者名簿・出勤簿・賃金台帳・雇用契約書等の証明資料とともに提出する必要がある。

 しかし、これは『他の労働者がいる』ことが前提だ。

 他の労働者がいない場合(要は、完全な同居家族経営の場合)には、『この法律(労働基準法)は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない』と、労働基準法第116条2項にバーンと書いてあるので、その事業自体が労基法の適用除外となってしまう。
 そのため、同居の『はとこ』でも労働者と認められる余地はない。
 

・『事業主』の同居の親族とは 《ちょっと詳しく》


 実務的にはここまで分かっていれば問題はない。

 当Blogは実務を重視する。読者を混乱させることになるとマズいので上では当然のように書いてきたが、会社組織の場合、法人とその代表は全く別物(法人は《自然人たる》『人』ではないので、『別人格』ですらない。)である。

 表題の『個人事業主や法人代表の、同居の親族』にしても、個人事業主はともかく、『法人代表の同居の親族』が労働者であることを直接否定する法令はない。

 労基法116条2項『この法律は、同居の親族のみを使用する事業(中略)については、適用しない』にしても、『そういう事業は労基法の適用外』と言っているだけで、他に労働者がいる場合は別の話になる。

 従って、ここからストレートに『事業主の同居の親族は(原則)労働者から除外』という結論が導かれるわけではない。

 その『同居の親族』の『労働者性』については、これとは別に考えなければならない。
 さて、『事業主』とは、『個人事業であればその企業主個人、法人であればその法人そのもの』を指すことになっている。つまり、法人の場合は『法人と同居している親族』ということになるが、『法人と同居』とか『法人の親族』とか、理論的にあり得るのか?

 雇用保険の『業務取扱要領』には、『形式的には法人であっても、実質的に代表者の個人事業と同様と認められる法人』の代表者の同居の親族も、原則、被保険者としないということが書いてあるので、この項の見出しとして『個人事業者や法人代表の…』としたものだ。

 ただ、『形式的には法人であっても、実質的に代表者の個人事業と同様と認められる』とはずいぶん失礼な言い草だ。私も、こういった専門的記事のブロガーとしては相当失礼な方だという自覚はあるが、ここまで失礼な言い回しはなかなかできない。

 なお、この雇用保険『業務取扱要領』では、このような法人の例として『個人事業が税金対策等のためにのみ法人としている場合』が示してある。よけい頭に血が上る人もいるかもしれないが、私が言ったのではないので念のため。

 一昔前、バカラ賭博で有名になった人もいたが、『形式的には法人であっても、実質的に』代表者が会社を私物化している巨大企業など世の中にたくさんある。こんな人が代表を務める巨大企業も、当然『実質的に代表者の個人事業』と扱っているのでしょうね。
 まじめな中小企業を、こういうところと同列に扱うのも逆に失礼だが。

 

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※ 誤字訂正

⑤ 個人事業主や法人代表の、同居の親族
10行目  対偶面 ⇛ 待遇面   '23.04.28
4行目   民報 ⇛ 民法     '23.07.11

2023年04月25日