45.労働時間規制のない、事業主と法人代表

 

 ここから、『1日8時間・週40時間・週1休』という労働時間・休日の例外を扱う。

労働時間・休日規制の 例外 1
        そもそも労働者でない

 前回最後にお断りしたように、これは『例外』でも何でもない。労働者でない方に労働基準法の効力が及ばないのは当たり前だ。

 ただ、ここでは『労働基準法上の』規制について言っているので、他の法律(例えば労働組合法)では、労働者に該当する場合もある。
 以下の方々は『労働者でない』ので、労働時間や休日の規制はない。

① 個人事業主
② 代表取締役等、法人代表
③ 取締役
④ 監査
⑤ 個人事業主や法人代表の、同居の親族
⑥ 家事使用人
⑦ 業務委託

 この方々は、基本的に、その事業において労働者でない。労働者でないので労働基準法は適用されない。なので、雇用保険にも入れないし、労災にあっても特別加入(あとで述べる)していない限り補償はない。もちろん法定労働時間も法定休日もない。ということは時間外割増も休日割増も深夜割増も休憩も年休もあるわけがない。

 ただ、あくまで『その事業において』なので、上記の方々例えば①個人事業主や②法人代表が別の事業にアルバイトに行けば、その別の事業において労働者となる。中小零細企業においてはそう珍しいことではない。

 逆に、従業員が出向先子会社の代表取締役に就任するような場合は、当然労働者ではなくなる。ただ、例外として親会社が100%『賃金』を支給し、出向先から一切の報酬を得ないときには、親会社との関係で雇用保険だけはそのまま存続することになる。

 どちらにしても、労災保険加入の可能性はない。もっとも、出向先が中小企業で労働保険事務組合に加入している場合は、労災『特別加入』の道はある。

 あと、労働組合の地方組織などで、トップの委員長が現職で普通に会社の仕事もしていて、書記長や会計などが組合専従(元の企業は離職や休職)という形態があるが、これも専従職員がトップ(労働組合という事業所の事業主)だと、離職やケガをしたときに労働者としての保険適用を受けられないからという側面もあるようだ。
 

① 個人事業主


 個人事業主は事業主なので労働者のはずはない。終了。としたいところだが、個人事業主といっても様々な形態がある。

 『給与の一策23・小さい企業のあれこれ』で紹介したように、あえて法人化していないだけで、大規模な事務所を構えて多くの従業員を雇用して大々的に事業を展開している個人事業もある。

 また、俗にいう『フリーランス』として各所の注文に応じて成果物を提供している場合もあるし、大工の一人親方的な働き方もある。

 『俗にいう』としたのは、『フリーランス』には定義がないので、それ以外に表現しようがないからだ。一般にライター・デザイナー・イラストレーター・プログラマー等が含まれるようだ。

 『フリーランス』の中でも、ほぼ特定の事業所と契約して請負・業務委託などを受けている場合には、一部労働者的な働き方となっている場合もある。
 そうした場合には、後で扱う『⑦請負・業務委託等』の項を読んでいただければわかると思うが、労働者として扱われる可能性はある。
 

② 代表取締役等、法人代表


 法人代表も、個人事業主と同じで『労働者』には絶対なり得ないことはお判りいただけると思う。この『法人代表』だが、代表取締役とは限らない。法人の代表者は、次のようになっている。

・株式会社   … 代表取締役
・合同会社   … 代表社員(いない場合は業務執行社員。それもいない場合は社員)
・一般社団法人 … 代表理事
・有限会社   … 代表取締役(いない場合は取締役)
・合名会社   … 代表社員(いない場合は社員)
・合資会社   … 代表社員(いない場合は社員)

 有限会社(正しくは、特例有限会社)の場合が少々ややこしいが、取締役が1人の場合は取締役が法人代表だが(この場合には『代表取締役』にはなれない。)、取締役が複数の場合はそれぞれの取締役が法人代表。

 ただし、取締役が複数いてそのうち1人を代表取締役に選任した場合(選任しなくてもよい。)は、代表取締役が法人代表である。

 振り返って株式会社の場合は、取締役が1人でも複数でも、そのうち1人は事実上必ず代表取締役でなければならず、その人が法人代表である。

 また、代表取締役が複数ということも少なくないが、その場合は各代表取締役が各々法人代表ということになる。対外的には『代表取締役社長』が代表者と捉えられるが、これは代表権の問題とは別だ。

 これら『法人代表』の方は、どう頑張っても労働者にはなりようがない
 誰かに頼まれて『代表取締役』に据えられそうになったら、喜んでばかりいないで、労働者としての一切の保護がなくなることは、頭に入れておくべきだ。

* 何が『特例』かというと、2006年の会社法施行で『有限会社』は新設できなくなったが、この時点での有限会社は特例として存続できることになったので、『特例』有限会社という。現在存在する『有限会社』は、最低でも創業18年以上の歴史があることになる。

 

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※ 一部訂正します。
『そもそも労働者でない』 12行目
 請負・業務委託等 ➡ 業務委託  '23.05.09
労組の場合の話を一部変更しました。 '24.04.30

2023年04月21日