労使の社会保険料 平均負担額は?
社会保険料は労使が負担し事業主が納付することになる。今回は労使双方の社会保険料負担について考えてみる。
ここでの『社会保険料』とは広義のそれで、労働保険料も含める。また、今回はなるべく実態に沿った形で考えたいので、一応統計資料を基にする。
・ 全国平均年収は458万円
国税庁『民間給与実態統計調査』によると、2022年の全国の給与所得者の平均年収は男性563万円・女性314万円、全体で458万円となっている。
・ 賞与はそのうち平均88万4500円(2.87ヶ月分)
また『賃金構造基本統計調査』によると、同'22年の賞与は平均88万4500円なので、年収の約19.3%・月収の2.87ヶ月分ということになる。
2003年から、賞与についても給与と同じ保険料率を適用する『総報酬制』となっている。
とにかく、この年収『458万円、内賞与88万4500円』を基準に考え、賞与を夏冬2回同額と仮定すると、
・ 平均月収30万7958円 ・平均賞与44万4450円 × 2
ということになる。この方1人について労使の社会保険料負担がいくらになるか、それぞれ計算してみる。
労災保険料は1万1450円~40万3040円
労災保険料は、企業の従業員に対する損害賠償責任保険という性格から、全額事業主負担となっていて従業員の負担はない。
また、労災保険料率は'24年に改定があったが、業種により違いが非常に大きいことも特徴の1つだ。ここでは一部の業種になるがその保険料率と、全国平均年収458万円の方を雇用した場合の年間の労災保険料を示す。
労働保険料は、申告書で給与総額の1,000円未満を切捨てたものに千分率表記の料率をかけて記載するので、これにならってここでの保険料率も千分率(‰)表記とした。
林業 52‰ 238,160円
建設業(機械取付・隧道等を除く) 9~15‰ 41,220円~68,700円
食料品製造業 5.5‰ 25,190円
交通運輸事業 4‰ 18,320円
農業又は海面漁業以外の漁業 13‰ 59,540円
清掃・火葬又はと畜の事業 13‰ 59,540円
卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業 3‰ 13,740円
その他の各種事業 3‰ 13,740円
ちなみに、現在の労災保険率の最大・最小は、
(最大)金属鉱業・非金属鉱業・石灰工業 88‰ 403,040円
(最小)通信・出版・金融・保険・出版等 2.5‰ 11,450円
になる。自動車の任意保険のように最大40%料率を上げ下げする『メリット制』が適用になる場合があるが、今回は考慮しない。また建設業は工事の種類ごとに分けて請負金額から給与額を求めるのが一般的だが、これも割愛する。
一般拠出金は91円
労働保険料ではないが、これと同時に徴収されるのが『一般拠出金』だ。これはアスベスト被害者救済のため2007年から徴収しているもので、現在の料率は0.02‰(端数切捨て)となっている。これは業種による違いはない。この場合は、
4,580,000円 × 0.02‰ = 91円
になる。これについても従業員の負担はない。
雇用保険料は一般事業で
従業員2万7480円・事業主4万3510円
雇用保険料については用途が2つにはっきり分かれている。
ザックリいうと、1つは失業時や育児休業など従業員への直接給付の原資となる部分で、この部分は労使で折半する。もう1つは雇用の維持・促進等の手立てをとった事業主への助成金等(『2事業』という)の原資となる部分で、これは事業主が全額負担する。
┏ 直接給付分 ┓
従業員 事業主 助成金等分 事業主計 納付計
一般の事業 12‰ ( 6‰ + 6‰ ) 3.5‰ 9.5‰ 15.5‰
農林水産・清酒製造 14‰ ( 7‰ + 7‰ ) 3.5‰ 10.5‰ 17.5‰
建設の事業 14‰ ( 7‰ + 7‰ ) 4.5‰ 11.5‰ 18.5‰
保険料負担 従業員 ┗━ 事業主 ━┛
458万円の年収なら、これに当てはめると労使双方の負担額は
従業員 事業主 納付額
一般の事業 27,480円 43,510円 70,990円
農林水産・清酒製造 32,060円 48,090円 80,150円
建設の事業 32,060円 52,670円 84,730円
となる。なお農水産業でも、牧場・養鶏・養豚・内水面養殖事業等は『一般の事業』として雇用保険料を計算する。
健康保険料は22万8908円ずつ(北海道)
月収が30万7958円の場合、普通は標準報酬が30万円なので、これに保険料率をかけて折半すれば各々の月々の負担額が出、これの12倍が年間給与分の負担額になる。協会けんぽの場合なら北海道で
標準報酬 保険料率 月額保険料 ÷2 折半額 ×12 年間負担額(給与分)
30万円 × 10.21% = 30,630円 ➡ 15,315円 ➡ 183,780円
になる。東京(9.98%)なら179,640円、沖縄(9.52%)なら171,360円だ。
賞与は夏冬44万2250円ずつなので、標準賞与額( ー ₁₃₉.賞与にかかる社会保険料には上限がある ー )は各々44万2000円ずつになる。したがって保険料は協会けんぽ北海道で
÷2 折半額 ×2 年間負担額(賞与分)
44万2000円 × 10.21% = 45,128円 ➡ 22,564円 ➡ 45,128円
となり、同様に東京なら44,112円、沖縄なら42,078円だ。
ということで給与分と賞与分を合計すると、労使双方の健康保険料年間負担額は協会けんぽの場合、北海道で228,908円、東京で223,752円・沖縄で213,438円ずつになる。
介護保険料は3万5872円ずつ
40~64才の介護保険料も労使折半で、健康保険の標準報酬や標準賞与額から算定する。介護保険料は'24年度で1.6%だが、協会けんぽの『保険料率表』では健康保険料と合わせた料率で計算してあるので、実際には賞与についても端数の扱いの関係で、介護分を合わせた健康保険料率で計算した方がいい。
ここでは前項と同様に計算すると、年間介護保険料の労使の負担は給与分28,800円・賞与分7,072円で合計35,872円ずつになる。地域の差はない。
厚生年金保険料は労使41万0286円ずつ
厚生年金保険料は18.3%に固定されているので、同様に計算すると、
給与分 300,000円 × 18.3% ÷2 ×12 = 329,400円
賞与分 442,000円 × 18.3% ÷2 ×2 = 80,886円
で、労使各々410,286円ずつの負担となる。
標準報酬の下限が8万8千円・上限が65万円になっているのと、標準賞与額の上限が1回150万円になっている点が健康保険との相違点なので、そこだけ気をつければあとは同じだ。
子ども・子育て拠出金は事業主のみ1万6142円
もう1つ支払義務のある社会保険料として『子ども・子育て拠出金』がある。これは『厚生年金の』標準報酬の0.36%を児童手当の原資の一部に充てるもので、事業主が全額負担する。
説例の場合は給与分12,960円・賞与分3182円で合計16,142円になる。
年間負担 従業員は70万円・事業主は75万円程度(北海道)
結局、全国平均年収458万円の従業員(40~64才)を1年間雇用した場合、労使の負担する社会保険料等は、以下のように北海道の一般の事業で1人につき従業員70万2566円(収入の15.34%)、事業主74万8549円(給与の16.34%・法定福利費)を負担し、事業主が145万1115円を納付するという結果になる。
従業員 事業主 合計 (対給与比)
労災保険料 13,740円 13,740円 ( 0.3% )
一般拠出金 91円 91円 ( 0.002% )
雇用保険料 27,480円 43,510円 70,990円 ( 1.55% )
健康保険料 228,928円 228,928円 457,816円 ( 10.21% )
介護保険料 35,872円 35,872円 71,744円 ( 1.60% )
厚生年金保険料 410,286円 410,286円 820,572円 ( 18.3% )
子ども・子育て拠出金 16,142円 16,142円 ( 0.36% )
合計 702,566円 748,569円 1,451,115円
結局、社会保険料の会社負担は51.6%・従業員が48.4%程度になる。
※ 加筆
雇用保険料は一般事業で…
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10行目 保険料負担対象者を追加 '24.05.25
メインタイトル変更
社会保険料 労使の負担は? ➡ 社会保険料 会社負担は51.6%程度
サブタイトル追加 労使の社会保険料 平均負担額は?
最終行を追加
健康保険料は22万8908円ずつ
2行目 挿入 協会けんぽの場合 '24.06.01