定額減税への対応
'24年6月から所得税と住民税の『定額減税』が始まった。
1人当たり所得税3万円・住民税1万円を上限に減税するもので、その方法は、住民税は自治体任せでいいが、源泉所得税については給与計算担当者の仕事になる。社労士も税の専門家ではないが、広く認知されているように給与計算の『専門家』ではあり、無関心ではいられない。
ここでは実際の『作業工程』を記すが、イレギュラーな場合は色々想定されるので、そうした場合は国税庁『定額減税特設サイト』を中心にご参照願いたい。
定額減税の実際
多くの給与ソフト会社からは、5月中旬にはほぼ対応ソフトが供給されたようなので、これを利用している場合は、設定間違いがない限りあまり心配はないだろう。ただ、担当者が仕組みの大枠を理解していないと従業員に聞かれたときに説明できない。
ソフトを使用していない場合や、定額減税対応ソフトが提供されない場合は、先の国税庁のサイト等でしっかり勉強する必要がある。
いずれにしても『定額減税』がなかったとした場合の所得税が正確に算定できていることが大前提となるので、改めて設定に誤りがないかの確認が大事になる。
① 対象者の抽出
会社で対応する『定額減税』の対象者は、
⑴ '24年6月1日に在籍する国内居住者で
⑵ 扶養控除等申告書を提出した人
だ。役員・従業員の区別はない。
実はこれ以外に『'24年の合計所得金額が1805万円以内の人』という要件もあるが、これを超える方も、実務的には他の方と同様に『定額減税』し、'24年分の確定申告で清算することになる。まれに所得1805万円超でも年末調整の対象となる場合もあり得るので、その場合は年末調整による。5月時点ですでに所得1805万円を超えていても同様だ。
さらに上記⑴・⑵の要件を満たしていれば、所得48万円以内の見込みの方(他の親族に扶養されている場合も含む。)も対象になる。
また、公的年金を受けている方についても、別段の扱いはない。
② 扶養親族数の確定
次に対象者の『定額減税』の上限を確定しなければならない。この上限は、本人・扶養親族各3万円となっているので、扶養親族の人数を把握しなければならない。
ここで『扶養親族』というのは扶養する親族のうち所得48万円以内の人をいう。『扶養親族等の数』にカウントされる人とは範囲が異なるので注意したい。
つまり(年末)15才以下のお子さんも含まれるし、『源泉控除対象配偶者』といわれる方でも所得が48万円超なら含まれない。この配偶者は所得が95万円以内なので普段の所得税の計算の際には『扶養親族等の数』1とカウントされるが『定額減税』の範囲には入らないのだ。範囲に入るのは正式には『同一生計配偶者』だが、この用語は事務担当者以外の方からは誤解されやすいので、あまり使わない方がいい。
とにかく今回の定額減税に関しては、所得48万円(給与収入だけなら103万円)以内の扶養親族であれば、扶養する側の所得がいくら高額でも関係ないので『所得48万円以内の扶養親族』とだけ覚えておけば間違いない。
なぜ一律48万円以内かというと、48万円を超える場合はその方自身が『定額減税』の対象者になるからだ。
こうして確定した扶養親族数から、
減税の『上限』金額 = ( 扶養親族数 + 1 )× 3万円
で、減税の『上限』が求められる。
③ 6月最初の支給時の作業
『減税』がスタートするのは6月1日なので、6月最初の支給となる給与や賞与の所得税額を、『上限』まで減額する。
ただ、独身でも所得税が3万円を超えるのは約60万円以上の給与の方なので、6月1回で減税が終了するのは、かなり高収入の方だけだ。
④ 次回以降の支給時の作業
差引ききれなかった分は、その方の上限に達するまで次回以降支給の給与や賞与の所得税から順次差引く。
イメージとしては、3万円・6万円・9万円…という『上限』となるお金を袋に入れておいて、6月以降支給のたびに本来の『所得税』の分を袋から少しずつ出して埋め合わせ、袋がカラになったらおしまい… という感じか。
もちろん、毎月納付書に書いて納税する分がそれだけ減るので、実際に会社のお金を袋に入れる必要はない。
⑤ 年末調整の作業
12月の年末調整では、定額減税がなかったとした場合の本来の所得税額から『減税の上限金額』(②が変わっていればその額)を引いた金額(正確にはこれに102.1%かけた金額)が年間で支払うべき税額になるので、これより支払った税額が多い場合は払い戻される。
6月以降所得税を払っていない方なら、払い戻されるのは1~5月に支払った所得税の一部または全部だ。④のたとえでいうと、年内最後の支給でも袋に残金があれば、1~5月に控除した所得税に充当することになる。
ここで、支払った所得税全額以上の金額が払い戻されるということは年末調整の理屈上あり得ないので、本来の所得税額より『減税の上限金額』の方が多い場合は、『袋』にまだお金が残る。
⑥ 源泉徴収票の記載
2024年の源泉徴収票には、『源泉徴収時所得税減税控除済額』と『控除外額』を記載することになるので、⑤でも袋がカラにならなければ、『残金』を『控除外額』として記載する。『給与支払報告書』でも同様だ。
『定額減税』は給付金?
会社が関与するのはここまでだ。これで話が終われば確かに『減税』だ。給与計算者のそれまでの苦労も報われる。
しかし、話はここで終わらない。実は
⑦ それでも引ききれなかった分は『調整給付』として支給
することになっているのだ。つまり、独身の場合で'24年の本来の所得税額が2万円とすると、引ききれていない3万円との差額1万円が追加で支給されることになる。
給与計算担当者から「この間の苦労は何だったの?」と恨み節が聞こえそうだ。
1回限りのことにあまり労力を使いたくないのが本音だが、実際に顧問先の事務員さんからの質問も多く、曲がりなりにも給与計算のプロとして色々勉強した。そこで調べれば調べるほどこれはこれは『給付金』ではないのか?と思うようになった。
つまり(住民税分と併せて)国民1人1人に4万円ずつ配ったのと変わらない。
個人的にはこの施策は歓迎するが、やり方として、単純に1人4万円ずつ配ればいいものを、今回のような複雑な仕組みで半年以上も難しい計算をさせ、最後には結局上限に達しなかった分を支給するのだから一体何をやりたいのか分からない。一般の会社でこんなことをやらせる上司がいたら一発で突き上げを食うはずだ。
たとえるなら、ロケットに乗って大気圏外に脱出してから再び大気圏に突入してパラシュートを開き、『ごめんください。回覧板です。』と隣の家を訪問するようなものだ。
全国300万以上の事業所で働く給与計算担当者と1700以上の自治体の職員にこのムダに対応させ、そのための労力も経費も顧みないというのは、さすが親方日の丸!と感心せずにはいられない。
もっとも、実際に対応を決定した自治体のHPを見ると、この差額と住民税の差額があればこれを合わせた金額を万単位に切上げて支給することにはなりそうだ。
有難いことはありがたいし、こんな1回限りの煩雑でムダな事務に振り回される自治体職員の方にも同情するが、差額が100円でも1万円でも1万円支給というのもどうかと思う。端数を平均すれば5,000円程度だろうから『差額+5,000円支給』とした方が公平だ。
※ 訂正・加筆
①対象者の抽出
3行目 扶養控除申告書 ➡ 扶養控除等申告書
9行目・10行目 (加筆) '24.05.09
②扶養親族数の確定
8行目 『生計同一配偶者』 ➡ 『同一生計配偶者』 '24.05.17
⑤年末調整の作業 ➡ 少し詳しくしました。内容に変更はありません。'24.05.20
メインタイトル変更
定額減税の作業工程 ➡ 定額減税 給与計算者の作業工程 '24.05.29
※ このページについては、日程の経過に従って表現を多少変更します。訂正・加筆があった場合は上でお知らせします。
最終変更 '24.05.23