給与等からの控除Ⅴ 24協定と差押命令
給与や賞与からの控除は、ー 85.給与全額払いの原則と例外 ー で書いたように原則として禁じられている。例外として認められているのが
・ 法令に別段の定めがある場合 と
・ 事理明白なものについて、労使協定がある場合
で、前回までの社会保険料や税金の控除はすべて1つ目の『法令に別段の定めがある場合』に含まれる。『法令に別段の定め』がある場合として他には行政機関や裁判所の決定による『差押え』がある。これは後半で触れる。
もう1つが労使協定による場合で『協定控除』と言われる。
⑦ 協定控除
『協定控除』とは、税・社会保険料といった、法律で控除が認められているもの以外を控除するもの。具体的には『親睦会費』・『旅行代積立』・『組合費』・『互助会費』等が多いようだ。
なぜ『協定控除』と言うかというと、これらの控除を行うためには法律上、使用者と過半数労働組合または労働者代表との『労使協定』が前提とされているからだ。
この労使協定は『賃金全額払いの原則』(労基法24条)の例外として認められているので『24協定』ともいう。これは36協定とは違い、有効期間の定めも監督署への届出も必要ないが、必要なときには提示できるようにしておかなければならない。
協定を結ぶほどのことはないというなら、一度給与を支払ってから集金した方がいいだろう。
『24協定』の中でも労働組合費を給与から差し引く協定を『チェックオフ協定』というが、労働組合がすべて組合費天引きという意味での『チェックオフ』を志向しているかといえばそんなこともなく、労働組合への帰属意識を高めるためにもあえて『手集金』にこだわっているところもあるようだ。
この『チェックオフ協定』、改めて言うほどのことでもないが『労使協定』の基本として労使両者の権利・義務を根拠づけるものではない。単に給与全額払いの例外として、協定を結んでおけば『免罰効果』が発生し処罰されることはないというに過ぎない。
いかにチェックオフ協定を結んでいても、『オレの組合費は天引きしないでくれ』という人がいれば、その方の組合費を控除することはできない。このあたりは、如何に36協定を結んでいてもそれだけで従業員に法定時間外労働をしなければならない義務が発生するわけではないのと一緒だ。
注意したいのはこの控除が、『全額払い』の例外として処罰されないための労使協定ではなく組合員と会社の権利義務を根拠づける『労働協約』にうたってあったとしても、天引きを拒否する方の組合費を控除することはできない(1993.3.25最高裁第一小法廷)ということだ。
もちろん組合員には普通、組合の規定で『既定の組合費を払わなければならない』という組合に対する義務があるはずなので、その場合は、その組合員が自分で組合費を納めることになるのだろう。
まあ、会社側としてはそこまで心配してあげる義理もなければ関知する権利もないので、個々の組合員からチェックオフを拒否されたら、その方の組合費は控除しなければいいだけの話だ。
⑧ 給与差押え
『総支給金額』からの控除というと『差押え』の場合も同様だ。限度額等については『85.給与全額払いの原則と例外』で書いたように、本人が書面で同意している場合はこれを超えることもある。正式な差押えなら『法令に別段の定めがある場合』に該当し、本人の意思に関わらず控除しなければならない。
ただ、今は架空請求事件もあり、万一企業が知らずにこれに加担してしまっていたことにでもなったら大変なことになるので、真偽はしっかり確認してその証拠も確保しておかなければならない。個人が詐欺被害にあったのと違い、企業が虚偽の差押えを信じ込んで個人の給与から控除してしまっても世間の同情は得られないだろう。
正式な差押えであれば、会社は『第三債務者』という立場に立たされる。要は裁判所や行政機関によって労働者の給与等の一部を『債権者』に引渡す『債務』を負うわけだ。もちろん、債権者に引渡せない理由がある場合は法務局に供託するという選択肢はある。
差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達されたときに生ずる
ことになっているので、この時以後『手取り』全額をその従業員に支払うことはできなくなる。万一支払ってしまっても、債権者に対する支払い義務は消えないので、最悪二重払いになる。
いずれにしてもこうした場合は、差押命令と一緒に送付される陳述書の記載とか、従業員に支払うべき金額とか、債権者に払うか法務局に供託するかとか、いろいろ考えなければならないことが多いので、不安な場合はしかるべきところで相談した方がいいだろう。
※ 訂正
⑦協定控除 26行目 規定の組合費 ➡ 既定の組合費 '24.05.14
11行目 チャックオフ ➡ チェックオフ '24.10.21