② 1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制は、建設業等、季節的に繁閑が著しい業種でよく利用されている。この制度も、前回の『1ヶ月単位変形』同様、1年以内が単位となっていればよい。
この制度では、週44時間の特例事業でも週当たり40時間が限度となるので、その期間内の総労働時間は、次に表す式に収まるようにする。1ヶ月単位変形のときの『変形期間』が『対象期間』となっているのは、そういうものかと思ってもらえばいい。
対象期間の総労働時間 ≦ 対象期間の歴日数 ÷ 7 × 40時間
期間が長いので、健康への悪影響がないようにということで、他にも規制がある。
・『1年単位の変形労働時間制』の他の要件
・ 労働時間の上限は、1日10時間・週52時間
・ 連続労働日数は6日・特定期間は最大12日(週1休)
・ 対象期間が3ヶ月超の場合は、
① 労働日数は1年あたり280日以内
② 労働時間が48時間を超える週は、
・連続3回以内で、 かつ
・その週の初日が、対象期間の初日から3ヶ月ごとに3回以内
という条件が加わる。
ここで、①対象期間が3ヶ月超の場合の労働日数『1年あたり280日以内』は、対象期間によって、正確には次の式で算定する。
対象期間の労働日数 ≦ 280日 × 対象期間の歴日数 ÷ 365日
『1年あたり280日』の原則そのものは平年・閏年の違いを問わないのでわざわざ計算する必要はないが、あえて上の式に閏年の歴日数366日を代入すると、
280日 × 366日 ÷ 365日 = 280.767…日
となって、絶対整数である労働日数は最大280日となるので、対象期間が1年の場合の労働日数限度が平年でも閏年でも同じ280日なのは妥当な措置といえる。
※ 1日8時間なら最大年260日
ただしここで、上記1年間の最大労働時間を280日(最大労働日数)で割ると、1日7時間半弱になる。1日8時間労働なら最大労働日数は年260日になるので、実務的にはこちらを使うことの方が多い。
・『特定期間』は『週1休厳守』だけの意味
特定期間でないときの『連続労働日数は6日』は当たり前のような気がするが、これは週と週をまたいでも、連続6日労働が限度という意味だ。
だから、今週の休日が日曜で、次の休日が翌週の月曜というのは、連続7日労働となるので認められない。普通の『週1休』より規制は厳しいといえる。
法定ではないが、特定期間以外の『法定休日の曜日固定』は実務的には鉄則?と言ってよい。
ただし、特に忙しい時期を『特定期間』と設定すれば、一般的な『週1休』に戻り、この『週1休』を厳守すれば、連続労働日数制限は免除される。
『特定期間』というと何かすごい期間のようだが、1年変形の『特定期間』に限っては、他の対象期間との違いはこの1点しかない。
1年変形の特定期間というと『連続12日労働が可能』というのは結構有名だが、ある週の初日を休日にして次の休日を翌週の最終日にすれば、結果的に連続12日労働も可能というだけの話だ。
『週1休』は絶対なので、週の初日が日曜の普通の会社で、たとえば土曜から翌々週の月曜まで連続労働というのは、10日間であっても許されない(この例では、2日目の日曜から8日目の土曜までの1週間に休日がないから)。
1日10時間・週52時間が絶対の上限なので、3ヶ月以上の場合の週48時間超の回数制限は、週『48時間超52時間以内』の回数制限ということになる。
・労働日・労働時間は書面で通知
期間内の労働日・労働時間については、事前に書面で通知しておかなければならないのが原則で、実務的にもカレンダーを作って全ての日について特定しておくのが普通だが、期間が長いので最初からすべて特定できないときもある。
その場合は、期間を1ヶ月以上の期間ごとに区切り、その期間ごとの労働日数・総労働時間だけ確定しておいて、それぞれの期間の30日前までに労働日・各日の労働時間を通知する方法も認められている。
確定した労働日・労働時間を変更できないことと、その解決方法は、『67.「1ヶ月単位変形」は1ヶ月以内なら可』のときと同じである。
この『1年単位の変形労働時間制』は、1ヶ月単位と違って必ず労使協定で定めて監督署に届け出なければならない。もちろん『64.労使委員会って何?』で触れたように、労使委員会で議決した場合はそれでよい。
労使協定の場合は届出が義務だが、『変形労働時間』の労使協定は届出が効力発生の『要件』ではない、そのため36協定と違って、届出が遅れても届出日前までの協定そのものが無効になることはない。
・36協定との合わせ技
建設業等では、この『1年単位の変形労働時間制』の労使協定と36協定を合わせて協定・届出することが多いが、その場合は年間の時間外労働の限度は360時間ではなく320時間になる(変形労働時間の方も36協定の方も同じ起算日で対象期間も同じ1年間の場合)。
途中退職の場合は清算
途中退職があった場合は、給与を清算して差額があれば支払うことになる。
たとえば、4月1日を起算日として対象期間1年間の、1年単位の変形労働時間制を実施している夏場忙しい事業場で、4月1日に入社し、9月30日に退社した方がいるとする。
この方の所定労働時間は、次のように定められていて、退職までその通り働いていたとする。
月 所定労働時間
4月 ~9月 各月190時間
10月~3月 各月150時間
ここで、4月から9月までの歴日数は183日なので、普通の場合の法定労働時間は
40h/週 ÷ 7日/週 × 183日 = 1045.7h
となる。
この方は、この間に190h×6で、1140時間労働している。94.3時間の超過だ。
・時給者の場合
この方が時給1200円で他に給与がなければ、1140時間分の時給(136万8000円)はすでに各月の給与として支払い済みのはずなので、追加支給分は『時間外割増』の『割増』部分だけで、
1200円/h × 0.25 × 94.3h = 28,290円
となる。
・月給者の場合
この方が月給30万円で、他に職務関連の給与がなければ、基礎賃金は
300,000円/月 × 12月 ÷ 2040h(年間所定労働時間) ≒ 1,765円/h
となるので、
1,765円/h × 1.25 × 94.3h = 208,050円
が、追加支給額になる。
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※ 訂正
・36協定との合わせ技
2行目 360時間ではな ➡ 360時間ではなく
・『特定期間』は、『週1休厳守』だけの意味
12行目 連続12日連続労働 ➡ 連続12日労働
・労働日・労働時間は書面で通知
7行目 変更できないこと・ ➡ 変更できないことと、
※ 追加
・『1年単位の変形労働時間制』の他の要件
の下に ー※1日8時間なら最大年260日ー の項を追加 '24.01.30