前回『企画業務型裁量労働制』のところで、『労使委員会』という新しい言葉が出てきた。『労使委員会』というのは、
賃金・労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び事業場の労働者を代表する者を構成員とするもの)
とされる。また、労使委員会の要件として、
・労使委員会の要件
① 委員の半数については、過半数労働組合または労働者の過半数代表者に、任期を定めて指
名されている(管理監督者はダメ)。
② 会議の内容について議事録が作成され、労働者に周知され、最低3年間保存される。
③ 招集・定足数・議事その他労使委員会の運営に必要な事項に関する規定が定められ、規定
の作成・変更は労使委員会の同意が必要となっている。
④ 労働者の委員について、委員であること・委員になろうとしたこと・委員として正当な行
為をしたことを理由に、不利益な取り扱いをしないようにする。
ことが必要だ。
・半数以上は労働者
要件①は、半数『以上』とも『以下』とも『キッカリ』とも(法律に)書いていないが、一般に『半数以上』と解釈されている。もっとも、合法ではあっても労働者委員が圧倒的になるような不均衡な機関は『労使委員会』の名に値しないので、委員の数が偶数なら労使同数、奇数なら『労働者委員』の方が1人多い位の構成になるだろう。
ただし、『労使1名ずつ』というのは禁止されているし、『2名ずつ』でも委員全員が出席しても『5分の4以上=全会一致』となってしまうので、事業所の規模にもよるが、5,6名以上が望ましいとは思われる。
・どこからきた『5分の4』
ところで、前回の『企画業務型裁量労働制』導入のように、労使委員会で一定の議決をする場合は、5分の4以上が基本となっているが、この数字はどこからきたのか。
『労使協定』の場合は、労働者の『過半数の同意』という大義名分がある。
労使委員会の場合は、基本が『半数は労働者』なので、労働者の過半数ということは、使用者側も含めた労使委員会の『4分の3』を超えている必要がある。
50%超には『過半数』という適した言葉があるが、『4分の3を超える』だと法律上の言葉としてはおさまりが悪い。『9分の7以上』(約78%)ではちょっと技巧的(わざとらし)過ぎる。そこで『5分の4以上』に落ち着いたのではないか。あくまで私の想像だ。
もちろん、実際には労働者委員は過半数代表者の指名なので、機構上はアメリカの大統領選挙人と同じで(労働者の)過半数勢力の委員総取りが普通だろうが、もし、この過半数代表者が、和を重んじる人間のできた人であれば、『過半数代表者選』に僅差で敗れた人(少数勢力代表)を、3人の労働者委員の1人に抜擢するということもあるだろう。
・外部の人材も可
ところで、『指名』ということは、事業場外から誰か弁の立つ人や専門家、具体的には本社の労組役員や社労士・弁護士等を呼んできても(委員に入れても)いいのか?
これは厚労省の見解でもはっきり認められているので、使用者側にしても労働者側にしても、事業場外の人を一部指名するのは問題ない。
労使委員会の議決は労使協定の代わりに
労使委員会の議決が絶対に必要なのは、前回の『企画業務型裁量労働制』の他には最近できた『高度プロフェッショナル制度』(後述)位しかないが、『労使委員会』はほかにも使いみちがある。
労使委員会の議決というのは、委員会構成の要件からして労使協定に比べるとずっと面倒だ。面倒な分、その議決には労使協定よりさらに重みがあるので、一部を除きこの議決をもって労使協定に代えることができる。
さらに、36協定以外は、労使協定で必須だった届出が免除される。これは結構大きいかもしれない。
まだ登場していないものも多いが、労使協定の場合と、監督署への届出の要否を比べてまとめた。
・労使委員会の議決を、労使協定の代わりにできる事項
労使協定 労使協定 労使委員会議決に
の届出 代えた場合の届出
① 1ヶ月単位の変形労働時間制導入 一部不要 一部不要 不要
② フレックスタイム制導入 必要 一部不要 不要
③ 1年単位の変形労働時間制の導入 必要 必要 不要
④ 1週間単位の変形労働時間制導入 必要 必要 不要
⑤ 一斉休憩の除外 必要 不要 不要
⑥ 時間外・休日労働(36協定) 必要 必要 必要
⑦ 代替休暇導入 必要 不要 不要
⑧ 事業場外みなし 一部不要 一部不要 不要
⑨ 専門業務型裁量労働制の導入 必要 必要 不要
⑩ 年次有給休暇の計画的付与 必要 不要 不要
⑪ 時間単位年休 必要 不要 不要
⑫ 年休中の賃金を標準報酬日額に 必要 不要 不要
※ ①は就業規則等による場合は協定不要・②は1ヶ月単位以内は届出不要・⑧は法定労働時
間内の場合は協定不要
・労使委員会の議決では、労使協定に代えられない事項
ちなみに、絶対に『労使協定』でなければダメで、『労使委員会の議決』ではその代わりにならない労使協定も存在する。次の2つだ。
① 任意貯蓄
② 賃金の一部控除
気が抜けたかもしれないが、言ったら悪いが大した労使協定ではない。
①任意貯蓄は、言い換えると『社内預金』で、従業員が任意で会社に預金することだ。この労使協定は届出も必要。ずっと昔は『社内預金』と称して給与の一部を強制的に会社に預金させ、足止めに使ったり、会社の資金繰りに使ったりという悪徳企業もあったので、『強制ではない』という証のために届出が必要となったようだ。
②賃金の一部控除も、公的保険料や税金以外に例えば社内の『親睦会費』等に充てるためのもので、24協定ともいう。この届出は元々不要だ。
次 ― 65.裁量労働制にも割増が ―
※ 一部訂正
『労使委員会の議決を、労使協定の代わりにできる事項』
4行目(フレックスの届出) 不要 ➡ 一部不要
15行目 『②は、1ヶ月単位以内は届出不要』を挿入 '23.07.07