裁量労働制の場合の割増賃金
裁量労働制の場合の割増賃金はどう計算するか。
というと、「裁量労働制で、割増賃金っているの?」と驚く方がいる。さすがにこのBlogの読者にはいないと思うが、裁量労働制でも割増賃金は発生する。
裁量労働制の場合、『労働時間とみなす』時間は、労使協定なり労使委員会の議決なりで決めた『1日当たり』の時間なので、その賃金は、勤務日の『労働時間として算定した1日当たりの時間』労働したときに支払われる『1日当たり』の賃金となる。
つまり、それ以外の労働義務のない休日(法定休日はもちろん所定休日も含む。)に労働した場合や、勤務日・休日に関わらず、その労働が深夜時間帯に及んだ場合も割増賃金が必要になる。
もちろん、みなした『1日当たりの労働時間』が元々法定労働時間の8時間を超えている場合は、勤務日についても、日々超えている分の時間外労働割増が必要だ。
・月影さんの場合
ここでは、所定労働時間1日8時間・基礎賃金3,000円/hの場合で考える。
つまり、
時間外労働単価 3,750円/h
休日労働単価 4,050円/h
深夜割増単価 750円/h
の場合だ。ここで、
『労働時間として算定した1日当たりの時間』が9時間30分とする。
・勤務日の労働
通常の勤務日については、実際の労働時間が何時間であっても、常に1時間30分の時間外労働があったものとして割増賃金を計算する。つまり、
3,750円/h × 1.5h = 5,625円
これが、労働時間に関わらず毎勤務日発生する。
・深夜労働
ただし、これは実労働時間がすべて5時から22時までに収まっている場合なので、ここからはみ出している場合は、はみ出した分の『深夜労働割増』が必要になる。
たとえば、9時から休憩1時間を挟んで23時まで労働した場合は、この13時間の労働そのものは、1日の労働時間として算定した9時間30分として計算するが、22時以降にはみ出した1時間分は『深夜労働』なので、
750円/h × 1h = 750円
の深夜割増が必要になる。
裁量労働制については、『労働時間が算定しがたい』わけではないので、深夜労働に限らず、実労働時間をしっかり把握しておかなければならない。次の『休日の労働』についても同様だ。
・休日の労働
ここで『法定休日』とも『所定休日』とも書かなかったのは、『裁量労働制』そのものが勤務日を前提としているからだ。休日であればどちらにしても労働義務がないので、『裁量労働制』の範疇には入らないということになる。
従ってこの場合は原則に戻り、休日にその方が3時間労働したとすれば、その休日が『法定休日』であれば、
4,050円/h × 3h = 12,150円
の割増賃金となる。
『所定休日』なのであれば、その週に他に5日労働していれば『法定時間外労働』となるので、
3,750円/h × 3h = 11,250円
の時間外割増となる。
祝日等があってその週の他の労働日が4日だったなら、1日のみなし労働時間
9.5h/日 × 4日 = 38h
が、この4日間で労働時間と『みなされ』た時間となるが、このうち6時間分(1.5h/日×4日)分はすでに『法定時間外』の計算に入っているので、週の法定時間内としての労働時間はここまでで32時間となる。
結果的に、裁量労働制でない場合と同様に、この所定休日の3時間の労働は、すべて『法定内残業』となり、
3,000円/h × 3h =9,000円
が、その日の分の賃金となる。
もちろん、これら休日の労働中に、深夜時間帯に行われた部分があれば前述の『深夜割増』の対象ともなる。
裁量労働制の注意点
裁量労働制を取り入れるうえでの注意点をいくつか挙げておく。
・年休等は普通通り付与
裁量労働制の場合は、平日(勤務日)の労働時間を『みなし』で運用することの他は、基本的にすべて一般的な場合と同様に考えればよい。
なので、一般と同じく年次有給休暇は法定通りに付与。入社半年経過後年間5日の年休付与は義務となる。
・休憩は『みなし』時間基準
休憩も同様だが、裁量労働制の場合の労働時間は『みなし労働時間』で考えるので、この時間が6時間超8時間以内なら45分以上、8時間超なら1時間以上の休憩を取らせなければならない。
つまり、『みなし労働時間』が8時間の方が、たまたま手際よく6時間以内にその日の労働を終えても、その日の勤務時間の途中に45分以上休憩を挟む必要がある。
また、休憩を取るタイミングについては、一斉休憩は普通ムリだろうから、一斉休憩が除外になっている業種以外では、労使協定か、前回触れた労使委員会の議決で『一斉休憩の除外』を定めなければならないことになる。
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